2014-11-09

楚国の長城/『奇貨居くべし 黄河篇』宮城谷昌光


『天空の舟 小説・伊尹伝』宮城谷昌光
・『太公望』宮城谷昌光
『管仲』宮城谷昌光
『重耳』宮城谷昌光
『介子推』宮城谷昌光
・『沙中の回廊』宮城谷昌光
『晏子』宮城谷昌光
・『子産』宮城谷昌光
『湖底の城 呉越春秋』宮城谷昌光
『孟嘗君』宮城谷昌光
『楽毅』宮城谷昌光
『青雲はるかに』宮城谷昌光

 ・戦争を問う
 ・学びて問い、生きて答える
 ・和氏の璧
 ・荀子との出会い
 ・侈傲(しごう)の者は亡ぶ
 ・孟嘗君の境地
 ・「蔽(おお)われた者」
 ・楚国の長城
 ・深谿に臨まざれば地の厚きことを知らず
 ・徳には盛衰がない

『香乱記』宮城谷昌光
・『草原の風』宮城谷昌光
・『三国志』宮城谷昌光
・『劉邦』宮城谷昌光


「呂氏、長城が気にいったか」
 勘ちがいをした向夷〈きょうい〉が、ぼんやりとたたずんでいる呂不韋の肩をたたいた。
「ああ、あきれるほど気にいったよ」
 そういういいかたしかできないほど長城は無益なものにみえた。為政者の見識の低さを如実にあらわしているのがこれであるといえる。おおげさにいえば、人類の成長をとめ、可能性をさまたげるのが長城である。とくに庶民は、いちどは長城を有益なものと信じたがゆえに、その存在が無益なものであることがわかった時点から、為政者にたいして不信をつのらせ、人の営為そのものにむかう意味を阻喪(そそう)したであろう。楚(そ)の崩壊も、秦(しん)の圧力に耐えきれなくなったというより、内なる崩れが原因なのではあるまいか。

【『奇貨居くべし 黄河篇』宮城谷昌光(中央公論新社、1999年/中公文庫、2002年/中公文庫新装版、2020年)】

 以下2003年のニュースである。

「中国最古の長城は河南省の楚長城」専門家が指摘

  楚長城学術シンポジウムがこのほど、河南省魯山県で開かれた。参加した専門家と学者の見解は「紀元前688年に建設された楚国の長城が、中国最古の長城である」という意見で一致した。
河南省に現存する楚長城は、上部が丸まった形状をしており、西線、北線、東線の3つの部分に分かれている。平頂山市の魯山県と葉県、舞鋼市、南陽市の方城県と南召県にまたがり、全長にはおよそ800キロ。特に南召県板山坪鎮南部の周家寨楚長城は、全長20キロ以上が、ほぼ完全な形で残っている。

「人民網日本語版」2002年10月30日

 楚の国名は「四面楚歌」との言葉で現在にまで伝わる。

 作家のW・G・ゼーバルトは「途方もなく巨大な建築物は崩壊の影をすでにして地に投げかけ、廃墟としての後のありさまをもともと構想のうちに宿している」(『アウステルリッツ』)と指摘する。権勢を誇るための巨大な建物は「長城」と考えてよかろう。カトリック教会の麗々しさはその典型だ。

 それを嗤(わら)うのは簡単だ。だが、その一方で豪邸や高級車を羨む自分がいる。現代における欲望は金銭への執着という形で具体化される。欲望から離れるための修行に「喜捨」(きしゃ)がある。これが六波羅蜜布施行(ふせぎょう)となる。葬儀や法要で僧侶に渡すお布施の布施だ。

 自分で稼いだお金を惜しみなく捨てる。捨てるのが嫌なら使うでも構わない。何かを買う、ご馳走を食べる、映画やコンサートへゆく、書籍を購入する。もう少し頑張って慈善団体に寄付をする。あるいは困窮している友人に返ってこなくても困らない範囲でカネを貸してやる。何かをプレゼントするのもいいだろう。

 この国のシステムはきちんと税金が循環しないところに経済的な致命傷を抱えている。それを打開するには一人ひとりがお金を使うしかないのだ。皆がカネを使えば景気はあっと言う間に浮上する。

 中国戦国時代の大商人は社会や人々に投資をした。それによって社会を改革した。少ない額でも他人に投資してみると、驚くほど人生は豊かになる。

    

2014-11-07

郵政民営化の真相/『この国を支配/管理する者たち 諜報から見た闇の権力』中丸薫、菅沼光弘


『日本はテロと戦えるか』アルベルト・フジモリ、菅沼光弘:2003年

 ・民主主義のスクラップ・アンド・ビルドを繰り返すアメリカ
 ・郵政民営化の真相
 ・日本の伝統の徹底的な否定論者・竹内好への告発状 その正体は、北京政府の忠実な代理人(エージェント)

