2015-07-03

観ることでビンラディン暗殺に加担させられる/『ゼロ・ダーク・サーティ』キャスリン・ビグロー監督


 タイトルは「深夜零時半」の意味。米軍の軍事用語らしい。ウサマ・ビンラディン暗殺に至るCIAの暗闘を描いた作品である。観終えた後で女性監督と知り、ちょっと驚いた。しかもキャスリン・ビグローは美形で身重が182cmとのこと。元モデル、元ジェームズ・キャメロン監督夫人という過去の持ち主。主役の女性CIA分析官を演じるのはジェシカ・チャステインで、生まれたばかりの鳥みたいな顔をしている。監督が男性であれば、このキャスティングはなかったことだろう。彼女の風貌が強いリアリティを生んでいる。

 映画はアルカイダメンバーの拷問シーンから始まる。殴打と水責め。ウォーターボーディングについて「アメリカでは短期的な適用は身体的は損傷を起こさないため拷問ではなく尋問であると主張され、水責め尋問禁止法案が民主党主導で上下両院を通過したがブッシュ大統領が拒否権を発動して廃案となった」(Wikipedia)。その後オバマ大統領が禁止したために、CIAは法律を遵守(じゅんしゅ)すべく、グァンタナモ収容所など国外で拷問を行っている。もちろん中東での拷問も国内法は適用されない。

 優秀な諜報員の執念がビンラディンの居場所を突き止める。同僚を殺害され、彼女は変貌する。CIAの上司にも歯向かう。確たる証拠がないため、彼女の情報は数年間にもわたって無視され続けた。

 正義はさほど感じない。ある集団の内部で一人の人間が感情に駆り立てられ、信念のまま突っ走り、願望を実現したというだけの物語である。冷めた目で見れば、悲しいまでにサラリーマン的な姿である。「相手を殺す」という目標だけ見れば、テロリストと完全に同じ次元で仕事をしていることがよくわかる。つまりテロリストの側にカメラを置けば――森達也監督『A』のように――まったく同じドラマを作成することが可能となる。

 観ることでビンラディン暗殺に加担させられる。そんな映画だ。



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