・『ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで』スティーヴン・ホーキング
・『エレガントな宇宙 超ひも理論がすべてを解明する』ブライアン・グリーン
・『ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い』レオナルド・サスキンド
・素粒子衝突実験で出現するビッグバン
・『量子力学で生命の謎を解く 量子生物学への招待』ジム・アル=カリーリ、ジョンジョー・マクファデン
・『サイクリック宇宙論 ビッグバン・モデルを超える究極の理論』ポール・J・スタインハート、ニール・トゥロック
「あ、そうだ。画像を探さなくっちゃ……」と思い立ってから既に1時間以上経過している。前に保存しておいたのだが、パソコンが成仏してしまったのだ。目的の画像を見つけるまで、それほど時間はかからなかった。何の気なしに「Big Bang」で画像検索をし、更に「LHC」(大型ハドロン衝突型加速器)で調べたのが過ちであった。あるわあるわ(笑)。おかげで動画まで辿ることができた。そして書く気が完全に失せてしまった(笑)。
著者のフランク・ウィルチェックは2004年にノーベル物理学賞を受賞している。だからいい加減なことは書いていないはずだ。多分。私程度の知識ではかなり難しかった。それでも何とか読み終えることができたのだから、わかりやすく書いてあるのだろう。
感覚と世界模型
そもそもわたしたち人間というものは、奇妙な原材料を使って自分たちの世界の模型を作っている。その原材料を収集しているのが、情報に溢れた宇宙にフィルターをかけて、数種類の入力データの流れに変えられるように、進化によって「設計」された信号処理ツールだ。
「データの流れ」といっても、ぴんとこないかもしれない。もっと馴染み深い呼び名で言えば、視覚、聴覚、嗅覚などのことだ。現代では、視覚とは、目の小さな穴を通過する電磁輻射の幅広いスペクトルのなかで、虹の七色に当たる狭い範囲だけを取り上げて標本抽出するもの、と捉えられている。聴覚は、鼓膜にかかる空気の圧力をモニターし、嗅覚は、鼻粘膜に作用する空気の化学分析を提供するが、その分析は不安定なこともある。ほかに、体が全体としてどんな加速をしているか(運動覚)や、表面の温度や圧力(触覚)について大雑把な情報を与えるもの、舌のうえに載った物質の化学組成について数項目の粗雑な判定を行なうもの(味覚)、そして、ほかにも数種類の感覚系統が存在する。
【『物質のすべては光 現代物理学が明かす、力と質量の起源』フランク・ウィルチェック:吉田三知世〈よしだ・みちよ〉訳(早川書房、2009年)以下同】
既に何度も書いてきた通り、感覚されたもの=世界である以上、世界とは感覚された情報空間を意味する。つまり世界は目前に開けているわけではなく、感覚の中にのみ存在するのだ。世界とは感覚であると言い切ってしまっても構わない。目をつぶれば全くの別世界が立ち上がってくる。光のない世界だ。しかしながら構成が変わっただけで感覚がある限り世界は厳然とある。
世界の深奥(しんおう)にある構造は、その表面構造とはまったく異なる。人間に生まれつき備わっている感覚は、人間が作り上げた、最も完全で正確な世界模型にはうまく対応できない。
マクロ宇宙では時空が歪んでいるし、ミクロ宇宙では光子が粒なのか波なのかすら判然としない。人間の感覚で知覚できるサイズは限られている。物質に固体・液体・気体という位相があるように、宇宙にも位相があるのだろう。
実際、質量保存則が、ものの見事に成り立たない場合もある。ジュネーヴ近郊のCERN研究所で1990年代に稼働していた大型電子陽電子コライダー(LEP)では、電子と陽電子(電子の反粒子)が、光速の99.999999999パーセントに迫る速度に加速される。この速度で逆向きに回転する電子と陽電子を衝突させると、衝突の残骸が大量にできる。典型的な衝突ではπ中間子が10個、陽子が1個、そして反陽子が1個生じる。さて、衝突の前後の送出量を比べるとどうなるだろうか?