『菅沼レポート・増補版 守るべき日本の国益』菅沼光弘:2009年
『この国のために今二人が絶対伝えたい本当のこと 闇の世界権力との最終バトル【北朝鮮編】』中丸薫、菅沼光弘:2010年
『日本最後のスパイからの遺言』菅沼光弘、須田慎一郎:2010年
この国の権力中枢を握る者は誰か』菅沼光弘:2011年
『この国の不都合な真実 日本はなぜここまで劣化したのか?』菅沼光弘:2012年
『日本人が知らないではすまない 金王朝の機密情報』菅沼光弘:2012年
『国家非常事態緊急会議』菅沼光弘、ベンジャミン・フルフォード、飛鳥昭雄:2012年
『この国はいつから米中の奴隷国家になったのか』菅沼光弘:2012年
『誰も教えないこの国の歴史の真実』菅沼光弘:2012年
『この世界でいま本当に起きていること』中丸薫、菅沼光弘:2013年
『神国日本VS.ワンワールド支配者』菅沼光弘、ベンジャミン・フルフォード、飛鳥昭雄
『日本を貶めた戦後重大事件の裏側』菅沼光弘:2013年
『沈むな!浮上せよ! この底なしの闇の国NIPPONで覚悟を磨いて生きなさい!』池田整治、中丸薫

郵政民営化は、「経世会つぶし」の手段にすぎない!

 かつては日本の政治家や役人は、アメリカの要望に対して、日本の国益が損なわれないような形で、うまいぐあいに処理してきました。だから、アメリカもこれまで神経をとがらせてきていたのですが、今は役人も政治家も、そんな知恵が出る人は1人もいなくなってしまった。
 例えば郵政民営化です。これもアメリカの要望のひとつといわれています。
 小泉さんはこれを、自民党をぶっつぶすことに利用した。自民党を自民党たらしめてきた田中角栄以来の経世会、橋本派の自民党支配をぶっつぶすということです。もっと具体的にいえば、いろんな人がいろいろな形で失脚させられましたが、最後に橋本さんもダメになってしまった。
 結局、小泉さんの標的は経世会のドン、野中広務さんだったのです。郵政・郵便局のドンも野中さんでした。かつて衆議院の逓信委員長として、NHK会長を更迭させたのは有名ですが、郵政省も彼が牛耳っていたわけです。郵政民営化とは、そのドンの野中さんをいかにして倒すかということです。

