2012-07-30

目撃された人々 27


 声が美しかった。そして豊かな響きがあった。声だけ聴いていると60代半ばの女性とは思えなかった。ただし時折、優しい性格が裏目に出て自信のなさそうな態度が見受けられた。初めて会った頃からそれが気になって仕方がなかった。

 オフィスでもスリッパを引きずるように歩き、年齢に不相応なほど猫背がひどかった。

 さほど親しいわけでもなく個人的なことは殆ど知らない。にもかかわらず私の気を惹く何かがあった。

 多分、中年期以降に何かしらの不条理や不遇を経験してきたのだろう。その見えない生乾きの傷が、彼女の声を通して私の胸に響いてくるのだ。

 人は生きる気力を失った瞬間に姿勢が歪む。地球の引力に負けてしまうためだ。背骨は悲哀のカーブを描いて湾曲する。

 苦しい胸の内を彼女は手放していないことだろう。あるいは死ぬまで抱えてゆく覚悟を決めているのかもしれない。

 そんなことをつらつら思っていると、背中をさすりながら「私が一緒に泣いてあげるよ」と言いたい衝動に駆られる。

 私自身が精神的にタフなことと関係しているかどうかはわからぬが、心に傷を負っている人を見るとどうしても放っておけなくなる。

 お孫さんの写真を見せてくれた時は少女のように微笑んでいた。しかし孫の存在は人生の重力を跳ね返す力とはなり得ないことだろう。

 不幸の本質は悲哀と恐怖である。そこから離れるためには誰かに話す必要がある。「話す」が「離す」に通じるからだ。

目撃された人々(旧)

夕陽とラクダ

fantastic of The desert

 私がtumblrを始めてから最も多くリブログされたのがこの画像である。今日現在で433noteとなっている。

 雲のかかった夕陽がラクダたちの輪郭に光沢を与える。太陽が今日一日の生を終えて死に至る時、天と地は闇へ向かって溶け合い一つとなる。静かで穏やかな世界。いたずらに死を恐れる人は、きっと生が脅(おびや)かされているのだろう。



 他の写真も素晴らしいのでまとめて紹介しよう。以下、「dhahi alsaeedi's photostream」より。

The story of a thousand nights and night

Dreamy World

The magic of the desert

Imagination of the Middle East !!

cameleer

Undated

水上を往くラクダ

ドイツ市民も「再稼働反対!」