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2019-02-09

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2019-02-08

歴史は政治の複雑なダイナミズムから生まれる/『米国の日本占領政策 戦後日本の設計図』五百旗頭真


『吉田茂とその時代 敗戦とは』岡崎久彦

 ・歴史は政治の複雑なダイナミズムから生まれる

『村田良平回想録』村田良平『歴史の教訓 「失敗の本質」と国家戦略』兼原信克

日本の近代史を学ぶ

 しだいに占領政策の全貌が見えてきた時、筆者が思い浮べたのは古典的なシンフォニーの展開であった。ローズベルト大統領の「無条件降伏」の宣言は、予定される敗者にとって「運命」の鉄槌を意味した。ドイツや日本の半永久的無力化という衝撃的なテーマが、米国政府の最上層から繰り返し打ち出される主旋律をなした。しかしながら、国務省の下部から、当初は聞きとりにくいひそやかな音量であったが、まったく違った音色の第二旋律が奏でられ始めた。敵国の内情に理解を示し戦後の国際社会に再復帰させようという知日派の立案である。二つの旋律はコントラストをきわだたせつつ、やがてさまざまなバリエーションをとって展開するなかで交錯し混ざり合って、新たな音調を見出すに至った。つまり本書は、あい対立する二つのテーゼの展開とその統合という簡明な構成を骨格としている。(中略)
 この簡明な構成は、逆からいえば、本書がローズベルト的旋律と知日派的旋律のいずれかか一方を過大評価してシンフォニー全体を説明する立場をとらないことを意味している。対日占領政策の一元論的な性格規定を避け、異質な諸要素が時には逆説と皮肉を伴いながら組み合わされて歴史を構成したと解している。実際、後から振り返ってみれば至極当然に見える歴史の流れも、その次代の当事者が行方の定かでない激動のなかで懸命に状況と格闘した結果であることも少なくない。

【『米国の日本占領政策 戦後日本の設計図』五百旗頭真〈いおきべ・まこと〉(中央公論社、1985年)】

『吉田茂とその時代』は本書を元にして書かれており、冒頭で岡崎久彦は上記テキストを引用し絶賛している。かなり大部の学術書であり上巻の半ばで挫けた。体力をつけてから再チャレンジする予定である。

 歴史は政治の複雑なダイナミズムから生まれる。ルーズベルト大統領の嘘やコミンテルンの陰謀があったのは確かだが、それだけで大東亜戦争敗北を片付けることには無理がある。知日派といったところで、それはアメリカの国益に添った政策であり、何も親切心から行ったわけではない。

 一見するとアメリカは民主政やプラグマティズムが機能しているように思われるが、その結果は常に誤ってきたといっても過言ではない。ヤルタ協定~日本の戦後処理は容共の色合いが濃く、米ソ冷戦構造へとつながった。朝鮮戦争~ベトナム戦争~湾岸戦争も軍需産業を富ませることには成功したのだろうが、アメリカの国力を増進させたとは言えない。ソ連崩壊後のアメリカにとって世界はバラ色にはならなかった。そして今、アメリカファーストを合言葉に広げすぎた風呂敷を畳んで、自国へ引きこもろうとしている。

 帝国主義時代の末期のように世界は保護主義へと向かっているのだろうか。一方では世界的な規模で経済格差が進み、株価が上がり景気がよいとされながらも働く貧困層が厚みを増している。まるで意図的に政治のダイナミズムを奪っているかのようだ。バブル景気が弾けてからというもの消費意欲は完全に衰えつつある。自由に物を買えないのだから人々が実感するような景気回復の見込みはないと言い切ってよいだろう。

 漫然とした無気力が社会を覆いつつある。この状態が真空に近づいた時、期せずして戦争が始まることだろう。鬱積したモヤモヤは敵国に対して放たれる。その時我々は目を覚まして政治を思うのだ。

米国の日本占領政策―戦後日本の設計図 (上) (叢書国際環境)
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支離滅裂な思考/『人類の未来 AI、経済、民主主義』吉成真由美編


『9.11 アメリカに報復する資格はない!』ノーム・チョムスキー
『メディア・コントロール 正義なき民主主義と国際社会』ノーム・チョムスキー
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル

