2019-02-04

日本国憲法の異常さ/『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』伊藤祐靖


・『自衛隊失格 私が「特殊部隊」を去った理由』伊藤祐靖

 ・天皇陛下はエンペラーに非ず
 ・日本国憲法の異常さ

・『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』岩田清文、武居智久、尾上定正、兼原信克 2021年
『歴史の教訓 「失敗の本質」と国家戦略』兼原信克

日本の近代史を学ぶ

 ある日、私を訪ねてきた彼女は、おもむろにこう話し始めた。
「あなたの国は、おかしい」
「突然、何だ」
「私の処は、過去に3回、近くの部族に占領されたことがあるの。占領されそうな時は、老若男女を問わず命を賭(ママ)けて戦う。当たり前でしょ。もし占領されたら、それまでの風習、習慣を陰で伝承して、占領している奴の首を狙う。必ず、絶対に、何があっても、いつか切り落とすわ。自分の代でできなければ、子供の代、子供ができなければ、孫の代、それもだめならその次……。永遠に狙い続け、絶対にあきらめない。そして、首を切り落としたら、こっそり伝承し続けてきた風習、習慣に一気に戻すの。当たり前でしょ」
 黙って聞く私に、彼女は言葉を続けた。
「掟というのは、若い人がつくるものじゃないわ。通りすがりの旅人がつくるのでもない。ましてや、向かいの島の奴がつくるなんて、あり得ないのよ。この土地で本気で生きている者のために、この土地で本気で生きた先祖が残してくれるもの。それも、長老が自分の生涯を閉じる直前に修正をして次の長老に渡して、試行と修正を数限りなく繰り返してきたものよ。だから、この土地に生きる者にとってどんなものより大切なものなの。もう、つくれないからね。そこには、我々が許してはいけないこと、許さなければいけないことのすべてがあるのよ」
 私は、次にどんなセリフが来るのか判っていた。彼女がなぜ、日本の憲法が制定された経緯を知ったのかは謎だが、おそらく、知ったその足で私のところに来たのだろう。
「あなたの国の掟は、誰がつくったの?」

【『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』伊藤祐靖〈いとう・すけやす〉(文春新書、2016年)以下同】

 ラレインの言葉は単純だ。単純であるがゆえに我々の皮相的な思考やこねくり回した理窟を斧のようにバッサリと切り裂く。彼女からすれば自衛隊で特殊部隊をつくった伊藤ですらもアマチュアに過ぎない。まして日本国民ともなれば奴隷か生ける屍(しかばね)に等しい。「掟」とは民族の魂である。破れば殺されても文句を言えないのが「掟」なのだ。

 近代化や国民国家は祖先を遠ざけるシステムなのだろう。都市への人口集中や移動手段の発達によって居住の流動化が進むと土地への愛着が薄まる。転勤族の子供であれば望郷の念も随分と淡いものになっていることだろう。コミュニティは変遷(へんせん)を遂げて町内会に収まる。そこに部族はない。単なる地域だけが出現する。

「今からが、言いたいことよ。聞きなさい。あなたは、日本を守るためにここに住むって言ったわよね。みんな信じているわよ。だから、あなたはここで生きていられるのよ。そのあなたも他人が作った掟を守ろうとしているの? だったら、そう言いなさいよ。他人の作った掟に従って生きていくような者がこの土地に生きることを、誰も絶対に許しはしないわ。12時間以内に、あなたは生き物じゃなくなるわよ」
 殺害予告だった。脅しでもなんでもない。本気で私の命をとりに来るだろうと思った。
 しかし、危機感も恐怖感もまるでなかった。自分で、俺は殺されてもしょうがない奴なんじゃないか、と思った。心のどこかで、殺されてしまいたい、と思っていたような気もする。
「祖先の残してくれた掟を捨てて、他人が作った掟を大切にするような人を、あなたは、なぜ助けたいの? そんな人たちが住んでいる国の何がいいの? ここで生きればいいじゃない。この土地に本気で生きている人たちと一緒に生きればいいじゃない。みんな、あなたのことが大好きよ」
「……」
「みんなと一緒に、ここで生きなさいよ。どうしても、祖先が残してくれた掟を捨て、他人が作った掟を大切にするような人を守りたいというのならそう言いなさい。私は、そういう人と同じ時間を生きないの。どちらかが死ななければならないわ」

「日本人の甘え」に対してラレインは殺意を抱いたのだろう。安全保障をアメリカに甘え、経済発展をアメリカの戦争に甘え、自虐史観でもって自重し、国際社会ではっきりと物を言うことなく曖昧な態度に終始し、微温的な平和を唱えてよしとする甘えをラレインは嗅(か)ぎ取ったのだろう。「生きるに値しない人生を生きるなら死んだ方がましよ」と彼女は伊藤に告げたのだ。

 民族の掟すら自分たちで決めることなく、ただ経済発展を追い求めてきたのが戦後日本の姿であった。賃金と税負担に関心はあっても安全保障や拉致(らち)被害に関心を持つ人は少ない。北朝鮮による拉致被害を認めようとせず、認めても解決を先延ばしにし、犯罪国家と話し合いを続けようとする日本の悠長な姿勢が、逆説的ではあるが北朝鮮に核を保有させたと言い得るのではないか。





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