・『銀と金』福本伸行
・本当のオレ
・『福本伸行 人生を逆転する名言集 覚醒と不屈の言葉たち』福本伸行著、橋富政彦編
・『福本伸行 人生を逆転する名言集 2 迷妄と矜持の言葉たち』福本伸行著、橋富政彦編
・『無境界の人』森巣博
・『賭けるゆえに我あり』森巣博
・『真剣師 小池重明 “新宿の殺し屋"と呼ばれた将棋ギャンブラーの生涯』団鬼六
まったくこいつら……
とことん腐っている……
わしのように生きるか死ぬかの修羅場を 潜(くぐ)ってきた人間からすると 奴らの精神はまるで病人……
並の治療では……救われぬほど心性(しんせい)が病んでいる
その病気とはつまり……どんな事態に至ろうと……【とことん真剣になれぬ】……という病(やまい)だ……
(中略)
いつだって……許さるとと思っている……
借金を踏み倒そうと……あるいは……極論……人を殺した……としても……
自分は悪くない 自分は許される なぜなら……今起こったこの事態はあくまで「仮」(かり)で……
本当のオレのあずかり知らぬこと……そう考えるからだ
(中略)
通常奴らは……生涯その「仮」から目覚めない……!
愚鈍(ぐどん)に……寝たいだけ寝て……不機嫌に起き出し……半ば眠っているような日々を繰り返す
退屈を忌み嫌いながら その根本原因にはほおかむり
少し熱心になる瞬間といったら ケチな博奕(ばくち)や……どーでもいい女を追いかけるまわす時くらい……
なぜそんなくそ面白くもない気分で……この人生の貴重な1日1日を塗(ぬ)り潰(つぶ)せるか……というと……
いつもどんな時も 現実は奴らにとって「仮」だからだ つまり偽物(にせもの)……
現実(こんなもの)が……自分の本当のはずがない……奴らはそう思いたいんだ……
30になろうと40になろうと 奴らは言い続ける……
自分の人生の本番はまだ先なんだと……!
「【本当のオレ】」を使ってないから今はこの程度なのだと……そう飽きず言い続け……結局は……老い…… 死ぬっ……!
その間際いやでも気が付くだろう……今まで生きてきたすべてが 丸ごと「本物」だったことを……!
【『賭博黙示録カイジ』福本伸行(講談社、1996~1999年)】
人は不遇を感じると「自分が活躍する舞台は別の場所にある」と思いがちだ。そう。西方極楽浄土だ(笑)。鎌倉時代の庶民にとって幸せは宇宙の彼方にあるものと信じられ、死んだ後に生まれ変わる場所として渇望された。ま、当然のように首を括りたくなるわな。
こうした二面的なものの見方は鎌倉仏教の影響が大きいように思う。此岸と彼岸、浄土と穢土(えど)、権教と実教、本門と迹門などなど。ま、本地垂迹(ほんぢすいじゃく)思想と一括りにしてもよかろう。仏教には現象そのものを「仮」と捉える視点もある(仮諦〈けたい〉)。
福本が指摘する「仮」はもっと卑近なものだが、欲望の燃焼がテーマとなっているだけにわかりやすい。
「本当のオレ」は「今のオレ」である。「眠っているオレ」や「将来のオレ」はフィクションに過ぎない。もちろん可能性は誰にでもある。よくなる可能性も悪くなる可能性も。
福本作品については絵で好き嫌いが分かれることだろう。個人的には『銀と金』を除けば評価できる作品はない。冗長なルール解説がストーリーの腰を折る嫌いがある。それでも尚、福本作品は男の教養として読むべきだ。
『カイジ』シリーズはこの後、『賭博破戒録カイジ』、『賭博堕天録カイジ』、『賭博堕天録カイジ 和也編』、『賭博堕天録カイジ ワン・ポーカー編』と続く。
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