グレッグ・ルッカ作品はハズレがない。今のところは。読み終わると本の厚みに驚く。「一気に読んでしまった」という爽快感と、「それほど内容があったとも思えないが」というものと。私の中でグレッグ・ルッカは5番打者と6番打者の間に位置する。
今回ガードする要人は煙草メーカーの裁判を左右する重要な証人である。彼は健康被害の証拠を握っていた。巨大企業vs告発者という構図と共に、警備保障会社(ナタリーの父親)vsフリーランス(アティカス・コディアック)という二重構造となっている。
前作で別れたブリジット・モーガンは登場しない。その穴をエリカが埋めている。
「あの人は逆らわれるのが嫌いなのよ」
「たぶんあの御仁には、そういうことがもっと頻繁に起こるべきだ」
【『暗殺者(キラー)』グレッグ・ルッカ:古沢嘉通〈ふるさわ・よしみち〉(講談社文庫、2002年)以下同】
今回の依頼はナタリーの父親からの依頼だった。で、チームにはナタリーも加わった。ま、これだけで展開は読める。ナタリーとの気まずいやり取り。そして心はブリジットを思い、さ迷う。私の好みではないが、ネオ・ハードボイルドの流れを汲んでいるのだろう。
「10人のうちのどいつだ?」
「男の名は未詳――ジョン・ドウ(身元不明人)というのが仮の名だ」
暗殺者は世界ランキングでトップ10に入る凄腕だった。凄すぎて漫画みたいだ(笑)。リアリティを欠いている。こういうところが、まだまだ甘い。
わたしはボトルを見つめ、その気になれば自分がいかにひねくれた小心者になれるか垣間(かいま)見て、身が縮む思いがした。
これぞアティカス・コディアックという科白(せりふ)だ。アルバート・サムスンを若くしたような印象もある。
・『A型の女』マイクル・Z・リューイン:石田善彦訳
前作で戦ったSAS(英国陸軍特殊空挺部隊)の隊員も出てくるので、やはりシリーズ物は順番で読んだ方が楽しめる。
両手が痛くなり、自分が拳をかたく握りしめていたことに気づいた。もし炭でも握っていたら、いまごろダイヤモンドに変わっていたにちがいない。
傷心の男が次々と襲いかかる難関を乗り越えてゆく様が心地いい。プロットの粗雑さを声高には言うまい。ただエンタテイメントを楽しめばいい。若きグレッグ・ルッカへの期待は大きい。
・妊娠中絶に反対するアメリカのキリスト教原理主義者/『守護者(キーパー)』グレッグ・ルッカ
・皮肉な会話と皮肉な人生/『奪回者』グレッグ・ルッカ
・作家の禁じ手/『耽溺者(ジャンキー)』グレッグ・ルッカ
0 件のコメント:
コメントを投稿