・『9.11 アメリカに報復する資格はない!』ノーム・チョムスキー
・『メディア・コントロール 正義なき民主主義と国際社会』ノーム・チョムスキー
・『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
・支離滅裂な思考
それでも気候問題は自然を相手にしているので、地道な観測を積み重ねることが信頼できる結果につながっていくと期待することもできる。しかし世界経済の動向というようなことになるとそうはいかない。人間の脳については、脳科学がやっとその表層をわずかに明らかにし始めたところであって、たった一人の人間の行動や感情でさえ、予測するのが極めて困難であるのに、そもそも本人にすら、一体どうしてそんな気持ちになったのかてんでわからないことが多いのに、どうやって何十億という人間の活動の集積を予測できるというのだろう。経済モデルが実体経済と乖離(かいり)しているのもむべなるかな。
【『人類の未来 AI、経済、民主主義』吉成真由美〈よしなり・まゆみ〉編(NHK出版新書、2017年)】
ノルウェーの物理学者アイヴァー・ジェーバーの「気候科学はもはや科学ではなく、宗教と化している」を引用した上で上記のテキストが書かれている。たぶんノーベル物理学賞受賞者が語ったのは気候変動が資本主義に組み込まれ、金儲けのために悪用されて、実態と懸け離れてしまったことへの警鐘であったのだろう。日本では武田邦彦が同じ主張をしている。
まったくもって支離滅裂な文章である。まず、「地道な観測」がどのような「信頼できる結果」につながるというのか? 続く文章から「予測」を意味していることがわかるが、そもそも観測と予測は別問題である。そして話の腰を折るようにしていきなり経済予測に話が転じる。ここでもまた誤解に基づく前提が吐露される。「人間の脳」と「一人の人間の行動や感情」の予測とマクロ経済の間には何の関係もない。私にとってはむしろ著者の思考回路が予測不能で、とてもついてゆけない。
具体的な例を示そう。私が明日、業務スーパーに行くかどうかはわからない。ま、週に3回くらいは行っているので確率としては43%(3/7)である。仮にこの業務スーパーの集客数が1000人/日であるとしよう。近隣に住むXさんが業務スーパーへ行くかどうかを予測することは不可能だが、1000人前後の来客があるのは確かだろう。
著者は基本的な金融政策すら知らないのではあるまいか。物の値段はマネーの流通量で変化するのだ。株式相場を見れば一目瞭然である。売買は常に相対(あいたい)取引であるのになぜ価格が変動するのか? それは株式相場全体のマネーの量が増えたり減ったりしているためだ。暴落とは資金の引き上げを意味する。
書籍の著者名にノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイル、マーティン・ウルフ、ビャルケ・インゲルス、フリーマン・ダイソンの名を入れるのも販促目的で浅ましい。裏表紙には吉成の整った顔が配されている。……今、検索してわかったのだが私よりも10歳年長であった。とすれば恐るべき美人である。しかも利根川進の再婚相手らしい。
しかーし、本書の評価が変わることはない。マサチューセッツ工科大学の脳認知科学学部を卒業していながら、これじゃしようがないよ。
人類の未来―AI、経済、民主主義 (NHK出版新書 513)
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ノーム・チョムスキー レイ・カーツワイル マーティン・ウルフ ビャルケ・インゲルス フリーマン・ダイソン
NHK出版
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