2013-11-15

佐藤雅典、志賀櫻、ザミャーチン、他


 4冊挫折、3冊読了。

戦争を読む』加藤陽子(勁草書房、2007年)/良書。近代日本の戦争史を書評で綴る。文章がせいせいとして小気味いい。挫けてしまったのは、ただ単に私がこの分野に興味がないため。

夜に生きる』デニス・ルヘイン:加賀山卓朗訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2013年)/訳文のリズムが悪い。丸山健二のエッセイを挫折したのも同じ理由なのだが、セネカ著『怒りについて 他二篇』の文章が凄すぎて、普通の文章を読むことが難しい。

黄昏に眠る秋』ヨハン・テオリン:三角和代〈みすみ・かずよ〉訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2011年/ハヤカワ文庫、2013年)/これも訳文がよくない。出だしも暗すぎる。

仏教は宇宙をどう見たか アビダルマ仏教の科学的世界観』佐々木閑〈ささき・しずか〉(DOJIN選書、2013年)/初めて佐々木閑の著書を読んだのだが、とにかく文章に締まりがない。たぶん二度と読むことはないだろう。

 56冊目『ドアの向こうのカルト 9歳から35歳まで過ごしたエホバの証人の記録』佐藤雅典(河出書房新社、2013年)/これは文句なしで星五つ。既に「覚え書き」に書いた通りだ。ひとつだけ付言すると、カルトと洗脳という言葉遣いがよくない。洗脳は社会から隔離し、睡眠不足に陥れ、更には拷問や薬物などをも利用して脳の内部情報を書き換えることだ。著者は自らの選択であるにもかかわらず「洗脳」と称しており、いくら何でも無責任だと思う。



 57冊目『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻〈しが・さくら〉(岩波新書、2013年)/好著。実務家らしく文章の歯切れがよい。オフショアに関しては橘玲著『マネーロンダリング入門 国際金融詐欺からテロ資金まで』→本書→ニコラス・ジャクソン著『タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』でアウトラインはつかめる。多国籍企業や富豪による租税回避が世界中で貧困が拡大する根本的な原因である。DVD『ザ・コーポレーション』の話がどんどん現実化しつつある。既に国家よりも企業にアドバンテージがあるのだ。

 58冊目『われら』ザミャーチン:川端香男里〈かわばた・かおり〉訳(岩波文庫、1992年)/ディストピア小説の古典である。面白かった。



 というモモタマナ氏の助言に従い、川端訳を選んだのが正解だった。尚、川端は男性である。原書は1927年チェコで出版。ソ連本国では1988年まで禁書扱いされた。もちろん物語としてはオーウェルの『一九八四年』(原書は1949年刊)に軍配が上がるわけだが、社会の行く末を見つめる眼差しはザミャーチンの方が鋭いかもしれない。というか、『一九八四年』は本書を叩き台――あるいはオマージュ――にしているとしか思えない。管理社会への反抗と自由への希求が性愛として描かれている点も一緒だ。「恩人」と「ビッグ・ブラザー」の位置も同じである。それにしてもこの二人は天才的な造語センスの持ち主だ。唯一の瑕疵は暴力性を描いていないところ。

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