2012-07-03

「いまこそ、小沢氏に期待する」日本海新聞、大阪日日新聞社説


新日本海新聞社代表取締役社主兼社長 吉岡利固

 久しぶりに政治の世界が面白くなってきた。私は小沢一郎氏の離党で、政界に「新たな期待感が持てるようになった」と感じている。

無罪で堂々党首に

 消費増税に民主野田政権の大義はない。小沢氏が再三指摘したように、明らかなマニフェスト違反だからだ。3年前の政権交代総選挙で、「消費税は上げない」との国民との約束を守って戦い続けているのは小沢氏で、破ったのは野田総理の側。その点を認めない新聞、テレビをはじめとする大手メディアの論調はおかしい。消費増税は2年前の参院選で自民党が主張して戦った。その政策を丸のみして増税にひた走る野田政権のおかしさに、国民は「うそつき」ともっと怒るべきなのに、矛先を小沢氏に向け続ける世論は自らの首を絞める行為だ。

 小沢氏は、消費増税に反対票を投じてから、離党するまで意外に時間を要した。これは「党首となって新党を率いることへのためらい」と思われる。強制起訴による政治資金規正法違反事件では、数々の外部からの重圧に屈しなかった裁判官により一審無罪を得ながら、検察官役の指定弁護士の控訴で再び二審の被告の座に引き戻されたことで、政治の表舞台へ再登場することへのちゅうちょがあったのだろう。小沢氏はもっと自信を持ってことに当たってほしい。この難局を乗り切れる政治家は他に誰もいない。堂々と同志の議員を率いて新党を立ち上げ、党首として主張を貫き国民に信を問えばよい。

「なぜ消費増税がいけないか?」を、私は再三指摘している。財務省官僚が自らの利権を温存して国家財政危機を演じる異様さに加え、自身が大蔵省官僚だったからよく分かるが、消費税は国民にとって最も不公平な税制だからだ。その逆進制から低所得者層ほど負担は重くなる、富裕層は既に何でも持っているからますます消費は先細りして税収自体がどんどん目減りする。

官僚の背後に米国

 小沢氏が戦っている真の相手は、財務省をはじめとする霞が関官僚だ。政権交代で政治主導を掲げ、役人の既得権に次々と切り込んだ。それを東京地検特捜部は、担当検事がうその捜査報告書まで作成して検察審査会による小沢氏の強制起訴へ持ち込んだ。官僚にとって「どうしても抹殺したい相手」は小沢氏なのだ。国民はもっと素直に物事を考えて行動すべきだ。「反消費増税と反原発」の小沢氏を支持するか否かは、官僚支配継続を受け入れるか否かの選択にほかならない。

 日本の官僚支配の根幹は対米追従と、既得権温存。米国が日本の政治家を抹殺する時は、主に検察を手先に使う。中国に接近した田中角栄氏と小沢氏、北朝鮮と仲がよかった金丸信氏、ロシアとパイプのある鈴木宗男氏、また米国と距離を置こうとした細川護煕氏と鳩山由紀夫氏は官僚の面従腹背で辞職に追い込まれた。現在の野田政権を見ればすぐ分かる。消費増税、原発再稼働、オスプレイ配備を含めた沖縄米軍基地、TPP参加と、どれも米国の喜ぶ政策ばかり進めている。

 自民党政権時代には、各省庁に精通した“族議員”がいて、官僚も時としては気が抜けなかったが、民主党は駆け引き能力を持たない幼稚な集団。すぐ洗脳できて官僚の意のままに動き、特に財相経験者は菅総理でも野田総理でも、コロリと手中に落とせる高級テクニックを彼らは有する。