(式、中略)
でてくるものが、入ってきたものの約3万倍も重いことになる。
表紙に配されているのは高エネルギーで重イオンを衝突させた実験の画像である。
誰もが「何じゃ、これは!」とジーパン刑事の台詞(せりふ)を口にしたことと思う。確かに我々の感覚世界を超越してますな。しかも、1×1の衝突が3万となるのだ。願わくは1円玉と1円玉をぶつけて、3万円にして欲しいものだ。
この状態を「スモール・ビッグバン」と称する。動画があったので紹介しよう。
いやあ興奮してくる。だが、この実験に反対する科学者もいる。素粒子の衝突で生じた莫大なエネルギーがブラックホールを生成する可能性があるというのだ。
・超大型粒子加速器でブラックホール製造実験
自然界の基本相互作用は四つの力で、強い力・弱い力・電磁力・重力で構成されている。強い力は距離に反比例して離れれば離れるほど強くなる。原発事故を見てもわかるように、微小な世界にとんでもない力が隠れている。
では、他の画像も紹介しよう。詳細は不明だが、いずれもスモール・ビッグバン直後の様相を撮影(またはモデル化)したものと思われる。
ねー、凄いでしょー。しかし何なんだろうな、この感動は。「神は言われた。『光あれ』。こうして、光があった」(旧約聖書、創世記)ってな感じだわな。
一般的に、運動している物体や、相互作用する物体の場合、エネルギーと質量は比例しません。E=mc²は、まったく成り立たないのです。
静止状態と関係性が織り成す現実世界との相違。
じつのところ、光そのものが、たいへん印象的な例だ。光の粒子、光子は、質量がゼロである。なのに、光は重力によって曲がってしまう。と言うのも、光子のエネルギーはゼロではなく、重力はエネルギーに作用するからだ。
ってことは光の場合、E=cになるってことなのか? 頭の中にフックが引っ掛かるのだが、如何せん知識が追いつけない。
すべてのものは電子と光子でできている。原子は、電子と原子核でできている。原子核は、すべての電子が集まった電子殻よりもはるかに小さい(原子核の半径は、電子殻のそれの約10万分の1)が、そこに正の電荷がすべて存在し、また、原子の質量のほとんど全部──99.9パーセント以上──が集中している。電子と原子核が電気的に引き付け合うことで、原子は一体に保たれている。最後に、原子核は陽子と中性子でできている。原子核を一体に保っているのは、電気力とはまた違う、はるかに強いが短い距離しか働かない力である。
・原子の99.99パーセントが空間
つまり、パチンコ玉(11mm)の向こう側にサッカー場の長い方を30個並べた状態で、質量はパチンコ玉に集中しているわけだ。
クォークとグルーオン──厳密には、クォークとグルーオンの場──は、完璧で完全な数学的対象物だということだ。クォークとグルーオンの性質は、サンプルを提供したり、測定したりすることは一切必要なしに、概念だけを使って、完全に記述することができる。そして、その性質は、変えることができない。方程式をいじくりまわせば、式を損なわずには済まされない(実際、式は矛盾するようになってしまう)。グルーオンは、グルーオンの方程式に従うものなのだ。ここでは、物質(イット)がビットそのものなのである。
クォークが素粒子の一種であることは知っているが、グルーオンというのがわかりにくい。膠着子(こうちゃくし)だってさ。動きの悪そうな名前だよね。
ジョン・ホイーラーが「世界のありとあらゆるものは情報であり、その情報(bit)を観測することによって存在(it)が生まれる」と提唱した(宇宙を決定しているのは人間だった!? 猫でもわかる「ビットからイット」理論、を参照した)。
ところが、ミクロ世界においてはイット=ビットとなる場合があるというのだ。いやはや驚いた。きっと万物は情報なのだろう。存在=情報。
・1ビットの情報をブラックホールへ投げ込んだらどうなるか?/『ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い』レオナルド・サスキンド
・生命とは情報空間と物理空間の両方にまたがっている存在/『苫米地英人、宇宙を語る』苫米地英人
で、本書を読めば「物質のすべては光」であることが理解できるかというと、そうは問屋が卸さない。やや尻すぼみになっている印象もある。ただ、科学が全く新しい宇宙の前に立っていることだけは凄まじい勢いで伝わってくる。
知性は前へ進み続ける。宇宙の成り立ちを理解した時、人間の内なる宇宙も一変するに違いない。
・ブラックホールの画像
・大型ハドロン衝突型加速器(LHC)とスモール・ビッグバン