2012-11-01

法人税と所得税の最高税率を引き上げるべきだ/『消費税は0%にできる 負担を減らして社会保障を充実させる経済学』菊池英博


「法人税の引き下げによる経済効果はゼロないしマイナス」
・法人税と所得税の最高税率を引き上げるべきだ

 本書を一読すれば日本の税体系が滅茶苦茶であることが理解できる。

 議論は「直間比率の改善」というテーマとなり、直接税である法人税と所得税を軽減して、新たに間接税として消費税を入れようとする方向であった。こうして、1989年から消費税が導入され、当初3%だった税率は、1998年から5%へ引き上げられたのである。
 法人税と所得税の引き下げ過程をまとめてみると、法人税は1981年度42%、1984年度43.3%であり、その後、1990年度に37.5%へ引き下げられ、1998年度34.5%、1999年度30%となり、現在に至っている。個人の所得税・住民税について見ると、所得税は1981年度で最高税率が70%に地方税(住民税)18%を加えて合計88%の高率であった。その後、段階的に引き下げられて、消費税が導入された1989年度の最高税率は合計65%(所得税50%、住民税15%)であり、1999年度の最高税率は50%(所得税37%、住民税15%)、2007年度には税源の一部が地方に移ったため、最高税率は50%(所得税40%、地方税10%)となっている。

【『消費税は0%にできる 負担を減らして社会保障を充実させる経済学』菊池英博(ダイヤモンド社、2009年)以下同】

失われた10年」によって国内需要は冷え込んだ。経団連は「グローバル市場での競争力をつける」との名目であの手この手を使って政府に働きかけた。生産コストを抑える目的で電力自由化が実現したのもこの頃だ(2000年)。

 それにしても全然気づかなかったよ。新聞社やテレビ局も法人であるがゆえに、報道のトーンが上がることはまずない。むしろ国民の目から遠ざけようと努力していた可能性すらある。経団連は「日本の法人税率の高さが海外移転につながっている」と嘘の主張までしてみせた(Wikipedia)。商売は信用よりもキャッシュ・フローを重んじ、資本は内部留保となって滞留しデフレに拍車をかけた。「自分たちさえよければいいのか?」。御意。

 1999年以来の10年間、法人税は30%、個人の所得税・住民税の最高税率の合計は50%(所得税40%、地方税10%)である。とくに特徴としては、地方税が2007年度から所得の大小に関係なく、一律10%の「フラット税制」となっていることだ。つまり、累進課税を放棄したのである。レーガン税制の根幹が「フラット税制」であり、この方式で税収が極端に減り、社会保障費が出なくなったことは、すでにアメリカで証明されている。それなのに、なんと日本では、「30年前に失敗した考え」である「フラット税制」を2007年度に導入しているのだ。

 とすると間接税の比率が高くなっているわけだから、税の逆進性が顕著になっていると考えてよいのだろう。応能負担原則は崩壊しつつある。

 ちょっと考えれば誰にでもわかるはずだ。可処分所得が1億円あったとしても、マイホームを10軒、自家用車を10台所有する人はいないだろう。すなわち金持ちを優遇することは消費にとってマイナス作用を及ぼす。

 しかし酷い話だ。馬鹿丸出しといってよい。挙げ句の果てには介護事業がズタズタとなり、多数のリハビリ難民を生み、買い物先で車椅子使用者がヘルパーから置いてけぼりにされた。自公政権の罪は深い。

 現在、われわれ日本国民が早急に認識すべきことは、「法人税の引き下げは経済成長にマイナス効果しかない、むしろ法人税と所得税の最高税率を引き上げるべきだ」ということである。法人税引き下げは経済効果がマイナスである。「法人税の引き下げ」を強く要求しているのは外資であり、それを財界がそのまま自公政権に要求しているのである。財界は、2006~07年にバブル期以上の多額の利益を上げたにもかかわらず、外資の要求をそのまま自公政権にぶつけている。
「法人税引き下げ」を実行した場合には、次のようなことが起こる。

1.法人税減税で余った資金は、デフレで需要不足の日本国内には投資されず、たとえ実物投資されたとしても、それは海外に投資されるに過ぎない。だから、日本国民の雇用増加、経済成長の効果はゼロであり、余剰資金は株主配当、役員報酬となり、所得格差は拡大し、資金の海外流出によって経済効果はマイナスになる。
2.海外の工場建設に投資されれば、投資収益は配当金として日本に還流する。しかし、その利益処分は、株主の采配で決まることとなり、国内の従業員の報酬や国内建設には向かわない。

 外資ということは日米経済協議会あたりが絡んでいるのだろう。

 また共産党の志位委員長が、ギリシャが財政破綻した一つの原因は法人税減税にあったと指摘している(「しんぶん赤旗」2010年7月2日)。ま、誰かの得は他の誰かの損であるというのが経済の常識だ。マーケット用語では「リスクの付け替え」という。

 また、「日本の実効税率は国際比較しても決して高くはない」のだ。国税と地方税の合計で国際比較すると、日本の実行税率(地方税が国税で費用になる場合を調整した後のネットの税率)は、アメリカ(ニューヨーク)45.95%、日本(東京)は40.69%、ドイツ39.9%、フランス33.33%、イギリス30%であって、日本はアメリカよりも低い。ヨーロッパが日本より低いのは、外資を呼び寄せたいからである。日本は世界一の債権国(投資資金の潤沢な国)であって、外国からの資本輸入は本質的に必要ない。外資を呼び寄せるために法人税を減税することはまったく必要ない(以上の「法人税減税」に関しては、前掲の野口悠紀雄『資本開国論 新たなグローバル化時代の経済戦略』第5章を参照されたい)。

法人税「40%は高い」といいながら実は…ソニー12%、住友化学16%

 日本が債権国であることについては以下も参照されよ。

日本は「最悪の借金を持つ国」であり、「世界で一番の大金持ちの国」/『国債を刷れ! 「国の借金は税金で返せ」のウソ』廣宮孝信

「嘘には三つある。軽い嘘はただの嘘。重い嘘は真っ赤な嘘。最も重い嘘は政府の統計」  これはイギリスの名宰相といわれたベンジャミン・ディズレーリ(1804~1881)の言葉である。ディズレーリはユダヤ人で初めてイギリスの首相になった人物で、19世紀後半に七つの海を制した大英帝国の政治家であった。

 嘘が不信を生み、不信が不安につながる。世界が右傾化しつつある原因もこのあたりにあるのだろう。巨大な嘘は世界を混乱させ、必ずや暴力的な衝突に至らせるに違いない。

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