「ただ独り、不確かな道を歩め」エリアス・カネッティ
小泉三申〈こいずみ・さんしん=小泉策太郎〉は、小学校を卒業しても、進学は許されなかった。村には漢学塾があったが、一ヶ月十銭の謝礼がはらえない。他家の子守にやとわれた三申は、子供を背中におぶさったまま塾の庭に立ち、もれ聞こえる講義の声を聞いて自分の血肉とした。 【『出世を急がぬ男たち』小島直記〈こじま・なおき〉(新潮社、1981年/新潮文庫、1984年)】