2014-05-07

「年次改革要望書」という名の内政干渉/『拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる』関岡英之


 ・「年次改革要望書」という名の内政干渉

日下公人×関岡英之
郵政民営化は小泉さんが考えたんじゃない

年次改革要望書』は単なる形式的な外交文書でも、退屈な年中行事でもない。アメリカ政府から要求された各項目は、日本の各省庁の担当部門に振り分けられ、それぞれ内部で検討され、やがて審議会にかけられ、最終的には法律や制度が改正されて着実に実現されていく。受け取ったままほったらかしにされているわけではないのだ。
 そして日本とアメリカの当局者が定期的な点検会合を開くことによって、要求がきちんと実行されているかどうか進捗状況をチェックする仕掛けも盛り込まれている。アメリカは、日本がサボらないように監視することができるようになっているのだ。
 これらの外圧の「成果」は、最終的にはアメリカ通商代表部が毎年3月に連邦議会に提出する『外国貿易障壁報告書』のなかで報告される仕組みになっている。アメリカ通商代表部は秋に『年次改革要望書』を日本に送りつけ、春に議会から勤務評定を受ける、という日々を過ごしているわけである。

【『拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる』関岡英之(文春新書、2004年)以下同】

 10年前の本だがまったく古くなっていない。というよりはTPP締結を控えた今こそ本書が広く読まれるべきだ。関岡は基本的に取材を行わない。オフィシャルな情報だけを手掛かりにして、アメリカの内政干渉と日本政府の欺瞞を暴く。個人的には「保守の質を変えた」一書であると考える。日本人であれば心痛を覚えない人はいるまい。「敗戦」の意味を思い知らされる。半世紀という時を経ても尚、日本はアメリカ各地の州以下の扱いを受けており、文字通りの属国である。この国は独立することを阻まれているのだ。

 年次改革要望書は宮澤喜一首相とビル・クリントン米大統領との会談(1993年)で決まったものだが、日米包括経済協議(1993年)、日米構造協議(1989年)に淵源がある。ということはバブル景気の絶頂期にアメリカが動き出したわけだ。プラザ合意(1985年)に次ぐ攻撃と考えてよかろう。

牛肉・オレンジ自由化交渉の舞台裏

 アメリカによる外圧のわかりやすい例が紹介されている。

 日本の国内では、建築基準法の改正や住宅性能表示制度の導入は、阪神・淡路大震災での被害の大きさからの反省や手抜き工事による欠陥住宅の社会問題化などがきっかけとなって日本政府内で検討が始められ、導入が決定されたものだと理解されている。それは日本の国民の安全と利益のためになされたはずだ。
 しかし実はこれらの法改正や制度改革が、日本の住宅業界のためでも消費者のためでもなく、アメリカの木材輸出業者の利益のために、アメリカ政府が日本政府に加えた外圧によって実現されたものであると、アメリカ政府の公式文書に記録され、それが一般に公開されている。

 日本国民はおろか政治家だって知らなかったことだろう。政府が二つ返事で引き受けて、官僚が具体的な法案を作成しているに違いない。マスコミがこうした事実を報道することもない。日本の新聞は官報なのだろう。日本で民主主義が機能しないのは情報公開がなされていないためだ。むしろ情報は統制されているというべきか。

 1987年にアメリカの対日貿易戦略基礎理論編集委員会によってまとめられた『菊と刀~貿易戦争篇』というレポートがある。執筆者名や詳しい内容は公表されていないが、アメリカ・サイドから一部がリークされ、その日本語訳が出版されている(『公式日本人論』弘文堂)。
 この調査研究の目的は、日本に外圧を加えることを理論的に正当化することだった。そして結論として、外圧によって日本の思考・行動様式そのものを変形あるいは破壊することが日米双方のためであり、日本がアメリカと同じルールを覚えるまでそれを続けるほかはない、と断定している。つまり、自由貿易を維持するという大義名分のためには、内政干渉をしてでもアメリカのルールを日本に受入(ママ)れさせる必要がある、と主張しているのである。
 このレポートの執筆者のひとりではないかと推測されるジェームズ・ファローズは『日本封じ込め』(TBSブリタニカ)というエッセイのなかで「叫ぶのをやめて、ルールを変えよう」という有名なせりふを吐いた。こうした声が、アメリカのルールを強制的に日本に受け入れさせること、もっと露骨に言えばアメリカの内政干渉によって日本を改造するという、禁じ手の戦略を正当化することになったのである。そしてそこから導き出されたアメリカの政策こそ、「日米構造協議」と呼ばれる日本改造プログラムに他ならない。

 ジェームズ・ファローズはジミー・カーター大統領のスピーチライターを務めた人物だ。アメリカの傲慢は戦勝国意識とプロテスタント原理主義に支えられている。ま、原爆投下を一度も謝罪しないような国だ。我々黄色人種を同じ人間としては見ていないのだろう。

 鳩山由紀夫首相が年次改革要望書を斥(しりぞ)けた。そして直ぐに小沢一郎と共に葬られた。その後TPPと名前を変えて再びアメリカは日本に要求を突きつけているのだ。当初は「聖域なき関税撤廃が前提なら参加しない」としていた安部首相も態度を180度変えた(田中良紹)。

 今ニュースとなっている憲法解釈の閣議決定もアメリカからの要求であり命令だ。彼らは日本を再軍備するつもりだ。


自由競争は帝国主義の論理/『アメリカの日本改造計画 マスコミが書けない「日米論」』関岡英之+イーストプレス特別取材班編

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