2020-03-16

アメリカ陸軍史上最強の軍団/『二世兵士 激戦の記録 日系アメリカ人の第二次大戦』柳田由紀子


日系2世に与えた東條英機のメッセージ

 ・アメリカ陸軍史上最強の軍団

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 ジャポネと恐れられた二世兵は、最終的に大統領部隊感状、名誉勲章をはじめとする勲章を1万8000個以上も獲得し、米陸軍史上最強の軍団と賞された。けれども、史上最強軍団はまた史上最大の戦死傷者部隊でもあった。アメリカでは、戦死したり重傷を負った兵士に、ハート型のメダルに紫のリボンの「パープルハート勲章」を贈るが、日系部隊の別名は「パープルハート隊」である。

 陸軍史上最強――日系部隊はなぜ、そんなに強かったのだろう?
「帰するところ、名誉の問題ということです」
 ダニエル・イノウエは、きっぱりと結論づける。
「出征時、欧州に向かう航海はおよそ30日間かかりました。最初はウクレレやギャンブルで騒がしかった私たちも、最後にはしーんとなって水平線を見つめていました。私は周囲の二世に尋ねたんです、なぜ志願したのかと。すると誰もが例外なく、『家名を汚すな』と答えました」
「家名を汚すな」は、船上の二世兵だけでなく、私が出逢った二世ほぼ全員が言及した言葉だ。一世が、武士や明治の精神を二世に教訓したことは前にも触れた。その薫陶とは、煎じ詰めれば『八犬伝』の「仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌」であり、『葉隠』(はがくれ)の「武士道といふは死ぬ事と見付けたり」だった。だから、「『国のために死ぬのは名誉』と母に送り出された」(ススム・イトウ)者もいれば、「『お前の顔はもう見たくない。命をかけて戦え』と父親に言われた仲間も多かった」(ロナルド・オオバ)。
 オオバは言う。
「二世戦死兵の中には、手榴弾で自決したと思われる者もいました。捕虜になって恥をかくくらいなら、ってことです。我々は、それほど日本的な考え方をしたし、だからこそ、あれだけの戦功を立てられたのだと思います」 「生みの親より育ての親」、これもしばしば二世が口にする言葉だ。武士は二君に仕えず。これまで育ててくれたアメリカには義理がある。その恩を返すという意味である。
 こういった日本的信念に支えられた二世を、さらに強い兵士にしたのが差別という負の現実だった。
「私たちは、出世や成功の夢がない貧乏所帯のせがれです。でも、なんとか逆境を抜けたいと、歯を食いしばって生きてきた。並みの努力では這い上がれないことを、二世は知っていました」(ダニエル・イノウエ)
 したがって戦争は、否定的な社会価値を打ち消し、真のアメリカ人であることを示すチャンスでもあった。そして、二世はそれを存分に証明した。
 
【『二世兵士 激戦の記録 日系アメリカ人の第二次大戦』柳田由紀子〈やなぎだ・ゆきこ〉(新潮新書、2012年)】

 日本では「郷(ごう)に入れば郷に従え」という。一神教のような思想の厳しさを持たない民族性を思えば、郷(ごう)の違いは小異であったことだろう。そこに奴隷のような不自由さはなかった。異なる地域・家・人が有する伝統への敬意は我々にとっても自然な感情である。アメリカに渡った日本人は人種差別と戦いながらも、真のアメリカ人になろうと努めた。彼らはアメリカを守るために若き命を花と散らした。

 日系一世の多くは明治生まれである。二世は明治の気質を受け継いだ。その意味では(昭和の)日本人以上に日本人であった。異国の地で武士道が脈々と流れていた。

 日系二世部隊は激戦地を転戦し次々と突破口を開いた。凄まじい戦果はグルカ兵を超えたといっても過言ではない。

 ダニエル・イノウエが死去した際、オバマ大統領は「真の英雄を失った」との声明を発表した。



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2020-03-15

ミヒャエル・エンデの社会主義的傾向/『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳、グループ現代


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
『平成経済20年史』紺谷典子
『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎

 ・貨幣経済が環境を破壊する
 ・紙幣とは何か?
 ・「自由・平等・博愛」はフリーメイソンのスローガン
 ・ミヒャエル・エンデの社会主義的傾向
 ・世界金融システムが貧しい国から富を奪う
 ・利子、配当は富裕層に集中する

・『税金を払う奴はバカ! 搾取され続けている日本人に告ぐ』大村大次郎
・『無税国家のつくり方 税金を払う奴はバカ!2』大村大次郎
『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー

必読書リスト その二

「今日ではお金とは抽象的な大きさにすぎません。紙幣すらだんだんと姿を消し、今日動かされているのはコンピューターの単位、まったく抽象的な数字といえるでしょう。しかし本格的な経済の問題は紙幣の発明とともに起こったと思います。紙幣には物的価値はなく、価値のシンボルなのです。紙幣の発明で問題が生じるのは、紙幣が好きなだけつくれるからで、金塊ならば好きなだけ増やすというわけにはいきません。金銀に不足した王様は、軍隊に給金が払えず、弱小化しました。周知のようにローマ帝国の滅亡もこのことが主な原因です」

【『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳〈かわむら・あつのり〉、グループ現代(NHK出版、2000年/講談社+α文庫、2011年)】

 今考えると、やや社会主義的な印象が強い。ミヒャエル・エンデは1929年(昭和4年)11月12日生まれ。世界恐慌の引き金となったブラックサーズデイ(10月24日)の直後である。「マネーに裏切られた世代」といってよい。

 16歳の時に召集令状を破り捨て、「その後、近所に住むイエズス会神父の依頼でレジスタンス組織『バイエルン自由行動』の反ナチス運動を手伝い、伝令としてミュンヘンを自転車で駆け回った」(Wikipedia)。当時のレジスタンスは共産主義者の特許である(『イタリア抵抗運動の遺書 1943.9.8-1945.4.25』P・マルヴェッツィ、G・ピレッリ編)。総本山はフランス人民戦線だ(フランス共産党 - 世界史の窓)。

 1983年、河西善治が西ドイツ(当時)緑の党をモデルとした「東京緑派」(DIE GRUENEN) を結成し、参院選に東京都選挙区より出馬した。河西は人智学(シュタイナー思想)の研究家であり、西ドイツ緑の党がミヒャエル・エンデなど多くの人智学者によってできた経緯から、緑の党の思想を日本に広めることに注力していた。

Wikipedia > 緑の党 > 日本での試み

 同盟90/緑の党は「新左翼色の濃いエコロジー政党」のようだ。カール・マルクスやフリードリヒ・エンゲルスを生んだドイツである。エンデがその影響を受けたのはむしろ当然であろう。

 人智学とのつながりは初めて知った。ルドルフ・シュタイナーはもともと神智学協会のメンバーだったが、若きジッドゥ・クリシュナムルティを神の再誕とする見方に反発し、自ら人智学協会を設立した(『仏教と西洋の出会い』フレデリック・ルノワール)。

 またエンデはベルトルト・ブレヒトから大きな影響を受けていたようだ(『ブレヒトの写針詩』岩淵達治編訳)。リベラルよりもやや左側に位置すると見てよい。言説にとらわれて思想的背景を見失うと、あらぬ方向に誘導されることがある。留意が必要な一書だ。

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