・のたうち回るような衝撃
・『ぼくんちの宗教戦争!』早見和真
・ミステリ&SF
幸乃の呼吸の音だけが耳を打つ時間は、数分にわたり続いた。6年かの拘置所生活ではじめて見せる彼女の抗おうとする姿に、周りを取り囲んだ者たちは息をのんで見守るしかなかった。それは私が望み続けていた光景に近かった。ただ、彼女が立ち向かおうとするものだけが、望んだものと違っていた。
【『イノセント・デイズ』早見和真〈はやみ・かずまさ〉(新潮社、2014年/新潮文庫、2017年)】
「2021年に読んだ本ランキング」に入れるのを忘れていた。衝撃の度合いでは高村薫著『レディ・ジョーカー』を超える。死刑囚・田中幸乃と彼女を取り巻く人々の短篇連作集である。異なる人生が事件を巡って交錯する。それぞれの思いが擦れ違い、欲望が絡み合う。
私にとっては女子高生のいじめが目を背けたくなるような代物だった。「旭川女子中学生いじめ凍死事件」(2021年)を思えば、さほど珍しいことでもないのだろう。もしも私が被害者なら間違いなく相手を殺す。迷うことなく。自分の力が弱ければ不意打ちをすればいい。人間の知性はそのように使うべきなのだ。「いじめを行った者は必ず殺される」という事実が常識となれば、いじめはこの世からなくなることだろう。
どこにも救いのない物語である。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』へのオマージュ作品だとすれば、見事に成功している。のたうち回るような衝撃である。
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