・『ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで』スティーヴン・ホーキング
・『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー
・『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド
・『サイクリック宇宙論 ビッグバン・モデルを超える究極の理論』ポール・J・スタインハート、ニール・トゥロック
・ビッグバン理論の先駆者ジョルジュ・ルメートル
・『宇宙はなぜこんなにうまくできているのか』村山斉
・『宇宙を織りなすもの』ブライアン・グリーン
ビッグバン・モデルの原型となるモデルを初めて提唱したのは、ベルギー人のカトリック司祭にして物理学者でもある、ジョルジュ・ルメートルという人物だった。いくつもの分野でひとかどの仕事をするという境域的な才能の持ち主だったルメートルは、はじめに工学を学び、第一次世界大戦では砲兵として従軍して叙勲された。1920年代になって司祭になるための勉強を始め、同時に専門を工学から数学に切り替えた。やがて宇宙論の分野に進み、著名なイギリスの天体物理学者サー・アーサー・エディントンのもとで研究を行ったのち、アメリカのハーバード大学に移り、最終的にはマサチューセッツ工科大学で物理学の博士号を取得した。それは彼にとって二つ目の博士号だった。
1927年、まだ二つ目の博士号を取得する前のこと、ルメートルはアインシュタインの一般相対性理論の方程式をじっさいに解き、この理論が予想する宇宙は、静止していないということを示したばかりか、われわれが住むこの宇宙は、現に膨張しているという説を唱えたのである。それは途方もない話に思われたので、アインシュタインも、「あなたの数学は正しいが、あなたの物理学は忌まわしい」という強烈な言葉で反対を表明したほどだった。
しかしルメートルは挫けず、1930年代には、膨張しているわれわれの宇宙は、無限小の点から始まったという説を提唱した。その点のことを彼は、「原初の原子」と呼び、おそらくは創世記の物語を念頭に置きながら、その始まりの時のことを、「昨日のない日」と呼ぶことができるだろうと述べた。
【『宇宙が始まる前には何があったのか?』ローレンス・クラウス:青木薫訳(文藝春秋、2013年/文春文庫、2017年)】
人間の叡智は現実に先駆けて科学原理を見出すことがある。例えばルメートルが指摘した宇宙膨張説、相対性理論による時空の歪み、ブラックホールも観測される前から既に予想されていた。更に面白いのは発見した科学者の思惑を超えて原理が自己主張を始めることだ。
アーサー・エディントンについてはよく知られた有名なエピソードがある。
1920年代のはじめに、あるジャーナリストが(アーサー・)エディントンに向かって、一般相対論を理解しているものは世界中に3人しかいないと聞いているが、と水を向けると、エディントンはしばらく黙っていたが、やがてこう答えたそうだ。「はて、3番目の人が思い当たらないが」。
【『ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで』スティーヴン・ホーキング:林一訳〈はやし・はじめ〉訳(早川書房、1989年/ハヤカワ文庫、1995年)】
時空の歪みを最初に観測したのもアーサー・エディントンその人であった。
猿も木から落ち、アインシュタインも誤る。ただし科学の誤謬は観測によって常に修正され、次の新たなステップへと力強く前進してゆく。
・アーサー・エディントンと一般相対性理論/『ゼロからわかるブラックホール 時空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム』大須賀健