・『罪』カーリン・アルヴテーゲン
・陰影の濃い北欧ミステリ
・『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン
・『声』アーナルデュル・インドリダソン
・『湖の男』アーナルデュル・インドリダソン
・『厳寒の町』アーナルデュル・インドリダソン
・『許されざる者』レイフ・GW・ペーション
・ミステリ&SF
「子どもは哲学者だ。病院で、娘に訊かれたことがある。なぜ人間には目があるのかと。見えるようにだとぼくは答えた」
エイナルは静かに考えている。
「あの子はちがうと言った」ほとんど自分だけに言っているつぶやきだ。
それからエーレンデュルの目を見て言った。
「泣くことができるようによと言ったんです」
【『湿地』アーナルデュル・インドリダソン:柳沢由実子〈やなぎさわ・ゆみこ〉訳(東京創元社、2012年/創元推理文庫、2015年)】
アーナルデュル・インドリダソンはアイスランドの作家で北欧ミステリを牽引する一人だ。エーレンデュル警部シリーズは15作品のうち4作品が翻訳されており、今のところ外れなし。ロシア文学同様、登場人物の名前に馴染みがなく覚えるのに難儀する。取り敢えず名前は声に出して読むことをお勧めしよう。
北欧ミステリは陰影が濃い。そして内省的である。島国のせいかどこか日本と似たような印象もあるが、影の深さは非行と犯罪ほどの違いがある。例えばエーレンデュルの子供は二人とも別れた妻が引き取ったが姉のエヴァ=リンドは薬物中毒で弟のシンドリ=スナイルはアルコール依存症だ。
「泣くことができるようによ」――年を取ると泣くことが少なくなる。悲哀に耐える精神力はやがて柔らかさを失う。泣いてしまえばその後に必ずリバウンドがある。跳躍するためには屈(かが)む必要がある。涙は精神の屈伸なのだろう。涙を失った瞳の乾いた大人になってはなるまい。
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