2015-07-28

頬を打たれても尚、日本の真実を語る女性/『驕れる白人と闘うための日本近代史』松原久子


『お江戸でござる』杉浦日向子
『日本の知恵 ヨーロッパの知恵』松原久子
『言挙げせよ日本 欧米追従は敗者への道』松原久子

 ・頬を打たれても尚、日本の真実を語る女性

『植民地残酷物語 白人優越意識を解き明かす』山口洋一
『敗戦への三つの〈思いこみ〉 外交官が描く実像』山口洋一
『日本人の誇り』藤原正彦

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 日本の(伝統)文化の紹介や解説は、異国趣味と外交辞令もあって歓迎されるが、「弁明」はかの地では激しい抵抗にあわねばならない。いかなる抵抗にあわねばならないか、松原氏が月刊誌『正論』(産経新聞社)の平成13年1月号の随筆欄に体験の一端を披露している。
 ドイツの全国テレビで毎週5カ国の代表が出演して行われる討論番組に、氏がレギュラーとして出演していた折りの逸話である。そのときのテーマは、「過去の克服――日本とドイツ」で、相変わらずドイツ代表は、日本軍がアジア諸国で犯した蛮行をホロコーストと同一視し、英国代表は捕虜虐待を、米国代表は生体実験や南京事件を持ち出すなどして日本を攻撃非難した。松原氏は応戦し、ドイツ代表には、ホロコーストは民族絶滅を目的としたドイツの政策であって、戦争とは全く無関係の殺戮であること、そういう発想そのものが日本人の思惟方法の中には存在しないと反論し、英国代表には、彼らの認識が一方的且つ独断的であることを指摘し、史実に基いて日本の立場を説明、弁明した。
 さて、逸話のクライマックスは番組終了後である。「テレビ局からケルン駅に出てハンブルク行きを待っていると人ごみの中から中年の女性が近づいてきた。(中略)彼女は私の前に立ち、『我々のテレビで我々の悪口を言う者はこれだ。日本へ帰れ』と言うなり私の顔にぴしゃりと平手打ちをくらわし、さっさと消えていった」(中略)
 今や少なからぬ日本人が欧米で、講演、講座、討論会を通じ、「日本」を語っているが、彼らのなかで袋叩きに遭いながら反論し、そして平手打ちをくらうほど日本を弁明した人がいるだろうか。私は、いない、とはっきりいえると思っている。だから日本の世論はもちろんのこと、言論界でも、この事件は、この大事件は他人事なのである。(「訳者まえがき」)

【『驕れる白人と闘うための日本近代史』松原久子:田中敏〈たなか・さとし〉訳(文藝春秋、2005年/文春文庫、2008年)】

 GHQの占領政策によって大東亜戦争の罪悪感(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)を刷り込まれた日本人は、いまだに東京裁判史観から抜け出すことができないでいる。義務教育からは歴史が削除されて社会科となり、日本の近代史については目隠しをされたままだ。左翼は劣勢に立たされているものの、原発問題・環境問題・沖縄米軍基地問題・憲法擁護という隠れ蓑をまとって破壊工作を展開。一方、右側は過激な民族差別主義者からネトウヨと、幅はあるものの思想的な深さを欠く。

 我々が行うべきことは事実を虚心坦懐に見つめることである。政治性やイデオロギーに基いて歴史をつまみ食いすることこそ最も恐れなくてはならない。

 日本人同士が小競り合いを繰り返し、同じ日本人として歴史すら共有できない情況を思えば、松原久子の存在は我々の背に鞭を入れ、姿勢を正さずにはおかない。

 国家の安全保障をアメリカに委ねている以上、政治レベルで慰安婦捏造問題や南京大虐殺というフィクションに手をつけるのは危険であり、まして東京裁判に異を唱えることなどできようはずもない。それゆえ日本としては学問のレベルから反撃することが望ましい。就中、パール判事の反対意見書を基軸に据えた国際法研究を広く行うべきだ。学問的成果を一つひとつ積み上げてゆけば、自ずと映画や漫画などの文化にも反映されることだろう。

 尚、本書の原作はドイツ語で書かれており、純粋な翻訳書であることを付け加えておく。

2015-07-27

文体が肌に合わず/『カティンの森』アンジェイ・ワイダ監督


 2007年制作。ポーランド映画。どうもアンジェイ・ワイダの文体が肌に合わない。『灰とダイヤモンド』(1958年)もそうだが私はドラマ性を感じなかった。はっきり言えば、ぶつ切りの映像にしか見えない。主役のアンナは木村カエラみたいな顔で魅力を欠いているし、キャストというキャストがどうも冴えない。

