「南京大虐殺」とは、昭和12年12月の南京戦のさいに、6週間にわたって日本軍による虐殺、暴行、略奪、放火が生じたとの主張だ。近年の研究によってその根拠は揺らいできた観があるが、先日、南京市にある「南京大虐殺記念館」をユネスコの世界文化遺産に登録申請しようという構想が報道されたように国際社会では史実として定着しつつある。これについては今日まで「大虐殺の証拠写真」として世に出た写真の果たした役割が小さくない。
本書は東中野修道・亜細亜大学教授と南京事件研究会写真分科会がこうした写真143枚をとりあげ、3年がかりでその信頼度をはかった検証報告だ。いわゆる「証拠写真」の総括的検証がなされたのは初めてのこと。延べ3万枚を超える関連写真との比較検証・照合からわかったことは、これらの写真の半数近くが、南京戦の翌年に中国国民党中央宣伝部が戦争プロパガンダ用に作った2冊の宣伝本に掲載されたものだったことだ。しかもそのうちの数枚は『支邦事変画報』など、当時日本の写真雑誌に載った従軍カメラマン撮影の写真をそのまま使い、略奪や無差別爆撃、強制労働の写真であるかのようなキャプションに付け替えられていた。「日本兵」の軍服の細部や被写体の影の有無から合成あるいは演出写真と判明したものもある。さらに戦後、南京裁判に提出されたという16枚の写真については、写っている人物の身長と影の比率から、撮影時期を5月末か6月初めと特定。「大虐殺」発生時との矛盾が判明した。また16枚の画面サイズの計測によってフィルム本数を割り出し、写真提供者の証言との食い違いを明らかにしている。こうして著者たちは、あらゆる角度から検証を加えたうえで「証拠として通用する写真は1枚もなかった」との結論を導き出した。本書の公正な検証プロセスを読めば、この結論には誰もが頷かれることだろう。
・百人斬り競争
・「百人斬り競争」事件について日本人が知らなければならない「本当」のこと:渡邉斉己