こうした考えをドラマにしたのが、イギリス系ユダヤ人作家I・ザングウイル(Israel Zangwill, 1864-1926)の「ルツボ(The Melting Pot)」(1908年)である。
物語のクライマックスで登場人物のデビッドとヴェラがアパートの屋上からニューヨークの街を見おろしながらいう。
「デビッド:ここに偉大なルツボが横たわっている。きいてごらん。君には、どよめき、ぶつぶつとたぎるルツボの音がきこえないかい。……あそこには港があり、無数の人間たちが世界のすみずみからやってきて、みんなルツボに投げこまれるのだ。ああ、なんと活発に煮えたぎっていることか。ケルト系もラテン系も、スラヴ系もチュートン系も、ギリシア系も、シリア系も。――黒人も黄色人も――。
ヴェラ:ユダヤ教徒もキリスト教徒も――。
デビッド:そうだよ。東も西も、北も南も、……偉大な錬金術師が聖なる炎でこれらを溶かし、融合させている。ここで彼らは一体となり、人間の共和国と神の王国を形成するのだ。……」
【『プラグマティズムの思想』魚津郁夫〈うおづ・いくお〉(ちくま学芸文庫、2006年/財団法人放送大学教育振興会、2001年『現代アメリカ思想』加筆、改題)】
イズレイル・ザングウィルとの表記はWikipediaに倣(なら)った。イスラエルが人名になるとイズレイルと発音するのだろうか? 不明である。
ケルト系はアイルランド・スコットランド系で、ラストネームに「マック」(Mac、Mc)の付く人が多い。McDonald(マクドナルド)やMcGREGOR(マクレガー)など。ラテン系は中南米(ヒスパニック、ラティーノとも称する)。スラヴ系はロシア、ウクライナ、チェコ、クロアチア、ブルガリアなど。チュートン系はゲルマン民族の一部。
イズレイル・ザングウィルの戯曲『坩堝』(るつぼ) pic.twitter.com/EalCZgc4Mi
— 小野不一 (@fuitsuono) 2015, 4月 20
最近では「溶け合う」意味を嫌って「人種のサラダボウル」ともいう。私としては「坩堝」(るつぼ)に軍配を上げたい。ピルグリム・ファーザーズが求めた(信仰の)「自由」と、アメリカという国家を共同体たらしめる「正義」には、やはり坩堝の熱が相応(ふさわ)しいと思うからだ。
生き生きとした言葉から時代の熱気が伝わってくる。アメリカは夢が実現できる国でもあった。多様な人々が共存するところにアメリカの強味がある。
そのアメリカが新自由主義によって滅びつつある。物づくりをやめ、国民皆保険制度を失い、大統領は石油メジャーやウォール街に操られるようになってしまった。ソ連はアフガニスタン侵攻(1979-89)が原因で滅んだ。アメリカもまたアフガニスタン(2001-)を攻めて滅ぶ可能性があると思う。アフガニスタンは3000年以上も戦争や紛争に耐えてきた国だ。そう簡単には敗れない。
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