2011-07-06

ガロア


ピュタゴラスは鍛冶屋で和音を発見した
ソフィー・ジェルマン
川の長さは直線距離×3.14
ピタゴラスの定理
ピタゴラスの証明は二重の意味で重要だった
図書室の一冊の雑誌をめぐる偶然の出会いが数学史を変えた
・ガロア

 数学に対するガロアの情熱は、まもなく教師たちの手に余るようになった。そこで彼は、当時の大数学者による最新の書物からじかに学びはじめた。ガロアはどんなに複雑な概念でもスポンジのように吸収し、17歳にして『ジェルゴンヌ数学年報』に処女論文を発表するまでになった。神童の前途は洋々として見えた。だが、カミソリのように研ぎ澄まされたその頭脳こそが、ガロアの行く手をさえぎる最大の障壁となったのである。彼の数学の知識をもってすれば、高等中学の試験ぐらいはわけなく合格できただろう。しかし彼の解法はときとしてあまりにも革新的で洗練されすぎていたため、試験官には理解できなかったのである。さらに悪いことに、ガロアは多くの計算を暗算ですませ、論証のプロセスをいちいち書こうとはしなかった。それが無能な試験官たちをいっそういらだたせることになった。
 しかもこの若き天才は、短気なうえに無分別ときていた。

【『フェルマーの最終定理 ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで』サイモン・シン:青木薫訳(新潮社、2000年/新潮文庫、2006年)】

エヴァリスト・ガロア
ガロアの生涯

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)ガロア―天才数学者の生涯 (中公新書)ガロアの生涯―神々の愛でし人

ミシェル・リバジ議員:20ミリシーベルト 避難基準は「妥当性欠く」


 画像クリックで拡大。神戸新聞 2011年7月2日付。


海外の見方「子供に20ミリシーベルトの被爆をさせるなんて無茶苦茶です」

サラダ記念日


「この味がいいね」と君が言ったから 七月六日はサラダ記念日

【『サラダ記念日』俵万智(河出書房新社、1987年/河出文庫、1989年)】

人生という名の番組、私という受信機/『脳のなかの幽霊』V・S・ラマチャンドラン

サラダ記念日 (河出文庫―BUNGEI Collection)

2011-07-05

言葉にならぬ思い/『ハイファに戻って/太陽の男たち』ガッサーン・カナファーニー


 出稼ぎ目的でイラクからクウェートへ密入国する男たちを描いた短篇。ギラギラと情け容赦なく照りつける太陽。平等に降り注ぐ光の矢が、貧しき者の背中に突き刺さる。

 イスラム教国は法律と道徳と宗教とが完全に一致している。そのため他の国々と比べると厳罰が徹底している。石打ち、鞭打ちは当たり前だ。ちなみに不倫をするとこうなる。

LiVE JOURNAL(閲覧注意)

 違法行為は命懸けであった。鬱屈した思いが更に凝縮される。

 彼はなにか言おうと努めたが、湿り気をおびた胸のつかえが喉をからませ、一言も口にすることができなかった……彼はちょうどこれと同じ胸のつかえをバスラで味わった。バスラで彼は、クウェイトへの密入国を商売にしているデブ親爺の事務所を訪れ、一人の老いぼれ男が荷いうるかぎりの汚辱と希望を両の肩に背負いながらこの男の前に立っていた……(「太陽の男たち」1963年)

【『ハイファに戻って/太陽の男たち』ガッサーン・カナファーニー:黒田寿郎、奴田原睦明〈ぬたはら・のぶあき〉訳(河出書房新社、1978年〈『現代アラブ小説集 7』〉/新装新版、2009年/河出文庫、2017年)】

 言葉にならぬ思いがある。モヤモヤした不満とくすぶり続ける怒り。衣食に事欠くようになれば人は獣と化す。

『二重言語国家・日本』石川九楊

 理不尽に慣れると脳は考えることをやめる。いったん考え始めると自我を保てなくなるからだ。飲み込んだ言葉が情動を圧迫する。マグマと化した情動は脳の奥深くで今か今かとタイミングを計る。

 人々の怒りが沸点に達した時、歴史を塗り替える英雄が登場する。

歴史が人を生むのか、人が歴史をつくるのか?/『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン

 権力者は民の沈黙を恐れよ。言葉にならぬ思いをすくい取れ。さもなくば共同体に暴力の風が吹くことだろう。革命は血生臭さを伴う。

 病院で待たされ、金融機関で待たされ、ハローワークで待たされる人々。泣き止まぬ幼児の傍(かたわ)らで必死に虐待をこらえる若い母親。「ノルマが達成できないなら辞めてもらうまでだ」と上司から脅されるサラリーマン。面接に次ぐ面接で冷ややかな視線にさらされる学生。連れ合いの介護に疲れ果てた老婦人。家族を喪いながらも出口のない避難所生活を強いられる被災者。

 日本の至るところで不満が溜まっている。ファシズムの足音が聞こえやしないか?

パレスチナ人の叫び声が轟き渡る/『ハイファに戻って/太陽の男たち』ガッサーン・カナファーニー

ジョー・オダネル


 1冊読了。

 45冊目『トランクの中の日本 米従軍カメラマンの非公式記録』ジョー・オダネル、ジェニファー・オルドリッチ/平岡豊子訳(小学館、1995年)/ネット上で知った写真を見たくて購入。直立不動の姿勢で死んだ赤ん坊をおぶった少年だ。焦土と化した戦後の佐世保、福岡、神戸、そして広島、長崎が撮影されている。写真もさることながら、オダネル青年(当時23歳)の誠実さが胸を打つ。彼は鬼畜ではなかった。人々を撮影する際も必ず許可を求め、子供たちにはお菓子を与えている。彼と日本人との間には「戦争をする理由」が存在しなかった。カメラのファインダーはアメリカ人青年の清らかな瞳そのものであった。小学生にも読み聞かせたい名作だ。