 ・支離滅裂な思考

 それでも気候問題は自然を相手にしているので、地道な観測を積み重ねることが信頼できる結果につながっていくと期待することもできる。しかし世界経済の動向というようなことになるとそうはいかない。人間の脳については、脳科学がやっとその表層をわずかに明らかにし始めたところであって、たった一人の人間の行動や感情でさえ、予測するのが極めて困難であるのに、そもそも本人にすら、一体どうしてそんな気持ちになったのかてんでわからないことが多いのに、どうやって何十億という人間の活動の集積を予測できるというのだろう。経済モデルが実体経済と乖離(かいり)しているのもむべなるかな。

【『人類の未来 AI、経済、民主主義』吉成真由美〈よしなり・まゆみ〉編(NHK出版新書、2017年)】

 ノルウェーの物理学者アイヴァー・ジェーバーの「気候科学はもはや科学ではなく、宗教と化している」を引用した上で上記のテキストが書かれている。たぶんノーベル物理学賞受賞者が語ったのは気候変動が資本主義に組み込まれ、金儲けのために悪用されて、実態と懸け離れてしまったことへの警鐘であったのだろう。日本では武田邦彦が同じ主張をしている。

 まったくもって支離滅裂な文章である。まず、「地道な観測」がどのような「信頼できる結果」につながるというのか? 続く文章から「予測」を意味していることがわかるが、そもそも観測と予測は別問題である。そして話の腰を折るようにしていきなり経済予測に話が転じる。ここでもまた誤解に基づく前提が吐露される。「人間の脳」と「一人の人間の行動や感情」の予測とマクロ経済の間には何の関係もない。私にとってはむしろ著者の思考回路が予測不能で、とてもついてゆけない。

 具体的な例を示そう。私が明日、業務スーパーに行くかどうかはわからない。ま、週に3回くらいは行っているので確率としては43%(3/7)である。仮にこの業務スーパーの集客数が1000人/日であるとしよう。近隣に住むXさんが業務スーパーへ行くかどうかを予測することは不可能だが、1000人前後の来客があるのは確かだろう。

 著者は基本的な金融政策すら知らないのではあるまいか。物の値段はマネーの流通量で変化するのだ。株式相場を見れば一目瞭然である。売買は常に相対(あいたい)取引であるのになぜ価格が変動するのか? それは株式相場全体のマネーの量が増えたり減ったりしているためだ。暴落とは資金の引き上げを意味する。

 書籍の著者名にノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイル、マーティン・ウルフ、ビャルケ・インゲルス、フリーマン・ダイソンの名を入れるのも販促目的で浅ましい。裏表紙には吉成の整った顔が配されている。……今、検索してわかったのだが私よりも10歳年長であった。とすれば恐るべき美人である。しかも利根川進の再婚相手らしい。

 しかーし、本書の評価が変わることはない。マサチューセッツ工科大学の脳認知科学学部を卒業していながら、これじゃしようがないよ。

人類の未来―AI、経済、民主主義 (NHK出版新書 513)
ノーム・チョムスキー レイ・カーツワイル マーティン・ウルフ ビャルケ・インゲルス フリーマン・ダイソン
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2019-02-06