小泉さんの背後にある、怖いもの

 怖い話をします。小泉さんは、野中さんを打倒するという。何であんな大胆なことまでできるのか。今までの政治家なら決してできなかった。これはみんなヤクザの力を恐れるからです。
 例えばあの権勢を誇った竹下さんですら、小さな右翼の皇民党の褒め殺しに恐れおののきました。中曽根さんも、右翼と称するヤクザに自分の家のお墓をこっぱみじんにやられてしまって、それ以来、随分変わってきたわけです。特に中曽根さんは、そういう問題についてものすごく神経質でした。
 アメリカでも、例えばレーガン大統領もダーンと1発やられたら、全く変わってしまった。アメリカは、リンカーンから始まってケネディまで、大統領が次々と殺されている。暗殺の歴史です。アメリカの大統領はみんな、いつ殺されるかわからない状況の中でやっているわけです。
 かつて日本の政治家もそうでした。今は、多くの政治家が、政治資金などで何かしら暴力団と絡まっているのです。例えば亀井静香さんは暴力団から金を直接もらっているなどというウワサが流れている。だから、暴力団の動向にはものすごく敏感なのです。山口組に関係があるなどといわれる政治家に正面から盾突くなどということは、どの政治家もできなかった。
 ところが、小泉さんはそれをやった。当然、利害関係は反するわけです。小泉さんは、まず手始めに肉のハンナンという会社を摘発した。野中さんの政治資金源を断つためです。
 ハンナンは、もともと大阪府同和食肉事業協同組合から発展した会社です。同和問題というのは、いまでも日本の一種のタブーです。ご自身でも認めておられるように野中さん自身が同和の人です。
 このハンナンを裏から支えていた政治家として、車を提供されていた鈴木宗男さんとか、九州の何とかとかいろいろいわれているのですが、その一番の支援者は、これこそ野中さんです。その政治力で、ハンナンに対しては、大阪国税局もいまだかつて国税調査に入ることもできなかったし、警察も検察も、何もできなかったといわれています。
 日本で狂牛病が問題になったときに、英国から肉骨粉を独占的に輸入していたのはこのハンナンなのです。しかし、当時の農林省はハンナンを全然調べられなかった。逆に、使った畜産農家を調べた。そんなことではわかりっこないです。輸入元から調べれば、どこに配ったかすぐわかる。農水省はそんなこともできなかったわけです。また、ハンナンは、そのことによって食肉で損をしたといって、狂牛病対策のために国家が出した補助金を、ものすごくとってしまった。社長の浅田満はこの詐欺で捕まりました。
 ハンナンがそれだけ大きくなった原資も、自分で儲(もう)けたのではありません。同和対策事業の一連の特別措置法によって、同和対策費として、同和の企業に国民の税金がつぎ込まれた。何年間ものことですから、調べればこのハンナンに年間どれだけという統計はすぐ出てくる。これは天文学的数字です。その中から、例えば野中さんたちは政治資金をもらったのでしょう。
 このハンナンの浅田満という社長は、暴力団の山口組の前の5代目組長、渡辺芳則の出身母体である山健組の舎弟だったといわれています。ハンナンは、当時、同じように名古屋にあったフジチクという会社と資本的な提携をいろいろやっていました。フジチクは、愛知県同和食肉事業協同組合が発展したものです。この愛知と大阪の2つの会社は、何と日本の輸入食肉の70%から扱っている独占企業だったのです。オーストラリアやアメリカから輸入して、ものすごく利益が上がっていました。
 その利益が山口組に上納されていた。当時、山口組の上納金は、トヨタ自動車に匹敵するといわれていました。トヨタが1兆円のとき、山口組は8000億円といわれていましたが、そのかなりの部分がハンナンから流れた。
 暴対法によって山口組をつぶそうと思っても、なかなかつぶせないということで、まず資金源を断つことが始まったわけです。その手始めに、ハンナンを支えている政治家をやっつけようということで、まず鈴木宗男さんがやり玉に上がった。野中さんも身の危険を感じたかもしれません。
 まず山口組の資金源を断つという形で、小泉内閣は警察や税務当局とタイアップしてハンナンをやったのですが、もう1つの隠れた目的は、アメリカの要請に従って、不良債権のもとになっている日本社会独特の闇の部分を透明化するという政策でした。まず、そういう仕組みを政治的に支えている人たちを次々に追放していこう。そしてそれは成功しました。
 同和対策特別措置法は時限立法で、それもちょうど終わりました。だから、同和の事業とか地域に対して国民の税金が自動的に出ていくシステムはなくなった。今まで述べた一連の動きは、その時期ともかなり一致しています。それも含めて、かなり意図的にやられたわけです。これは日本の不良債権をもっと透明化するためです。
 そうなりますと、金融機関はゴルフ場などに金を貸さなくてよくなったので、バタバタとたくさん倒れたのです。つぶれたゴルフ場をだれが買ったか。それはゴールドマン・サックスです。

【『この国を支配/管理する者たち 諜報から見た闇の権力』中丸薫、菅沼光弘(徳間書店、2006年)】

 そして小泉純一郎を守ったのは稲川会だった。稲川会はブッシュ・ファミリーとも縁が深かった。自民党内における派閥の紆余曲折はあったものの(※竹下派経世会発足)、木曜クラブ(旧田中派)→経世会と考えていいだろう。小沢一郎も経世会だ。一方、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田赳夫は清和会の流れを汲む。

 私は角福戦争のリターンマッチという程度の認識しかなかった。舞台裏では山口組vs.稲川会という構図で結果的には山口組が追い込まれた。更に野中広務の後継者がいる京都4区には、野中のかつての腹心を対立候補として送り込む徹底ぶりだ。この一騎討ちは野中陣営がわずか150票差で破れ、野中は小泉の軍門に下る。

 国民からの熱狂的な人気に支えられ、小泉の郵政解散は一大テーマとなった。当時は私も郵政民営化に賛成していた。その実態が政治家同士の小競り合いであったというのだから驚かされる。しかもそれがアメリカの意向に沿うとなれば、アメリカからの様々な支援もあったに違いない。

 そしてアジアとの連携を重視する経世会が葬られ日中・日韓関係が悪化し始める。

 資料的な価値があると考え、長文の引用となった。尚、中丸女史についてはスピリチュアリズム系の人物と見てよいが、民間外交という一点においては創価学会の池田大作をも凌ぐ人脈を有することを軽視すべきではないだろう。

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【追記】「九州の何とか」とは松本龍(民主党)のことだろう。

