2011-11-09

なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 2


なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 1
・なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 2
なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 3

統治の空白と国際援助のジレンマ

 なぜ地震がかくも甚大な被害を与えたのだろうか。それは、地震が起きる前からハイチの統治が破綻していたからだ。ハイチ地震から数週間後にさらに大きな地震がチリを襲ったが、現地の建築基準がしっかりしていたおかげで、ハイチよりもはるかに小さなダメージで済んでいる。ハイチにおける脆弱な統治は、被害を大きくしただけでなく、救済・復興対策への大きな障害となっている。

 地震が起きる前から、社会の必要性を満たせていなかったハイチ政府は、地震によって社会サービスの必要性が爆発的に増大するという事態を前に、わずかに残されていた対応能力さえも失ってしまった。さらに悪いことに、選挙を控えていたために、政治、統治の機能不全はますますひどくなった。地震後の一年間は復興と再建がテーマとされるべきだったが、そうはならなかった。政治腐敗にまみれ、しかも長期化した大統領選挙の影響を引きずり、市民の政府への不信感はますます大きくなった。

 ハイチの統治制度は事実上破綻していたし、現地が必要とする支援の内容と規模からみて、唯一の選択肢は国際支援だった。しかし、これも克服し難い障害に遭遇した。

 ファーマーは、ハイチ政府が破綻したそもそもの原因は、植民地時代におけるフランス、その後のアメリカによる外部からの有害な介入だったと主張している。最近もアメリカは、事実関係のはっきりしない2004年のアリスティド大統領の追放劇に関与している。

Haiti Earthquake 2010

 民主的に選出されたポピュリスト政治家で、貧困層に多くの支持者を持っていたアリスティドは、ギャングが関係していた反乱によってポストを追われた。アリスティドはこの時以来、「介入のせいで自分はポストを失った」とアメリカの介入を批判している。このため、歴史的にも最近の出来事からも、ハイチ人は外国の介入に大きな猜疑心を持っており、これが人道支援にとっての大きな障害を作り出している。 

 支援の必要性は明らかに存在したが、政府が機能不全に陥っていたために、現地は、NGOにとって非常に活動しにくい環境にあった。

 地震が起きる前の段階でも、ハイチではNGOのスタッフ約1万人が活動していた。その一つを運営していたファーマーは、NGOが全般的に政府を迂回して活動していることに批判的だ。

 ファーマーも「政府の役人にはNGOの仕事を監督したり調整したりする能力はなく、NGO間の活動をどう調整するかが医療を提供する上での最大の課題の一つになっていること」と政府側に問題があることは認めている。だが、彼が言うように、問題はハイチの終わりのない膨大な必要性がNGOの対応能力をはるかに超えていることだ。子供の半分が学校に通っていないという問題をNGOが解決するのはどうみても不可能だ。

 だが、NGOの活動が政府の機能不全をさらにひどくしているのも事実だ。NGOは現地の優秀な人材を根こそぎ雇い入れ、教育領域では政府よりもNGOが大きなプレゼンスを持っている。この状況で、政府に対して社会サービスを提供するように求める圧力が作り出されることはない。NGOが政府に代わって社会サービスを提供しているようなものだからだ。

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ルワンダとハイチの違い

「効率のない国家をよりよい存在へと変えていくこと」と「さらに国家を形骸化させないようにすること」の間の矛盾と緊張は、ハイチのような脆弱な国家に介入する外部アクターがよく直面するジレンマだ。だが、地震がハイチの慢性的問題を急性の問題へと変化させたために、このジレンマはさらに大きくなった。

 地震に見舞われたハイチへの大きな同情と連帯を示した国際社会は、救済と復興のために総額100億ドル規模のハイチへの援助を約束した。

 だが拠出国は、腐敗まみれのハイチ政府に対する不信ゆえに援助資金を政府に渡すことを嫌がった。この点をめぐって、社会的混乱から復興への好ましいモデルとしてファーマーが思い描いているのはルワンダのケースだ。(現在ファーマーが活動している)ルワンダでは、1994年に大虐殺が起きた後、国際社会による援助によって効率ある国家の樹立が後押しされた。

 ルワンダでの課題は非常に大きく、現地の壊滅的事態はハイチよりも悲惨で、開発に向けた機会も乏しかった。だが、政治エリートの質という側面でルワンダとハイチは大きく違っていた。1994年以降、ルワンダを率いてきたのは、利益供与や政治腐敗を退け、職務に忠実で能力のある官僚たちだった。対照的に、ハイチ政府のエリートは腐敗にまみれ、カネでポストを手に入れることも日常的だった。ファーマーが指摘していないのは、援助拠出国がもっとハイチ政府を支援していれば、盗み出せるものが多くなる分、ますます腐敗が深刻になっていたと考えられることだ。