マッカーサーの深慮遠謀~天皇制維持のために作られた平和憲法/『吉田茂とその時代 敗戦とは』岡崎久彦


『日米・開戦の悲劇 誰が第二次大戦を招いたのか』ハミルトン・フィッシュ
『繁栄と衰退と オランダ史に日本が見える』岡崎久彦

『陸奥宗光とその時代』岡崎久彦
『陸奥宗光』岡崎久彦
『小村寿太郎とその時代』岡崎久彦
『幣原喜重郎とその時代』岡崎久彦
『重光・東郷とその時代』岡崎久彦

 ・マッカーサーの深慮遠謀~天皇制維持のために作られた平和憲法

『米国の日本占領政策 戦後日本の設計図』五百旗頭真
『村田良平回想録』村田良平『歴史の教訓 「失敗の本質」と国家戦略』兼原信克

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 マッカーサーは、日本占領のためには、天皇制の下(もと)の政治体制維持が必要であり、それに反対する連合国、ワシントンの強硬派からその政策を守るために日本に絶対平和主義を維持させることが必要だ、という大戦略を決めて、それを徹底的に守った。そして朝鮮戦争勃発後でさえ、ダレスの再軍備論に反対して、日本の経済力を使えばよいと主張している。
 この間、吉田の言動は影が形を追う如く、このマッカーサーの言動と一致している。そうした発言は周知のことであり、引用するまでもないが、ここで一つ特異な例を挙げると、1950年1月の施政方針演説で吉田は突然自衛権を認める発言を行い、態度の豹変と非難されたが、じつはその内容は元旦に発表されたマッカーサーの年頭メッセージとまったく同じであった。この発言の背景については追って考察するが、再軍備しないで自衛権を認めるとなると論理的にはアメリカ軍による庇護(ひご)にならざるをえず、のちの日米安保条約の伏線(ふくせん)ともなりうるものである。
 いずれにしても吉田としては、平和条約を締結して独立を回復するためには、あくまでもマッカーサーの意に反しない行動をとる必要があったことは理解できる。吉田にとって大事なのは、遠いワシントンから着ているダレスではなく、げんに日本を支配しているマッカーサーとの関係であるのは当然である。仮定の問題として、もしマッカーサーが朝鮮戦争勃発後、180度方針を転換し、ダレスと同じ日本再軍備路線をはっきりとっていたならば、吉田がそれに抵抗して反戦、経済中心主義を貫いたとはとうてい考えられない。

【『吉田茂とその時代 敗戦とは』岡崎久彦(PHP研究所、2002年/PHP文庫、2003年)】

 現行憲法制定についてはアウトラインもはっきりせず様々な輪郭(りんかく)を描くスケッチが多い。そのいくつかを知るだけでも岡崎の指摘の重要さを理解できるだろう。

日米安保条約と吉田茂の思惑/『重要事件で振り返る戦後日本史 日本を揺るがしたあの事件の真相』佐々淳行
憲法9条に対する吉田茂の変節/『平和の敵 偽りの立憲主義』岩田温
憲法9条に埋葬された日本人の誇り/『國破れて マッカーサー』西鋭夫

 もちろんマッカーサーは占領政策のために天皇を利用したのであり、日本が唯一念願した国体護持に応えたものではない。まして戦後日本に現行憲法が及ぼした悪影響を思えば、安易な感謝は卑屈と紙一重となろう。ただありのままの事実を見て歴史の妙に感慨を深くするものである。

 近頃は保守言論人からもウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP:戦争についての罪悪感を日本人の心に植えつけるための宣伝計画)やコミンテルン陰謀説(ヴェナノ文書)で戦後史を片付けることをよしとしない声が挙がり始めた。

 よく言われることだが「アメリカは一つではない」。当時も現在も相反する考え方があり、様々な駆け引きや妥協を通して政策が決定される。日本においても同様で大正デモクラシーで花開いた政党政治から昭和初期の軍部の台頭まで主要な動きが民意の反映であったことは疑いない。「愚かな指導者に国民が引きずられた」とするのは典型的な左翼史観である。

 敗戦という精神の空白時代に平和憲法を受け入れたことはある意味自然な流れであろう。また戦前に弾圧された左翼勢力が社会で一定の支持を得ることも予想できる範囲内だ。あの二・二六事件ですら社会主義的な色彩が濃度を増していたのだ。

 GHQの占領は6年半に及んだ。日本はサンフランシスコ講和条約(1951年9月8日署名、1952年4月28日発効)をもって主権を回復する。本来であればこのタイミングで憲法を変えるべきであった。あるいは「戦争犯罪による受刑者の赦免に関する決議」(1953年〈昭和28年〉8月3日)でもよかった。

 日本が1956年に国際連合へ加わったがこの時、日本を代表して演説を行った重光葵〈しげみつ・まもる〉外務大臣は元A級戦犯である。つまり東京裁判で認定した日本の戦争犯罪がナチスのそれとは違っていたことが国際的にも認められたと考えられる。かつての戦犯が政治家として復活しても昨今のネオ・ナチズムのように批判されることはなかったのだ。

 問題はなぜ憲法を変えなかったのか、である。

 男が言うには、戦争に行って生きて帰ってきた人間の魂は皆死んでしまっており、その魂の死を断固として拒んだ勇敢な人間たちは皆肉体が死んでしまったのだそうだ。つまり戦争というものは行けば誰一人として生きて帰らないのであり、男もまたフィリピンの密林の中で魂を失った、人間の抜け殻なのだと言う。

【『増大派に告ぐ』小田雅久仁〈おだ・まさくに〉(新潮社、2009年)】

 そういうことなのかもしれない。