故に昔年の異端妄説は今世の通論なり、昨日の奇説は今日の常談なり。然ば即ち今日の異端妄説もまた必ず後年の通説常談なるべし。学者宜しく世論の喧しきを憚らず、異端妄説の譏を恐るることなく、勇を振て我思う所の説を吐くべし。
――福澤諭吉『文明論之概略』
【『自由貿易の罠 覚醒する保護主義』中野剛志〈なかの・たけし〉(青土社、2009年)】
・中野剛志
NHKの関係者から「すさまじい勢いで受信契約世帯が増えている」という話をきいていた。昭和33年のNHK受信契約世帯は100万世帯だったが、1年後には500万世帯に迫る勢いだという。すごい伸び率である。こんな伸びを示しているものが他にあるだろうか。
それに輪をかけるように、34年2月に東芝がカラーテレビ第1号を完成させていた。カラーテレビはまだまだぜいたく品で1台52万円だが、各方面から問い合わせが多いという。さらにソニーが昭和35年4月に向けてオールトランジスターテレビを発売するという噂も聞いていた。小売価格は6万9800円だという。
確実にテレビは普及する。
白黒(モノクロ)からカラーになり、サイズも自由になる、と渡辺晋は予測した。
【『ナベプロ帝国の興亡』軍司貞則〈ぐんじ・さだのり〉(文藝春秋、1992年/文春文庫、1995年)以下同】
映画は確実にテレビに喰われ始めていた。劇場へ行く観客が減っているのだ。全盛期の昭和33年に年間11億2700万人を数えた映画館入場者数は、36年には8億6300万人へと激減していた。
戦後、映画は娯楽の王者であり、テレビ創成期も映画俳優はテレビを「電気紙芝居」と蔑んで絶対にブラウン管には登場しなかった。ところが昭和37年にはNHKの受信契約世帯は1000万台を突破し、4月からTBS系で始まったアメリカのテレビ映画「ベン・ケーシー」が視聴率50パーセントを超えるという事態が生じる。徐々にではあるが「テレビ」と「映画」の関係の逆転現象が起こり始めていた。
晋と美佐はそれに気づいていた。
1.もっと使わせろ、2.捨てさせろ、3.無駄使いさせろ、4.季節を忘れさせろ、5.贈り物をさせろ、6.組み合わせで買わせろ、7.きっかけを投じろ、8.流行遅れにさせろ、9.気安く買わせろ、10.混乱をつくり出せ【電通「戦略十訓」】(@take23asn)
30になろうと40になろうと奴らは言い続ける…
自分の人生の本番はまだ先なんだと…!
「本当のオレ」を使っていないから
今はこの程度なのだと…
そう飽きず 言い続け 結局は老い…死ぬっ…!
その間際 いやでも気が付くだろう…
今まで生きてきたすべてが
丸ごと「本物」だったことを…!(『賭博黙示録 カイジ』)
【『福本伸行 人生を逆転する名言集 覚醒と不屈の言葉たち』福本伸行著、橋富政彦編(竹書房、2009年)以下同】
リスクを恐れ 動かないなんてのは
年金と預金が頼りの老人のすることだぜ(『賭博黙示録 カイジ』)
あの男は死ぬまで
純粋な怒りなんて持てない
ゆえに本当の勝負も生涯できない
奴は死ぬまで保留する…(『アカギ』)
一生迷ってろ
そして失い続けるんだ……
貴重な機会(チャンス)を…!(『賭博黙示録 カイジ』)
教えたる
正しさとは【つごう】や……
ある者たちの都合にすぎへん…!
正しさをふりかざす奴は…
それは ただ
おどれの都合を声高に主張しているだけや(『銀と金』)
無念であることが
そのまま“生の証”だ(『天 天和通りの快男児』)
みんな… 幸福になりたいんだよね…
だから… 危ないことはしたくないの
自分にとって都合のいい条件を
どんどん揃えていくの──
そして限りなく安全地域(セーフエリア)に入っていって
そこで今度は絶望的に煮詰まってゆくんだわ
揃えた好条件に囲まれて…
身動きもできない──
なんて不自由なんだろう(『熱いぜ辺ちゃん』)
棺さ…!
お前は「成功」という名の棺の中にいる…!
動けない…
もう満足に… お前は動けない
死に体みたいな人生さ…!(『天 天和通りの快男児』)