2016-02-04

プロ野球界の腐敗/『賭けるゆえに我あり』森巣博


天才博徒の悟り/『無境界の人』森巣博

 ・ギャンブラーという生き方
 ・プロ野球界の腐敗

『福本伸行 人生を逆転する名言集 覚醒と不屈の言葉たち』福本伸行著、橋富政彦編
『福本伸行 人生を逆転する名言集 2 迷妄と矜持の言葉たち』福本伸行著、橋富政彦編
『真剣師 小池重明 “新宿の殺し屋"と呼ばれた将棋ギャンブラーの生涯』団鬼六

 十数年以上も昔の話だ。読売ジャイアンツが、まだオーストラリアのクイーンズランド州で、シーズン前のキャンプをはっていた頃だった。(中略)
 その時、ゴールドコーストのカシノで、わたしが裏目張りを仕掛けようとした相手は、二人ともやくざ風だった。とりわけ、ごつい肩から直接頭が生えている歳(とし)上の男の風貌は、まるで「その筋(スジ)の人」のものである。きっと背中には、高価な絵が描かれているのであろう。でも、それも気にしない。
 じつは、裏目張りを仕掛けだす以前のこの二人の会話から、わたしは多くを学んでいた。
 たとえば、阪神タイガースが好調なシーズンは、関西の諸組織のシノギが厳しくなる、とか。野球賭博でハンディを切る人は、ひとシーズンで5000万円を超す報酬を胴元から得ることもある、とか。ハンディ師も、元を辿れば、結局ある一人の人物に行き着く、とか。その人物とは、いまは亡き往年の名選手Aである、とか。
 博奕打ちなんて荒(すさ)んだ生活をしている、とお考えでしょう。とんでもない。博奕打ちは、日々是学習。バカラ勝負卓にも、新しい知識がごろごろと転がっているものなのだ。
 毎日がお勉強。笑わないで下さい。と書きながら、自分で吹き出してしまった。
 日本のプロ野球に関するさまざまで貴重な裏知識を提供してくれた二人組だったが、勝負となれば、また別だ。感謝しつつも、わたしは全力を傾け、二人組を叩こうと試みる。

【『賭けるゆえに我あり』森巣博〈もりす・ひろし〉(徳間書店、2009年/扶桑社、2015年)】

 読んだ瞬間に清原と元木の顔が浮かんだ。「やんけ」という大阪弁も出てくる。二人は岸和田出身だ(『愚連 岸和田のカオルちゃん』中場利一)。もちろん確証はない。

「ハンディを切る」の意味がわからないので調べた。

「この数字こそが、野球賭博で最も重要となる『ハンデ』です。例えば巨人-横浜なら、大半の人は巨人が勝つと思うでしょうし、実際そうなることが多いから、胴元が実力差のあるカードの度に損をしてしまう。それを防ぐために片方に賭けが集中しないようにする仕組みです」

 当然ながら弱いと見られる側にハンデが加点される。

 例えばAチームからBチームに1.2のハンデが出たとする(A 1.2→B)。このハンデの数字と、試合の得点差によって動く金額が決まる。

 点差からハンデを引いた結果、1点以上の差がついていれば文句なく勝ちとなるが、1点未満になった場合は、その小数点以下の数字に従って配当金が割り引きして支払われる。

 客がA勝利に10万円を張った場合で考えてみよう。Aが3点差で勝った場合、3-1.2=1.8となり、1点以上の差がつくので客は10万円の丸勝ちになる。Aが2点差で勝った場合は、2-1.2で0.8の勝ち。Aに張った客の勝ちになるが、儲けは賭け金の80%の8万円に減額される。

 同じ理屈で、Aが1点差の勝利なら、1-1.2でマイナス0.2。客は負けになるが、負け金額は20%の2万円で済む。試合が引き分け、または負けなら、全額の10万円を取られてしまうことになる。

野球賭博のハンデ 弱者に張っても勝てると思える絶妙な設定

 清原ほどではなくとも、長く球界のブランドを保ってきた巨人の選手にも黒い人脈が群がってきた。清原と時同じく99年には当時コーチだった篠塚利夫(改名後は和典)が、タニマチだった暴力団関係者の“車庫飛ばし”に深くかかわっていた疑惑が報じられ、また清原の盟友・桑田真澄も巨人のチームメイトと共に博徒系暴力団として知られる酒梅組の大幹部とクラブで遊ぶ写真をスッパ抜かれ、野球賭博への関与疑惑が囁かれた。

「野球賭博のハンデを切るためにも、連中はあらゆる手段を使って選手に食い込んでいる。選手の後見人と称して一緒に酒を飲みながら、いろんな情報を得るのは、昔からの常套手段」(スポーツライター)

暴力団から一流企業社長まで、芸能人、スポーツ選手“裏の後見人”の素顔

 清原が覚醒剤所持容疑で逮捕された。『週刊文春』が疑惑を報じたのは2014年の3月のこと。逮捕が遅れたのは警察の匙(さじ)加減によるものなのか。メディアは「汚れた英雄」を叩くのが大好きだ。落差が大きければ大きいほど大衆は昂奮する。英雄への依存を省みることのない大衆は、「なぜ?」を連発するメディアに釘付けとなる。ご苦労なことだ。ツイッターの方がはるかに軽妙である。





 野球賭博が伝統的に行われているとすれば、カネで釣られたり、あるいは脅されたりして、インチキをする選手も少なからずいることだろう。純粋な運に賭ける博奕(ばくち)でイカサマがまかり通っているのだから、資本主義の自由競争が絵に描いた餅であることが知れよう。「相手を騙すこと」は脳の最も高次な機能なのである。

賭けるゆえに我あり(森巣博ギャンブル叢書2)

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