2012-09-16

戦争絶滅受合法案


 20世紀の初めごろ、デンマークの陸軍大将が、こんな法律があれば、戦争をなくせると考えて起草した法案がある。題して「戦争絶滅受合(うけあい)法案」▼戦争の開始から10時間以内に、敵の砲火が飛ぶ最前線に一兵卒を送り込む。順序はまず国家元首、次にその親族の男性、3番目は総理、国務大臣、各省の次官、そして国会議員(戦争に反対した議員を除く)、戦争に反対しなかった宗教界の指導者…▼妻や娘は従軍看護師として招集し、最前線の野戦病院で働く。権力を持つ者から犠牲になるなら、自らは安全地帯にいてナショナリズムをあおる政治家は姿を消すだろう▼思想家の内田樹(たつる)さんは戦争を車の運転に例える。政府は「行き先」を決め、将軍たちは「運転」をする。「国民」の任務は「憎悪と敵意」をエネルギー源として、「戦争機械」に供給することだという(『ためらいの倫理学 戦争・性・物語』)▼その「憎悪と敵意」が高い水位まで満ちてきた感がある。尖閣諸島の日本国有化に抗議する反日デモが、過去最大規模で中国全土に広がった。一部は暴徒化し日系企業を破壊。上海では、日本人が相次いで暴行を受けた。中国にいる日本人は不安でたまらないだろう▼「戦争も辞さない」と書いた横断幕が掲げられていたのが目を引いた。小さな無人島の領有をめぐって、戦争を始めるほど、両国の政府も国民も愚かではない。

筆洗/東京新聞 2012年9月16日

デンマーク陸軍大将フリッツ・ホルムが起草した「戦争絶滅受合法案」
デンマークのフリッツ・ホルム陸軍大将が起草し、日本のジャーナリスト長谷川如是閑が昭和4年(1929年)に紹介発表した【戦争絶滅受合法案】

バーレーン民主化運動が無視され続ける理由


 西側メディアが取り上げるのは「偽りの民主化革命」に限られる。


バーレーンの民主化蜂起を描いた「暗闇の中で叫ぶ」

プラム・ビレッジ(フランス)のシスターが語る気づきと瞑想


 汚(けが)れなき瞳と慎ましい表情。そして美しい歌が信じられないほど心を揺さぶる。真の宗教性が宗派の差異を軽々と超える。プラム・ビレッジはティク・ナット・ハンを中心とするコミュニティである。シスターたちが10月に来日するようだ。


公式サイト
2012年10月シスター・ブラザー来日【総合】情報
ティク・ナット・ハンのきもち
歩く瞑想/『君あり、故に我あり 依存の宣言』サティシュ・クマール
「100%今を味わう生き方」~歩く瞑想:ティク・ナット・ハン

鹿島圭介、高橋昌一郎


 1冊挫折、1冊読了。

警察庁長官を撃った男』鹿島圭介〈かしま・けいすけ〉(新潮社、2010年/新潮文庫、2012年)/文章に独特のキレがある。良書。ただし私には必要がないと判断した。「命を狙われた点は気の毒だったが、国松の責任は極めて重大というほかない」(単行本27ページ)。犯罪は未然に防ぐことができない。時折、文筆業者にありがちな軽薄な決めつけが見受けられる。

 54冊目『感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性』高橋昌一郎〈たかはし・しょういちろう〉(講談社現代新書、2012年)/限界シリーズ第三弾。偏った知識に全体観を与えてくれる好著。高校のテキストにするべきだと思う。若いうちに読んでおけば無駄な読書をしなくて済むことだろう。軽めの読み物でありながら軽薄に堕していないところがミソ。内容としては行動経済学、認知科学入門であり、意識と自由意志を辿り、カミュの形而上学的反抗にまで触れている。必読書に入れる予定。