2017-01-02

デイヴィッド・イーグルマン


 1冊読了。

 1冊目『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン:大田直子訳(ハヤカワ文庫、2016年/早川書房、2012年『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』改題)/再読。二度目の方が衝撃が強い。読む順序は書評に示した通りである。関連書は「必読書リスト」に網羅してあるが、認知科学と神経科学を私が混同していたため、順番は随時更新している。大田直子の翻訳は実にこなれていて読みやすい。「私」とは「私の意識」に他ならないわけだが、その意識が実は確かなものではなく怪しい蜃気楼のような存在であることを解明する。瞠目すべきは200ページあたりからで、イーグルマンは神経法学という領域に思考を飛翔させる。つまり犯罪者には脳を中心とした神経的な異常があり、社会から排除するよりも神経の更生に重きを置くべきであると。飛躍的な思考は大変に刺激的だが、社会システム論として見ると大きな穴があるのではないか。amazonカスタマーレビューで桐原氏が「新派刑法学の亡霊」との鋭い批判を寄せている。確かに「近代学派(新派) (moderne Schule)」を読むと変わりがない。ただしイーグルマンは具体的な証拠を示しており一定の説得力はある。チンパンジーの世界ではルールを破る者はその場で撲殺される。コミュニティが崩壊する危機を回避すると共に、危険な遺伝子を抹殺する意味もあるように思われる。イーグルマンの試みは素晴らしいものだがコストに見合うほどの社会的利益があるかどうか。

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