2014-05-20
2014-05-19
必須音/『音と文明 音の環境学ことはじめ』大橋力
物質の世界に必須栄養、例えばビタミンが在るように、情報の世界にも、生きるために欠くことのできない〈【必須音】〉が存在する。
【『音と文明 音の環境学ことはじめ』大橋力〈おおはし・つとむ〉(岩波書店、2003年)】
実は都会よりも森の方が賑やかな音で溢れているという。恐るべきデータである。にもかかわらず人は森で落ち着きを見出す。喧騒とは認識しない。これは滝の音を想像すれば理解できるだろう。雨の音も同様だ。うるさいのは飽くまでも屋根が発する音だ。蝉の鳴き声だって、あれが赤ん坊の泣き声なら耐えられないことだろう。
数週間前のことだが、とある公園を通りかかった時、頭の上からざわざわという音が降ってきた。見上げると30メートルほどもある木々が風に揺れていた。まるで樹木が何かを語っているかのようだった。その音は決して耳障りなものではなかった。
音は空気の振動である。そしてコミュニケーションも振動(ダンス)なのだ(『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』)。
森の音が心地よいことは誰でも気づくことだ。それを「必須音」と捉えたところに大橋力の卓見がある。大橋は芸能山城組の主催者。耳と音の関係に興味のある人は必読。増刷されたようだが4400円から5076円に値段が跳ね上がっているので、興味のある人はまず『一神教の闇 アニミズムの復権』(安田喜憲)から入るのがよい。
・風は神の訪れ/『漢字 生い立ちとその背景』白川静
・介護用BGM 自然音
小林秀雄、藤井厳喜
1冊挫折、1冊読了。
『超大恐慌の時代 私たちが生きる未来』藤井厳喜〈ふじい・げんき〉(日本文芸社、2011年)/良書。タイミングが合わず。後回し。
33冊目『学生との対話』小林秀雄:国民文化研究会・新潮社編(新潮社、2014年)/小林の講演および質疑応答をそのまま文字に起こした作品。本書を待ち望んだ人は多いに違いない。かつて私も一部を紹介した(集団行動と個人行動/『瞑想と自然』J・クリシュナムルティ)。新潮CD講演『小林秀雄講演 第2巻 信ずることと考えること』を聴いただけでは気づかなかったことが数多く発見できた。小林秀雄は生前、講演や対談の類いを一切録音させなかったという。それは自分の意思に反して部分的に流用されることを避けるためであった。本講演は隠し録りされたもので、小林の没後に遺族の了解を得て発表した。巻末には小林が手を入れ直した『小林秀雄全作品 26 信ずることと知ること』も収録。物事の本質に迫る骨太の直観力が横溢している。ハードカバーでありながら1404円という値段に抑えたのも良心的な快挙といってよい。
2014-05-15
小林秀雄、高山正之、夏井睦、他
2冊挫折、2冊読了。
『緊迫シミュレーション 日中もし戦わば』マイケル・グリーン、張宇燕〈チョウ・ウェン〉、春原剛〈すのはら・つよし〉、富坂聰〈とみさか・さとし〉(文春新書、2011年)/歯が立たず。数ページだけ読む。
『さらば消毒とガーゼ 「うるおい治療」が傷を治す』夏井睦〈なつい・まこと〉(春秋社、2005年)/私は介護の経験があるのでラップ療法は5~6年前から知っていた。数ヶ月前のことだが知人の子供が顔をざっくり切ったと聞き、すかさず教えた。今では殆ど傷跡も残っていない。正確な知識にするべく開いた。中ほどまで読んで、後は飛ばし読み。傷口を「消毒する、乾かす」のは誤りで、医師やナースでも知らない連中が多い。傷口を水で洗って、ラップを貼るだけで十分だ。実用書としては良書。ただ繰り返しの記述が目立つ。
31冊目『変見自在 サダム・フセインは偉かった』高山正之(新潮社、2007年/新潮文庫、2011年)/正確には高山の高はハシゴの「高」。とうとう50歳になって私もかような本を読むようになってしまった。武田邦彦との対談動画「欧米人が仕掛ける罠」を見ていたので内容は予想できた。ある記述を照会するために取り寄せたのだが、面白くて全部読んでしまった。朝日新聞の悪口がメインなのだが、知識が豊富で人物や歴史の見方が変わる。高山が保守論客の中で信用に値するのは、中国・韓国だけではなく米国批判を行っているためだ。彼が産経新聞をこき下ろせば、もっと高く評価できるのだが。
32冊目『小林秀雄対話集 直観を磨くもの』小林秀雄(新潮文庫、2013年)/良書。『小林秀雄全作品』の14、15、16、17、19、21、25、26、28巻が底本。私は『小林秀雄全作品 26 信ずることと知ること』を読んでいたので部分的には再読になるが、それでも新しい発見が多かった。小林秀雄は大嫌いな人物なのだがやっぱり面白い。特に対談と講演が刺激的だ。この人は物怖じするところがない。有り体にいえば生意気で不躾。驚いたのは湯川秀樹との対談で、小林が量子論を1948年(昭和23年)の時点で理解していたこと。恐るべき知性である。今読んでいる『学生との対話』と併せて、格好の小林秀雄入門といってよい。
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