 例えば甥っ子がソビエトのプロパガンダポスターを剥がす行為や、大将夫人が映画に抗議する場面など、見るからに拙い行為であり、正義よりも安易さが目立つ。

 唯一感動したのはポーランド人将校の収容所で大将が厳(おごそ)かに演説を行い、静かに皆で合唱をした場面だ。

 アンジェイ・ワイダの父親もカティンの森事件の被害者であった。構想に50年、製作に17年を要したらしいが、時間のかけ過ぎであると思う。

 現在ではカティンの森事件の被害者は22000人とされる。ドイツ軍が遺体を発見すると、ソ連は「ドイツの仕業だ」と喧伝(けんでん)した。共産主義と嘘はセットになっていると考えてよろしい。社会主義国家や共産党は病的な嘘つきである。

 思えば我が日本も大東亜戦争の終戦間際に日ソ中立条約があったにもかかわらず満州や北方領土を攻撃され、ソ連軍は虐殺、強姦、強盗の限りを尽くした。それどころではない。推定65万人もの日本人をシベリアに抑留し、強制労働をさせたのである。ソ連の行為はまさしく侵略戦争そのものであった。

 尚、カティンの森事件を知らない人のために動画を貼りつけておく。



カティンの森 [DVD]

2015-07-26

小林よしのり、甲野善紀、レヴィ=ストロース、他


 4冊挫折、2冊読了。

国民の文明史』中西輝政(扶桑社、2003年/PHP文庫、2015年)/前置きが長すぎる。延々と文明史についての解説が続き中々本題に入らない。「国民の文明史」でもなければ「日本の文明史」でもなく、ただの「文明史論」となっている。構成がまずい。「日本の近代史を学ぶ」に入れてあったのだが外した。

無名の人生』渡辺京二(文春新書、2014年)/もったいぶった文体が鼻につく。やたらと石牟礼道子を引っ張りだすのも嫌らしい。韜晦(とうかい)を気取っている印象あり。

悲しき熱帯 I』『悲しき熱帯 II』レヴィ=ストロース:川田順造訳(中公クラシックス、2001年)/一つの言葉を探すために読んだのだが見つからず。ネットで検索したところ何と最終章にあることが判明した。つまり最初と最後しか読んでいない。哲学とは言葉をこねくり回すことと見たり。「はじめに言葉ありき」(新約聖書「ヨハネによる福音書」)というキリスト教ロゴス世界は形而上の果てに何を見出すのか?

 86冊目『実践! 今すぐできる 古武術で蘇るカラダ』甲野善紀(宝島社文庫、2004年/新装版、宝島SUGOI文庫、2009年)/本書のわずか数ページによって一本歯下駄がブームとなった。私も近々買う予定である。写真が小さくてわかりにくいのが難点。ただし古武術入門としての出来は決して悪くない。甲野の体のキレのよさも伝わってくる。養老孟司との対談もあり。

 87冊目『保守も知らない靖国神社』小林よしのり(ベスト新書、2014年)/小林の著書を読むのは初めてのこと。ずっと嫌いであった。まず声が悪い。次に「わし」という言葉づかいが社会性を欠いている。そして自分自身を美化する漫画の作風に嫌悪感を覚えていた。だが慰安婦捏造問題や靖国問題を通る時、小林を避けて通ることはできない。彼は1980年代から論戦の中に身を置いてきた。最初はオウム真理教が相手であったと記憶する。続いて薬害エイズ問題、そして慰安婦捏造問題、大東亜戦争擁護、沖縄問題、靖国問題へと至る。本書の前に中西輝政著『日本人としてこれだけは知っておきたいこと』を読んでおくべきだ。小林は靖国神社が奉慰顕彰の施設であることに注意を促し、「不戦の誓い」を表明した安部首相を徹底的にこき下ろしている。小林はリアリストの立場から左翼はもとより右翼をも批判し抜く。

2015-07-25

原発事故の多層的な被害/『みえない雲』グレゴール・シュニッツラー監督


 ドイツ映画。2006年公開。原発事故を描いたパニックもの。ギムナジウムに通う14歳という設定の主役二人の演技がとてもよい。特にキアヌ・リーブス似の彼氏は陰影の深い役どころを見事にこなしている。