 政府が機能不全に陥っている原因を、悪意に満ちた外部勢力の介入に求めるファーマーの立場は間違ってはいない。しかし、だからといって、援助を提供する側がハイチの政治システムを信用しさえすれば、すべてがうまくいくことにはならない。

haiti2

 もちろん、私よりもファーマーのほうがハイチのことをよく理解している。だが、前首相で市民社会活動家のミシェル・ピエールルイを含む、私が尊敬するハイチの改革主義者たちは、ファーマーとは逆の処方箋を示している。「変化は内側からだけでは実現できない」と彼らは考えている。悪意に満ちた外部勢力の介入が、ハイチを機能不全へと追い込んだのかもしれないし、その結果、友好的な介入さえも難しくなっているのは事実だろう。しかし、外部アクターの介入が必要とされているのも間違いない。

 ハイチ政府に資金を提供するのを援助拠出国がためらうのは無理もない。どうみても、政府は救済や復興を管理していく能力を持っていない。ハイチ政府に巨額の援助を与えれば、石油資源が発見された弱体な国家でよくみられる、援助を政治的支持に置き換える動きを刺激することになる。

 だが、他の選択肢はもっと魅力に欠ける。この場合、ハイチ社会とは接点を持たない援助組織やNGOがばらばらに活動することを意味する。問題は、援助組織やNGOにとってこの状況が非常に魅力的なことだ。これを裏付けるように、地震後の活動の必要性、メディアでの露出、そして資金流入の組み合わせによって、現地で活動するNGOの数は5000へと膨れあがっている。地震前にも、NGOがハイチ全土で展開した無意味なプロジェクトの残骸が数多くある。その象徴としてファーマーは、3000万ドルの資金を要して建設され、いまは放棄されている風車の存在を指摘している。

【ポール・コリアー(オックスフォード大学教授)/フォーリン・アフェアーズ・リポート 2011年11月8日】

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なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 1


・なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 1
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なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか 巨大地震からの復興を阻む統治の空白 3

統治なき国を襲った巨大地震

 2010年1月12日にハイチを襲った壊滅的な地震を、自然災害の9.11と呼んでもおかしくはないだろう。地震によって多くの人が犠牲になった現地のせい惨な状況を、テレビ画面を通じて知った世界の人々は、ハイチの人々にかつてない同情と共感を寄せた。アメリカ人家庭の半数以上がハイチでの救済活動を支えるための寄付を行った。しかし、ほぼ3000人が犠牲になった2001年の9.11はその後10年経っても人々の心に深く刻まれているのに対して、地震で20万人が犠牲になり、その後、4000人以上がコレラその他の病気で命を落としたハイチで2010年に起きた悲劇の記憶はすでに色あせつつある。

Haiti earthquake

(ハーバード大学医学部教授で、公衆衛生・医学領域での人道支援活動を世界的に展開している)ポール・ファーマーは、彼の熱意、医学的専門知識、ハイチとの深いつながりを基に、多くの人が忘れつつあるこの悲劇を、ここに取り上げる『地震後のハイチ』で議論している。

 地震後の現地での状況を、ファーマーは個人的ストーリー、現実描写、分析という三つのレベルに分けて議論している。ハイチ人の妻を持つファーマーにとって、地震によって生活を大きく揺るがされた多くの人々のなかには彼の親戚や友人も含まれていた。ハイチとの深い絆ゆえに、彼の著作は、さまざまなエピソードと感情で満ちあふれている。

 大きな悲劇を人々の記憶に刻みこむには、感情を共有できるようなパーソナルなストーリーが必要になる。ファーマーの著作にも、シラブという名の25歳の女性が登場する。彼女は、孤立し何も変わらない日常が流れる田舎から、期待を胸にハイチの首都ポルトープランスへとやってきた多くの若者の一人だった。だがその夢と期待は、ポルトープランスで出遭った安普請の粗末なアパート、そして地震によって打ち砕かれる。

 崩壊したコンクリートの下敷きになり、片方の足は瓦礫に押しつぶされた。まだ意識のあるうちに、なんとか、通りへと這い出した彼女を、非政府組織(NGO)のスタッフが2日後に見つけたものの、この人物には、押しつぶされた足に包帯を巻くことしかできなかった。通りかかった牧師によって病院に連れていかれた彼女は、命を守るために、足の切断手術を受けた。路上では麻酔なしの切断処置が行われることが多かったことを思えば、少なくとも病院で麻酔を受けた上で片足の切断処置を受けた彼女は、他の人々よりは幸運だったのかもしれない。

 こうしたパーソナルなストーリーを読めば、読者は動揺を隠せないだろう。だが、そうした心理的な衝動が人々を行動へと駆り立てる。

Haiti earthquake

 ポール・ファーマーは並み外れた活動家だ。カリスマ医師として、彼は1987年に12カ国で活動する公衆衛生国際NGO「パートナー・イン・ヘルス」を立ち上げ、地震が起きる前の段階で、すでにハイチに10の病院を設立していた。生と死をわけるような緊急事態のなかで直接的に成功と挫折を味わってきたファーマーは、このミッションを通じて、医療ケアを提供する上での問題と可能性についての指針を身につけていく。