2014-11-05

セキュリティ・カンパニー/『血のケープタウン』ロジャー・スミス


 車が1台、彼のほうにゆっくりと進んでくる。武装したガードマンたちを乗せた警備会社の巡回車だ。
 バーナードはそういう警官もどきのガードマンが大嫌いだった。彼らは裕福な連中の被害妄想が生み出す恐怖を餌にしている。そして本物の警官を見下し、いやに偉そうに、この特権階級の地域を巡回している。いつもなら彼は車を運転している荒くれ男との対面をじっくり楽しむ。自分の警官バッジが、つねにガードマンの身分証明書に勝つ、そのよろこびのために。
 けれど今夜はちがう。
 この家の近くにいるのを知られたくない。バーナードは車を発進させ、ガードマンが近づいてくる前に走り去った。

【『血のケープタウン』ロジャー・スミス:長野きよみ訳(ハヤカワ文庫、2010年)】

 南アフリカを舞台としたノワール(暗黒小説)。銀行強盗のカネを独り占めし高飛びしたアメリカ人、元ギャング、悪徳刑事の思惑が絡み合う。疾走感のある佳作。やはりその国の風俗を知るにはミステリが一番だ。

 警備会社は英語で「security company」。security には警備以外にも治安、保安、防衛、保障といった意味がある。国家安全保障は「national security」だ。アメリカの軍産複合体が下部組織あるいは天下り先としてセキュリティ・カンパニーを立ち上げた。各所で社会不安をつつけば需要はたちどころに増える。

 長嶋茂雄がセコムのコマーシャルに登場した頃(1990年)、我々は鼻で笑った。「水と安全が無料といわれるこの国(『日本人とユダヤ人』)で、そんな商売が成り立つわけがない」と。愚かな民に先見の明はなかった。現在では中小企業から一般家庭にまで普及している。


 アメリカでは9.11テロ以降、ブラックウォーターを始めとする民間軍事会社までが隆盛を極めている。イラク戦争の終盤では兵力の4割が民間と伝えられた。しかも彼らは軍法会議にかけられないためやりたい放題であった。新自由主義は戦争のアウトソーシング(外部委託)を可能とした。

 アメリカのセキュリティ・カンパニーについては『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クラインが詳しい。また上杉隆が「警備会社大手のセコムには、数多くの警察OBが天下っている」(『官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』)と指摘していることも付け加えておく。

血のケープタウン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

2014-11-03

池田清彦、菅沼光弘、ピエール・ルメートル、ルイズ・アームストロング


 4冊読了。

 82冊目『新装版 レモンをお金にかえる法』ルイズ・アームストロング、絵:ビル・バッソ:佐和隆光〈さわ・たかみつ〉訳(河出書房新社、2005年/旧版、1982年)/評価の高い絵本だが、どこがいいのかさっぱりわからなかった。まず絵が悪い。本文も無味乾燥だと思う。

 83冊目『その女アレックス』ピエール・ルメートル:橘明美訳(文春文庫、2014年)/昨夜読み始めて、今朝読了。悪くはないといったところ。技巧が勝ちすぎていて鼻につく。シドニィ・シェルダン的な作為が全開。わかっている。最後まで付き合ってしまった私の負け惜しみだ。愛すべきキャラクターを描けていないため感情移入ができなかった。主役の警部は身重が145cmしかなく、それを小馬鹿にするような描写がたっぷり出てくる。

 84冊目『菅沼レポート・増補版 守るべき日本の国益』菅沼光弘(青志社、2012年/旧版、2009年)/菅沼尽くしである。公安調査庁入りした経緯が最も詳しく描かれている。菅沼は正真正銘の国士である。それに対して佐藤優は官僚を脱していない。

 85冊目『生物にとって時間とは何か』池田清彦(角川ソフィア文庫、2013年/『生命の形式 同一性と時間』哲学書房、2002年)/大どんでん返し。今年の1位はまたしても入れ替わった。文庫ではなくハードカバーを買うべきだった。角川ソフィア文庫は紙質が悪い。米原万里〈よねはら・まり〉が『打ちのめされるようなすごい本』で推していた一冊。私は構造主義をさほど知らないが、『免疫の意味論』、『アフォーダンス 新しい認知の理論』、『哲学、脳を揺さぶる オートポイエーシスの練習問題』を読んでいたので辛うじてついてゆくことができた。池田の気合いが手加減を許さないため難解だが、第1章の専門用語に目をつぶれば後は何とかなる。時間に対してこういうアプローチの仕方があるとはね。クオリアの件(くだり)はよくわかならかったが、ポパーの3世界を論じた箇所で私は悟りを得た(笑)。いやあ、やっぱり長生きするもんだね。