 授業中にABC警報(ドイツで定められている、A=核兵器、B=細菌兵器、C=化学兵器の攻撃を知らせる警報)のサイレンが鳴り響く。原発事故は多層的な被害を及ぼす。映画では家族が離れ離れになる~弟が交通事故に遭う~恋人と別れてしまう~被曝する~大切な人を喪うという流れが描かれる。

 原作の小説はドイツで150万部を売り上げ、国語教材としても活用された。「ドイツを脱原発へと導いた小説」と評されているが、映画にそれほどの説得力は見出だせない。ドイツは脱原発を目指しながらも、フランスから原発電力を輸入している(トータルではドイツは電力輸出国)。EUでは1999年から電力自由化が実現しているため、EU全体を見る必要があろう。

 私は原発にまつわる最大の問題は技術よりも、むしろ情報隠蔽、利権優先のシステム、杜撰な計画~運用、ヒューマンエラーにあると考える。電力を輸入できない我が国の現実を思えば、今直ぐ脱原発というのは難しいだろう。また一度進んだ技術は引き返すことができない。もちろん原子力技術は軍事力とも関連してくる。現状では再生エネルギーはコスト的に見合わない。とてもじゃないが太陽光パネルの10年間の発電量で太陽光パネルがつくれるとは思えない。

「主演女優パウラ・カレンベルクはチェルノブイリ原発事故の時に胎児であった。健康な外観で生まれたが、幼児期に検査をしたところ、心臓に穴が開いていること、片方の肺がないことが判明した。しかし彼女は体に障害があるとは思わせることはなく、疾走する場面も問題なくこなした」(Wikipedia)。



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テロに敗れつつあるアメリカ/『グアンタナモ、僕達が見た真実』マイケル・ウィンターボトム監督


 2006年に制作されたイギリス映画。日本公開は2007年。

 実話である。しかも本人たちのインタビューが随所に挿入されている。パキスタン系イギリス人の若者が結婚式のためにパキスタンへ里帰りする。彼は3人の友人を招待し、4人でパキスタンへ向かう。彼らは隣国のアフガニスタンが米軍の攻撃によって荒廃していることに心を痛める。せっかくここまで来たのだから、ということで彼らはアフガニスタンにまで足を伸ばし、難民支援のボランティアを行う。タリバンの戦闘に巻き込まれ、その後彼らは米軍に引き渡され、グアンタナモ収容所(※グァンタナモとの表記もあり)へ送られる。拘束期間は2年半に及んだ。


 私はキューバ国内にアメリカの飛び地があったことを知らなかった。元々はキューバやハイチからの難民を受け入れるためのキャンプであったらしい(1970年代)。9.11テロ以降はテロリスト容疑をかけられた各国の人々が収容されている。しかも裁判がない上、国内法をかわす目的で国外に設けられ、ジュネーヴ条約違反を回避するために捕虜ではなく犯罪者と位置づけている。そう。彼ら米軍こそが無法者なのだ。

 杜撰(ずさん)な取り調べ、でっち上げ、そして嘘。ある時は「イギリス大使館の外交官」を詐称する人物が現れる。もちろん米兵かCIAである。女性による取り調べも行われるが、最初から最後までテロリストと決めつけているだけだ。

 私はテロに敗れつつあるアメリカを確かに見た。日本の官僚主義とまったく同じ世界だ。事実はどうあれ結果だけが求められる。米兵の無能が犯罪に結びつく。こうした行為が強靭な復讐心を醸成させ、世界の至るところでアメリカ人が殺されるような目に遭ってもおかしくない。グアンタナモ収容所でアメリカは正義の旗を下ろした。

 そして主人公たち3人がイギリスに帰国した2004年、今度はイラクのアブグレイブ刑務所で米兵による捕虜虐待が発覚するのである。

 映画作品としてではなく、現実世界で起こった事実として見るべきだ。「世界の警察」を自認してきたアメリカが犯罪者に転落した瞬間を我々は目撃する。オバマ大統領はシリア問題に関するテレビ演説で「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」と歴史に残るであろう発言をした(2013年9月10日)。ま、国防予算削減という背景もさることながら、米軍が世界各地で犯罪を冒してきた事実を思えば、犯罪者宣言とも思える。

 アシフは語る。「人生が変わってしまった。考え方、世の中の見方も……。この世界はいいところじゃない」。

 正義を叫ぶ者を疑え。彼らこそが世界に混乱を起こす張本人ゆえに。



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