 他のNGOとは違って、パートナー・イン・ヘルスは、ハイチ保健省などの政府機関と緊密に連携して活動してきた。しかし、他のハイチの省庁同様に、保健省も地震によって瓦礫と化してしまった。ハイチの人々のための活動を通じて、ファーマーは、ハイチ復興への熱意を持ち、現地でも評価されていたビル・クリントン元米大統領と協力するようになった。

Haiti earthquake - Port au Prince field hospital

 地震が起きる前段階で、クリントンは国連のハイチ特使になり、ファーマーは特使の代理人になっていた。非常に高いポジションから国際コミュニティの活動を監督する機会を得た彼は、現場において、官僚的手続きと差別ゆえに、協調支援行動のポテンシャルがいかに摘み取られているかを思い知るようになる。

 一方で彼は、ハーバード大学医学部の公衆衛生学教授としての見識を、ハイチの医療危機、社会経済問題の分析にうまく生かした。ファーマーは、ハイチの状況を「慢性疾患を抱えるなかで発症した急性症状」と診断している。慢性的な社会的機能不全という環境で切実な危機が起きている、と現実を描写している。慢性的症状が急性症状をさらに深刻にし、緊急事態への対応を難しくしている。急性症状を治すには、慢性疾患を治さなければならないという、非常に難しい状況にハイチは追い込まれている。そして、政府が破綻していることが、社会的な機能不全の根っこにある。

【ポール・コリアー(オックスフォード大学教授)/フォーリン・アフェアーズ・リポート 2011年11月8日】

最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?民主主義がアフリカ経済を殺す 最底辺の10億人の国で起きている真実国境を越えた医師―Mountains Beyond Mountains (小プロブックス)他者の苦しみへの責任――ソーシャル・サファリングを知る

マラライ・ジョヤ

 わたしは死を恐れないが不正に対して沈黙することを恐れる。(マラライ・ジョヤ / Malalai Joya)

Raising My Voice: Cover of book by Malalai Joya

Malalai Joya visits a girls school in Farah province in Afghanistan

Malalai Joya

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2011-11-08

イラン大統領が真実を語る時 人種差別防止会議演説


 ヨーロッパの代表を見よ。五千上慢の如し。人種差別防止会議で行われるあからさまな人種差別。

フランス人に風鈴の音は聞こえない/『夢をかなえる洗脳力』苫米地英人


 ・世界とは自分が認識したもののことである
 ・フランス人に風鈴の音は聞こえない
 ・運命か自由意思か~偶然と必然

 ある夏の日に、フランス人の女性と和室で会食したときのことです。その部屋には風鈴がかけられ、涼しげな音を奏(かな)でていました。ここで私はそのフランス人の女性に尋ねました。
「あなたはこの装置(風鈴のこと)の存在に、あるいはこの装置が発する音に気付いていましたか?」
 案の定、その人はまったく気付いていませんでした。
「これはいったい何ですか?」
「これは言ってみれば『メンタル・エアー・コンディショナー』です。涼しげな音を出すことで、気持ちから涼しくする装置です」
 そう説明してからは彼女は珍しそうに見入るようになりましたし、音にも注意を払って聞いていました。
 でも、実際には説明する前から風鈴は彼女の視界にあったはずですし、音だって物理的信号としてはちゃんと彼女の鼓膜を振動させていたはずです。にもかかわらず、彼女は風鈴の存在にも音にも気付かなかった。それは彼女が「風鈴」というものを知らなかったからです。人は知らないものは認識できないのです。逆に言えば、認識できる範囲だけがその人にとっての世界ということになります。

【『夢をかなえる洗脳力』苫米地英人〈とまべち・ひでと〉(アスコム、2007年)】

 前にも紹介しているのだが再掲。

擬音語・擬態語 英語は350種類、日本語は1200種類/『犬は「びよ」と鳴いていた 日本語は擬音語・擬態語が面白い』山口仲美

 我々は世界を認識しているわけではない。その証拠ともいえるエピソードである。つまり「認識されたもの」が世界なのだ。「世界は五感で構成されている」と言い換えてもよい。

「知らないものは認識できない」という指摘が重い。私が40歳を過ぎてからキリスト教の本を読むようになったのも全く同じ理由からだ。キリスト教を学ぶと世界や歴史の構造がくっきりと見えるようになる。

 またこうも言えるだろう。世界とは認識世界であり解釈世界である、と。

 西欧列強諸国は有色人種を虫けらと解釈してきた。教室内ではシカト(無視)という解釈もある。解釈が世界を変える。相手を「殺してもよい」「無視しても構わない」存在へと貶(おとし)めるのだ。

 教義、法、秩序の根源にあるのはタブーである。すなわちコミュニティとは「タブーを共有する集団」と規定できる。宗教が集団原理と化したところに世界の混乱が生まれたと私は見る。

 我々は興味や関心のない情報を無意識の内に切り捨てる。というよりも引っ掛からないのだ。ということは、穴ぼこだらけの世界に住んでいるのだろう。異なる価値観に歩み寄る努力を怠れば、穴はどんどん拡がってゆく。

 フランス人に風鈴の音は聞こえなかった。ルワンダの叫び声やパレスチナの悲鳴も世界には届かない。

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