岸田●ペリーがきたというのが、アメリカと日本の最初の関係のはじまりなわけですけれども、その最初の事件に関するアメリカ人の見方と日本人の見方に、非常に大きな開きがあって、そこに日米誤解の出発点があるんじゃないかと思います。日本の側から言えば、あれは強姦されたんです。
バトラー●文化に対する強姦ということは言えるんでしょうかねえ。
岸田●その理論的根拠については僕の書いた本のなかに述べておりますが、僕は、個人と個人の関係について言い得ることは集団と集団との関係についても言い得ると考えているわけです。強姦されたと言ったのは、司馬遼太郎さんですがね。僕はどこかで読んだんですけれども、そのとき、まさにそうだと僕は思ったわけです。日本が嫌がるのにむりやり港を開かされたのは、女が嫌がるのにむりやり股を開かされたと同じだと。ところがアメリカのほうは、近代文明をもたらしてあげたんだぐらいに思っている。
バトラー●そのつもりでしたね。
岸田●アメリカのほうは、封建主義の殻に閉じ籠もっていた古い日本を近代文明へと拓いた、むしろ恩恵を与えたぐらいのつもりで、日本のほうは強姦されたと思っているわけですね。同じ事件に関する見方が、かくも違っている。
バトラー●(省略)
岸田●ああいう形で日米が出会ったのは、やはり不幸な出会いだったんじゃないかと思います。いわばある男と女の関係が強姦ではじまったようなものです。そしてその強姦された女は、その男と仲よくしたいと思うんだけれども、いろいろなことから、どうしてもこだわりがあるわけです。
【『黒船幻想 精神分析学から見た日米関係』岸田秀、ケネス・D・バトラー(トレヴィル、1986年/青土社、1992年/河出文庫、1994年)】
ケネス・D・バトラーは東洋言語学博士でアメリカ・カナダ大学連合日本研究センターの所長を務めた人物。岸田の対談集はどれも面白いが本書の出来はあまりよくない。
私はペリー強姦説が岸田のオリジナルだと思い込んでいたので司馬遼太郎の名前を見て驚いた。
ペリー来航の意義は、圧倒的な武力による開国の強要だけではなく、また交易の開始でもなかった。政治と経済、文化といったあらゆる面において、日本が近代という巨大なシステムに吸収されるということだったのである。
【『近代の拘束、日本の宿命』福田和也(文春文庫、1998年)】
つまり強姦された挙げ句に、白人の家へ嫁入りさせられてしまったわけだ。そう。先進国一家だ。
憂鬱になってくる。強姦した相手が金持ちであったために結婚生活が何となく幸福に見えてしまう。日本の経済発展の底流にはそういう心理的な誤魔化しがあったのだろう。で、怒りの矛先はアメリカではなく中国や韓国に向かう。まったく捻(ねじ)れている。
しかも、黒船ペリーが開国を迫ったのは捕鯨船の補給地を確保するためだった(『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男)。現在、その捕鯨で我が日本は白人どもから叩かれている(有色人捕鯨国だけを攻撃する実態)。
「強姦」は喩えではない。アメリカ人は黒人奴隷やインディアンを実際に強姦しまくっている。ノルマンディー上陸作戦においては白人をも強姦している(「解放者」米兵、ノルマンディー住民にとっては「女性に飢えた荒くれ者」)。奴らのフロンティアスピリットとは強姦を意味するのかもしれない。
「世界の警察」を自認するアメリカは強姦魔であった。民主主義が有効であるならば、アメリカは倒されてしかるべき国家だ。
・黒船の強味/『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八
・泰平のねむりをさますじようきせん たつた四はいで夜るも寝られず/『予告されていたペリー来航と幕末情報戦争』岩下哲典
・意識化されない無意識は強迫的に受け継がれていく/『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