2008-11-16

ゲーデルの生と死/『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』高橋昌一郎


『死生観を問いなおす』広井良典

 ・ゲーデルの生と死
 ・すべての数学的な真理を証明するシステムは永遠に存在しない
 ・すべての犯罪を立証する司法システムは永遠に存在しない
 ・アインシュタイン「私は、エレガントに逝く」
 ・クルト・ゲーデルが考えたこと

『理性の限界 不可能性・確定性・不完全性』高橋昌一郎
『知性の限界 不可測性・不確実性・不可知性』高橋昌一郎
『感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性』高橋昌一郎

宗教とは何か?
必読書 その三

 ゲーデルの不完全性定理入門。これは良書。新書でこれだけの内容を盛り込めるのだから、高橋昌一郎の筆力恐るべし。ただ、読点が多過ぎるのが気になった(「、ゲーデルが、」が目立つ)。

 巻頭でゲーデルの人生がスケッチされているが、これまた秀逸。一気に引き込まれる――

 クルト・ゲーデルは、1978年1月14日、71歳で生涯を閉じた。死亡診断書に記載された死因は、「人格障害による栄養失調および飢餓衰弱」である。身長5フィート7インチ(約170センチメートル)に対して、死亡時の体重は65ポンド(約30キログラム)にすぎなかった。死の直前のゲーデルは、誰かに毒殺されるという強迫観念に支配された。そのため、食事を摂取できなくなり、医師の治療も拒否して、自らを餓死に追い込んだのである。彼は、椅子に座ったまま、胎児のような姿勢で亡くなっていた。
 3月3日、ゲーデルの追悼式典が、プリンストン高等研究所で開催された。司会を務めた数学者アンドレ・ヴェイユは、「過去2500年を振り返っても、アリストテレスと肩を並べると誇張なく言えるのは、ゲーデルただ一人である」と述べた。このような賛辞は、ゲーデルにとって生存中から珍しいものではない。
 すでに1950年代、高等研究所所長だったロバート・オッペンハイマーは、入院中のゲーデルの担当医師に向かって、「君の患者は、アリストテレス以来の最大の論理学者だからね」と声をかけている。70年代には、物理学者ジョン・ホイーラーが、「アリストテレス以来の最大の論理学者と呼ぶくらいでは、ゲーデルを過小評価しすぎだ」と述べている。天才的と呼ばれる数学者や物理学者にとっても、ゲーデルは、さらに別格の天才だったのである。
 1929年、23歳のゲーデルは、ウィーン大学博士論文で「完全性定理」を証明した。この定理は、古典論理の完全性を表したもので、アリストテレスの三段論法に始まる推論規則が完全にシステム化されることを示している。つまり、ゲーデルは、完全性定理によって古典論理学を完成させたのであり、この時点でアリストテレスと肩を並べたと言っても、過言ではない。
 その翌年、24歳のゲーデルは、「不完全性定理」を証明した。この定理は、古典論理とは違って、自然数論を完全にシステム化できないことを表している。一般に、有意味な情報を生み出す体系は自然数論を含むことから、不完全性定理は、いかなる有意味な体系も完全にシステム化できないという驚異的な事実を示したことになる。オッペンハイマーが「人間の理性一般における限界を明らかにした」と述べたように、不完全性定理は、人類の世界観を根本的に変革させたのである。

【『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』高橋昌一郎〈たかはし・しょういちろう〉(講談社現代新書、1999年)】

 で、不完全性定理だ。昨今の科学本には、量子力学と共に必ず登場する。いやはや私も衝撃を受けた。心底驚いたよ。

 本物の学説は、それまでの研究成果を台無しにする破壊力に満ちている。それは、まさしく「革命」の名に値する。何とはなしに、「ブッダやイエスが説いた教えを初めて聞いた人々も、こんな衝撃を受けたんだろうな」と思ってしまうほど。

 数学が神の領域に達する様相は、実にスリリングで脳味噌が激しく揺さぶられる。



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