・『浪費をつくり出す人々 パッカード著作集3』ヴァンス・パッカード
・なんとなくインチキ臭い
・『シミュラークルとシミュレーション』ジャン・ボードリヤール
(※アフォリズムの)意表をついて、ズブリと短刀を刺しこんでくる言葉のスリル、通説をズドンとひっくりかえす言葉の回転ワザに他愛もなく快感を覚えていた。しかし、2~3年で、すぐに倦きてしまった。「寸鉄人を刺す」青白い刃のような言葉も、すこし落ち着いて眺めると、いくらでも、その逆なことを言えることに気づいたからだ。
こうなると、警句の逐一が、やたら、もっともらしく偉ぶっているように見えてきて、もう駄目なのである。
【『本の読み方 墓場の書斎に閉じこもる』草森紳一〈くさもり・しんいち〉(河出書房新社、2009年)】
窓の向こうの夕日を眺めながら開いたページにこんな件(くだり)があった。そして今、マーシャル・マクルーハン著『メディア論 人間の拡張の諸相』を思うと、草森の指摘がピタリと符合するのだ。
数十ページ読んだあたりから私の鼻は嫌な臭いを嗅ぎとった。洗練された言葉の羅列はどれ一つ肚にズシリとこない。重量を失った思考は飛散する。しかし花火のような情緒はない。ただネオンサインのような刺激があるだけだ。
今まで同じような印象を受けた人物としては、ジャン・ボードリヤール、ジョン・グレイなどを挙げることができる。多分、ジョン・メイナード・ケインズも同様のタイプだと思う。彼らは一様に芸達者なのだ。ジャン、ジョン、ジョン。
現代の若い学生たちは電気によって構造化された世界で成人する。それは車輪の世界でなく電気回路の世界である。断片の世界でなく統合パターンの世界である。現代の学生たちは神話と深層の世界に生きている。しかしながら、学校では分類された情報にもとづいて組織された状況に出会うのである。
【『メディア論 人間の拡張の諸相』マーシャル・マクルーハン:栗原裕〈くりはら・ゆたか〉、河本仲聖〈こうもと・なかきよ〉訳(みすず書房、1987年)以下同】
実に巧みな表現であるのだが前半と後半が結びつかない。「電気によって構造化された世界」と「神話と深層の世界」との脈絡がわからない。
「メディアはメッセージである」というのは、電子工学の時代を考えると、完全に新しい環境が生み出されたということを意味している。
私は断然、小田嶋隆に軍配を上げる。
・メディアは“下水管”に過ぎない/『無資本主義商品論 金満大国の貧しきココロ』小田嶋隆
機械は自然を芸術形式に変えた。はじめて人間は自然を審美的および精神的価値の源泉として見るようになった。
それは砂漠から生まれた宗教を信じている西洋世界の連中に限られた話だろうよ。
現代は不安の時代である。電気の内爆発のために、いかなる「視点」とも無関係に関与と参与を強いられるからだ。
これ、テレビのことを言ってんのかね? 「一億総白痴化」(大宅壮一〈おおや・そういち〉)の方がわかりやすい。
人間の結合と行動の尺度と形態を形成し、統制するのがメディアに他ならないからである。
これは理解できる。ただし生活におけるコミュニケーションの影響が抜け落ちている。
印刷は16世紀になると個人主義と国家主義を生み出した。
メディアを中心に論じて印刷を過大評価している。個人主義と国家主義を生み出したのは「私有」の概念であり、資本主義経済の影響の方が大きい。
電気の速度に特徴的な瞬間性と拡散性とが課せられている。けれども、果てしなく平面が交叉する同心円というのは、洞察に必要なものだ。
マクルーハンの文章こそ「電気的」である。
電気の技術が最初に生み出したものは不安であった。いま、それは倦怠を生み出しているように見える。
俺も疲れたよ(笑)。先ほど偶然、マクルーハンの動画を見つけたのだが、私の印象は変わらぬどころか強化された。やっぱりインチキ野郎に見えて仕方がない。
ま、古典といわれ、称賛の声が圧倒的に多い本なので、悪い評価をすることも無意味ではあるまい。一つだけ書評を紹介しておく。
・DESIGN IT! w/LOVE
確かに文字→印刷技術→メディア→インターネットは情報伝達のスタイルとスピードを変えた。とはいえ、結果的には情報発信者の増大に伴って世界はフラット化へ向かっているような気もする。その一方で「もの言えぬ民」が「ものを言える」ようになったわけだが、メッセージそのものが既にメディアからの影響を受けており、思想的格闘の欠如が明らかだ。もちろん私も含まれる。
ま、そんなわけだ。
メディア論―人間の拡張の諸相
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マーシャル マクルーハン
みすず書房
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・あらゆる事象が記号化される事態/『透きとおった悪』ジャン・ボードリヤール
・煩悩即菩提/『新板 マーフィー世界一かんたんな自己実現法』ジョセフ・マーフィー
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