増税阻止に不信任案

 小沢氏は速やかに同志とともに内閣不信任案提出に動くと見る。今回ともに離党した者だけでなく、既に民主党を離れている仲間も多いから提出議員数は全く問題ない。消費増税に相乗りした自民党は、不信任案に反対すれば話し合い解散のきっかけを失い大連立に突き進むしかない。結果として総選挙は来夏まで延び、いざ解散時には小選挙区候補者調整が民自間で進まず、「大阪維新の会」をはじめとする消費増税反対の新興勢力と入り乱れる激戦となる。逆に賛成すれば、即解散総選挙で消費増税は参院可決できぬまま廃案。いずれにせよ、自民党にとって都合のいいシナリオは小沢氏の反乱で描けなくなった。

橋下氏は大同に付け

 反官僚、反増税、反原発という基本線で、橋下徹大阪市長は小沢氏と近い。しかし、関電の大飯原発再稼働容認をみても分かる通り、最近は根幹をなす政策で微妙なブレが見られる。既存政党や財界支持者との良好関係維持を意識しすぎ、民意とのズレが生じている。橋下市長は、今こそ愚直にマニフェストを守り続けて行動する小沢氏に手を差し伸べ、教えをこうべきだ。

日本海新聞、大阪日日新聞 2012-07-03

「汚染土東電に返す」 福島・二本松の男性 自宅庭から携え徒歩で東京へ


 東京電力福島第一原発の事故に抗議しようと、福島県二本松市のNPO職員関久雄さん(61)が、放射能に汚染された自宅庭の土をリュックサックに背負い、東京を目指して歩いている。東電と経済産業省の職員に手渡すつもりだ。「汚染された土を突き付け、事故の責任を明確に意識させたい」と訴えている。

「この中に含まれる放射性物質は私たちの物ではない。国と東電に返したい」

 二日、宇都宮市入りした関さんは、ビニール袋に入った少量の土を手に険しい表情で語った。持ち歩いている放射線量測定器をかざすと、毎時〇・二七マイクロシーベルトを示した。

 二十四時間身に付けているとすると、単純計算で、百五十五日間で一般の人の被ばく線量限度である年間一ミリシーベルトに達する計算だ。環境省と文部科学省によると、放射性物質を含んだ土の遺棄は放射性物質汚染対処特別措置法に触れる可能性があるが、携行を取り締まる法律はない。

 関さんのNPOでは廃校を利用し、農業体験や自然との触れあいの場を子どもたちに提供してきた。事故直後、自宅前の土や芝生の放射線量は毎時七~九マイクロシーベルトの高い値に。表土をはぎ取るなど対策を講じたが、今も〇・七マイクロシーベルト前後を計測し、室内でさえ〇・二~〇・三マイクロシーベルトある。

 関さんは過去にも反原発運動の一環で、使用済み核燃料再処理工場(再処理工場)がある青森県六ケ所村から、高速増殖原型炉「もんじゅ」が立つ福井県敦賀市まで、複数の仲間とリレー形式で走った経験がある。汚染された土の上で生活する苦悩を東電と国に理解させるため、庭の土を届けることにした。

 六月上旬に二本松市を出発し、仕事が休みの月曜と火曜を利用して東京に向かった。前回歩いた場所までは知人の運転する車などで歩みを進め、福島県郡山市、須賀川市、栃木県那須町と南下してきた。

「原発いらない」「こどもを逃がせ」と手書きした段ボールを体にくくり付ける。それを見た通りがかりの車から、支援のクラクションが鳴る。時には、止まって「がんばってください」と言ってくれるドライバーも。出会った人たちに、福島の現状を話した。

 七月十六日に東京・代々木公園で行われるデモ「さようなら原発十万人集会」に間に合わせるため、すべての道のりを歩くことは断念したが、九、十日は「ホットスポット」が多い千葉県我孫子市、松戸市などから東京・浅草まで歩く予定。十七日に東電本店や経産省前で予定されるデモの際、土を手渡すつもりだ。

「土ぼこりを防ぐマスクを欠かせなくなったし、地面に座って休息することもあり得ない」と関さん。「子どもたちは外で遊ぶ機会が減り、体重が落ちている。そんな状況にあることを、汚染土を手にして痛感してほしい」と力を込めた。

東京新聞 2012-07-03