・労働力の商品化
・読書人階級を再生せよ
そこで私が必要を強く感じるのが、階級としてのインテリゲンチャの重要性です。かつての論壇、文壇は階級だったわけです。編集者も階級だった。その中では独特の言葉が通用して、独特のルールがあった。ギルド的な、技術者集団の中間団体です。国家でもなければ個人でもなく、指摘な利益ばかりを追求するわけでもない。自分たちの持っている情報は、学会などの形で社会に還元する。
時代の圧力に対抗するにはこういう中間団体を強化するしか道はない。なんでもオープンにしてフラット化すればよい、というものではありません。
新書を読むような人はやはり読書人階級に属しているのです。ものごとの理屈とか意味を知りたいという欲望が強い人たちで、他の人たちと少し違うわけです。読書が人間の習慣になったのは新しい現象で、日本で読書の広がりが出てきたのは円本が出版された昭和の初め頃からでしょうから、まだ80年くらいのものではないですか。円本が出るまでは、本は異常に高かった。いずれにせよ、現代でも日常的に読書する人間は特殊な階級に属しているという自己意識を持つ必要があると思います。
読書人口は、私の皮膚感覚ではどの国でも総人口の5パーセント程度だから、日本では500~600万人ではないでしょうか。その人たちは学歴とか職業とか社会的地位に関係なく、共通の言語を持っている。そしてその人たちによって、世の中は変わって行くと思うのです。
【『人間の叡智』佐藤優〈さとう・まさる〉(文春新書、2012年)】
読者の心をくすぐるのが巧い。しかも本書が文庫化されないことまで見通しているかのようである(笑)。ニンマリとほくそ笑んだ挙げ句に我々は次の新書を求めるべく本屋に走るという寸法だ。
佐藤優は茂木健一郎の後を追うような形で対談本を次々と上梓している。茂木と異なり佐藤の場合は異種格闘技とも思える相手が目立つ。その目的はここでも明言されている通り「中間団体の強化」にある。佐藤なりの憂国感情に基づく行動なのだろう。
共通言語に着目すれば佐藤のいう中間団体はサブカルチャー集団とも考えられる。共通言語から文化が生まれ、規範が成り立つ(下位文化から下位規範が成立/『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹)。人々の行動様式(エートス)を支えるのは法律ではなく村の掟、すなわち下位規範である。佐藤は驚くべき精力でそこに分け入る。
佐藤の該博な知識は大変勉強になるのだが、どうも彼の本心が見えない。イスラエル寄りの立場が佐藤の存在をより一層不透明なものにしている。
・問いの深さ/『近代の呪い』渡辺京二