2015-07-22

漢字制限が「理窟」を「理屈」に変えた/『漢字雑談』高島俊男


 ・漢字制限が「理窟」を「理屈」に変えた
 ・障害者か障碍者か

 漢字制限は敗戦直後昭和21年の「当用漢字」から始まる。固有名詞(福岡などの地名、佐藤などの姓、その時現在の名)を除き、政府が決めた1850字以外使ってはならぬという、強い制限である。罰則はないので作家などは使ったが、官庁(法令、公文書等)、学校、新聞の三大要所を抑えて励行させた。

【『漢字雑談』高島俊男(講談社現代新書、2013年)以下同】

 いつの時代も権力は暦と文字を管理する。「どの国でも文字改革というのは、前の歴史との連続性を切断するために行う」と佐藤優は説く(『国家の自縛』)。当用漢字とは「当座は用いて構わない漢字」という意味で、GHQには日本語のアルファベット化という案もあった。マッカーサーが日本文化の破壊を意図したことは疑問の余地がない。それにしても、官庁、学校、新聞はさながら権力という風になびく草の如し。

 今は「理屈」と書く。従前は「理窟」と書いた。
「理窟」が「理屈」になったのには経緯がある。敗戦直後政府が制定した漢字制限によって「窟」の字の使用が規制(事実上禁止)された。昭和31年にいたって政府は「同音の漢字による書きかえ」と題する文書で、「理窟」は今後「理屈」と書け、と指示した。これによって、法令、公文書、学校の教科書などはもとより、新聞・雑誌その他社会一般も「理屈」と書くことになった。
「りくつ」を「理屈」と書くのは、りくつから言えばおかしい。
「理が屈する」というのは、話のすじみちが通らなくなって行きづまることである。「りくつ」は話のすじみちが通ることだから正反対である。
 中国では一口に「理屈詞窮」と言う。理に屈し詞(ことば)に窮する、話のすじみちが通らなくなって言葉に窮することである。論語の朱子注から出た成語である。「屈」はまっすぐに行けず折れ曲ること、行きづまることである。
 ただし、日本では「りくつ」は昔から口頭語として広く用いられたことばだから、江戸時代にはあて字で「理屈」と書いた例はいくらもある。(中略)
 理窟の「窟」は穴カンムリが示す通り「ほらあな」である。「アルタミラの洞窟」の「窟」である。では「理のほらあな」がなぜ「すじみちの通った話」になるのか。
 さあこれがむずかしい。
 国語辞典でこの意義を書いてあるものはほとんどない。『大言海』(昭和10年冨山房)にこうある(「理窟」は第四巻、昭和10年)。
   〈理窟(マミアナ)ノ意ニテ、理ノアツマル所ノ義〉

 最後の行の「マミアナ」とは狸穴のことか。字面(じづら)も理窟とよく似ている。私は本書を読むまで「理窟」という文字がまったく頭になかった。恥ずかしい限りである。もちろん『岩窟王』で字は知っていた。自分勝手に「理正しければ理に屈する」と読んでいた。

 というわけで今後は「理窟」と表記することにした次第である。

漢字雑談 (講談社現代新書)

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2015-07-21

筋肉と免疫力/『「食べない」健康法 』石原結實


『「塩」をしっかり摂れば、病気は治る 病気の因を断つクスリ不要の治療法』石原結實

 ・筋肉と免疫力

 なぜ筋肉を鍛えるのかって? 筋肉を鍛えることは、体のあらゆる部分の健康を効率良く維持してくれるからです。
 筋肉は、男性で45%、女性で36%と、人間の体重の4割前後を占めています。さらに、筋肉の75%以上が下半身についています。ですから、下半身の運動をするのが最も効率が良いのです。
 また、筋肉を動かすと体温が上がります。体温が1度上がると免疫力が5倍になります。一方、体温が1度下がると免疫力が30数%下がります。
 他にもいいことはたくさんあります。筋肉を動かすと血管が拡張したり、収縮します。これにより心臓の働きが助けられて、循環器、高血圧、心臓系の疾病の予防になります。筋肉を動かすと骨も強化されるので、骨粗しょう症の予防にもなります。
 さらに、筋肉の細胞から男性ホルモンが分泌されるから、自信が出てきてうつ病にも効果的です。その上、脳の血流が活発になって記憶中枢をつかさどる海馬を刺激し、認知症の予防にもなるのです。(『日刊ゲンダイ』2006年10月6日掲載)

【『「食べない」健康法 』石原結實〈いしはら・ゆうみ〉(東洋経済新報社、2008年/PHP文庫、2012年)以下同】

 石原結實は学生時代にパワーリフティングの経験があり、九州大会で優勝したこともある。本書は「一日一食健康法」を広く世に知らしめた一冊だ。

 私は48歳の時に生まれて初めて肩凝りとなった。床に積み上げている本につまづくようになったのが一つの兆候であったと思う。体のバランスが崩れ始めたのだ。で、つい最近はぎっくり腰をやったばかりだ。若い頃にスポーツをやっていた自信が裏目に出た格好だ。反射神経はそれほど衰えていないのだが、きっと体幹が歪んでいるのだろう。パソコンに向かう姿勢も決してよくはない。

 40代も後半になると健康診断でも何かと引っかかるようになってくる。いわゆる生活習慣病の要素が顕著になってくるのだ。ま、そんなわけで自然と健康情報に目が止まってしまう。まったく嫌なこったよ(笑)。

「食べない」ことが体にいいのは知っていた。アンドルー・ワイル著『癒す心、治る力 自発的治癒とはなにか』(上野圭一訳、角川文庫ソフィア、1998年)に絶食の効用が書かれていた。週に一度の絶食を勧めている。ただし古本屋を侮っては困る。アンドルー・ワイルや石原結實に科学性を認めることはできない。

「一日一食は体によい」との経験則に石原は後から理窟(りくつ)を加えたのだろう。物語としては実によくできている。で、私もその物語に乗ってみせたまでだ。

 本書を読み、私は直ぐさま一日一食に取り組んだ。善は急げである。効果はみるみるうちに現れた。まず体重が減った。体重が減ると意識が鮮明になる。当然、体の動きにもキレが出てくる。私の場合、休日に限っては好きなものを好きなだけ食べているが、翌日にはすっかり出てゆく。抗い難い空腹に苛まれた時はチョコレートや黒糖を投入する。一時は80kgを超えた体重も現在は70kgを切っている。もう少し落とせば20代の頃と変わりがない。

 食事は、朝食は人参ジュース2杯と生姜紅茶1杯、昼食も生姜紅茶だけです。夕食は、たこ刺しを食べながらビールを飲んで、ご飯にみそ汁、納豆、明太子、イカの炒め物などを食べる。毎日これだけ。肉も魚も卵も牛乳もとりませんけれど、こんなに元気。全身筋肉質でゼイ肉はありません。90歳までこの生活を続けるつもりです。

 石原式一日一食はこれが基本である。人参は有機栽培のもの。生姜はチューブ入りの練り生姜でも構わない。ちょっと調べてみたところ、生姜パウダーがいいようだ。

 このあたりは神経質になることもあるまい。私はやっていない。一つだけ注意点を挙げるとタンパク質不足になりがちなので、納豆・豆腐・チーズ・ヨーグルトなどは意識的に摂るようにするべきだ。私は毎朝、ヨーグルトにシリアルを入れて食べている。厳密にいえば一日一食半だが、頗る体調はよい。



癌治療の光明 ゲルソン療法/『ガン食事療法全書』マックス・ゲルソン