2013-10-26

自由と所有/『怒り 心の炎の静め方』ティク・ナット・ハン


 ブッダとその時代の僧や尼僧たちは三着の衣と一つの鉢しか持っていませんでしたが、彼らはとても幸せでした。それは、彼らには最も貴重なもの――自由があったからです。

【『怒り 心の炎の静め方』ティク・ナット・ハン:岡田直子訳(サンガ、2011年)】

 ティク・ナット・ハンは世界を代表する仏教者の筆頭格ともいうべき人物である。「行動する仏教」または「社会参画仏教」(Engaged Buddhism)の命名者でもある。映像からは温厚篤実そのものといった印象を受ける。話し方も実に穏やかで威圧感がまったくない。たぶん権威を嫌う人物なのだろう。

 これを三衣一鉢(さんねいっぱつ)と称する。出家とは世俗の象徴である家庭生活を捨てることだ。そして修行僧は乞食行(こつじきぎょう)を営む。彼らが目指す山頂は悟りの境地である。そのために物欲の否定からスタートするわけだ。

 今、恐るべきスピードで富の集中が進んでいる。先進国における格差拡大の要因はそれ以外に見当たらない。つまり格差の拡大は富の収奪を意味する。

 富裕層が使いきれないほどの富を更に膨らませている。人間の欲望には限りがない。世界から飢えがなくならないのも欲望が膨張し続ける証拠であろう。

 大航海時代(15~17世紀)に始まる資本主義こそは欲望のビッグバンともいうべき大事件であった。その後は植民地主義、黒人奴隷、インディアン虐殺、アメリカ建国まで一直線上にある。

 余談が過ぎた。富裕層は心の安心を富で量る。逆から見れば彼らの富は不安に支えられているといってよい。なぜなら富が失われてしまえば彼らには何も残らないからだ。後継者が失敗する可能性もある。それゆえ彼らは独自のネットワークを形成する。ま、秘密結社やサロンみたいな代物だ。ヨーロッパの歴史は教会と秘密結社の歴史といっても過言ではない。

 不安ゆえにネットワークを作る。そして不安ゆえに秘密を共有する。そんな彼らが落ち着いてぐっすりと眠れるわけがない。彼らの富は貧しき者たちの疲弊と死によって築かれているのだから。

 富める者は富によって不自由である。所有と自由は相反する価値であることを我々は知らねばならない。

怒り(心の炎の静め方)

怒りは人生を破壊する炎
所有
無である人は幸いなるかな!/『しなやかに生きるために 若い女性への手紙』J・クリシュナムルティ

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