2016-05-31

目撃された人々 68

2016-05-30

ヘレン・ミアーズ、ラッセル・ブラッドン、猪瀬直樹、那智タケシ、他


 7冊挫折、4冊読了。

世界リスク社会論 テロ、戦争、自然破壊』ウルリッヒ・ベック:島村賢一訳(ちくま学芸文庫、2010年)/チンプンカンプン。

フェアトレードのおかしな真実 僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た』コナー・ウッドマン:松本裕訳(英治出版、2013年)/環境保全やフェアトレード認証ラベルの欺瞞を暴くノンフィクション。説明が冗長。

地震雑感/津浪と人間 寺田寅彦随筆選集』寺田寅彦:千葉俊二、細川光洋編(中公文庫、2011年)/意外と読みにくい。「天災は忘れた頃にやってくる」というのは寺田寅彦の言葉。

マキアヴェッリ語録』塩野七生〈しおの・ななみ〉(新潮文庫、1992年)/原書の雰囲気を重視する抄訳。最初に読むべきではない。

よいこの君主論』架神恭介〈かがみ・きょうすけ〉、辰巳一世〈たつみ・いっせい〉(ちくま文庫、2009年)/小学生向け君主論という体裁。えげつない小学生がぞろぞろ登場する。キャラクターは吹き出してしまうほど面白い。時間が惜しいのでやめた。

偽りの楽園(上)』トム・ロブ・スミス:田口俊樹訳(新潮文庫、2015年)/二度目の挫折。正真正銘の駄作。田口を使う出版社の姿勢を疑う。

ジョーカー・ゲーム』柳広司〈やなぎ・こうじ〉(角川グループパブリッシング、2008年/角川文庫、2011年)/悪書だ。D機関は誰が見ても陸軍中野学校がモデルになっている。中野では天皇陛下よりも日本国に価値を置いたのは確かだが、天皇陛下を軽視することはなかった。創作だから虚実を取り混ぜることに異論はないが、虚の部分が劣悪で知識がない読者は鵜呑みにせざるを得ない。戦後教育に毒されただけなのか、左翼なのかは判断がつかず。

 70冊目『悟り系で行こう 「私」が終わる時、「世界」が現れる』那智タケシ(明窓出版、2011年)/侮れない一書である。『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』と併読のこと。那智はクリシュナムルティを通して悟りに至った。私の知人にもほぼ同じ経験をした人物がいる。悟りは宗教に依らない。むしろ現代の宗教は悟りを阻害しているといえる。悟った人間の言葉に触れると、悟っていいない宗教者たちがくっきりと浮かび上がる。

 71冊目『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹(世界文化社、1983年/文春文庫、1986年/中公文庫、2010年)/一読の価値あり。猪瀬の本を初めて読んだが意外と文章に冴えがない。大東亜戦争に先立って全国各地からBest and brightest(最良にして最も聡明な)エリート達が招集された。設立された総力戦研究所は模擬内閣を組み、戦争のあらゆる事態をシミュレーションする。その結果が「昭和16年の敗戦」であった。当時、陸相であった東条英機も彼らの研究を知っていた。そして実際の戦局はほぼシミュレーション通りに進行する。本来であれば皇族内閣とするはずであったが、戦争責任が及ぶことを考えて天皇に忠誠心の厚い東条に白羽の矢が立った。本書は東条のマイナス部分に関しては殆ど触れていない。また南京大虐殺を歴史的事実として描いている点が気になった。

 72冊目『ウィンブルドン』ラッセル・ブラッドン:池央耿〈いけ・ひろあき〉訳(新潮社、1979年新潮文庫、1982年/創元推理文庫、2014年)/34年振りに再読。今読んでも全く古くなっていない。テニス小説としても十分に通用することだろう。巻半ばからスリラーと化す。ツァラプキンとキングの友情もさることながら、ソ連の現実がきちんと盛り込まれている。唯一の難点は捜査陣に魅力がないところ。それにしてもミステリ界で北上次郎を重んじる風潮が全く理解できない。

 73冊目『アメリカの鏡・日本 完全版』ヘレン・ミアーズ:伊藤延司〈いとう・のぶし〉訳(角川ソフィア文庫、2015年/角川文芸出版、2005年『アメリカの鏡・日本 新版』/アイネックス、1995年『アメリカの鏡・日本』)/新書で抄訳版も出ているが、「第一章 爆撃機からアメリカの政策」と「第四章 伝統的侵略性」が割愛されているようだ。頗る評判が悪い。完全版が文庫化されたので新書に手を伸ばす必要はない。むしろ角川出版社は新書を廃刊すべきである。「占領が終わらなければ、日本人は、この本を日本語で読むことはできない」とマッカーサーは書簡に記した。GHQが恐れた一書といってよい。ミアーズは東洋史の研究者で、戦後はGHQの諮問機関である労働政策委員会の一員として来日した。原書は1948年(昭和23年)に刊行。戦前のアメリカ政府とあまりに異なる内容のためミアーズの研究者人生は閉ざされたようだ。私は打ちのめされた。アメリカに敗れた真の理由を忽然と悟った。アメリカにはミアーズがいたが、日本にミアーズはいなかった。近代以降の日本はアメリカの鏡であった。遅れて帝国主義の列に連なった日本は帝国主義の甘い汁を吸う前に叩き落とされた。本書を超える書籍が日本人の手によって書かれない限り、戦後レジームを変えることは困難であろう。

2016-05-27

ヒロシマとナガサキの報復を恐れるアメリカ/『日本最後のスパイからの遺言』菅沼光弘、須田慎一郎


『日本はテロと戦えるか』アルベルト・フジモリ、菅沼光弘:2003年
『この国を支配/管理する者たち 諜報から見た闇の権力』中丸薫、菅沼光弘:2006年
『菅沼レポート・増補版 守るべき日本の国益』菅沼光弘:2009年
『この国のために今二人が絶対伝えたい本当のこと 闇の世界権力との最終バトル【北朝鮮編】』中丸薫、菅沼光弘:2010年

 ・日本共産党はコミンテルンの日本支部
 ・ヒロシマとナガサキの報復を恐れるアメリカ

『この国の権力中枢を握る者は誰か』菅沼光弘:2011年
『この国の不都合な真実 日本はなぜここまで劣化したのか?』菅沼光弘:2012年
『日本人が知らないではすまない 金王朝の機密情報』菅沼光弘:2012年
『この国はいつから米中の奴隷国家になったのか』菅沼光弘:2012年
『誰も教えないこの国の歴史の真実』菅沼光弘:2012年
『この世界でいま本当に起きていること』中丸薫、菅沼光弘:2013年
『神国日本VS.ワンワールド支配者』菅沼光弘、ベンジャミン・フルフォード、飛鳥昭雄
『日本を貶めた戦後重大事件の裏側』菅沼光弘:2013年

菅沼●たとえば、北朝鮮やイランの核開発の問題。オバマ大統領は核廃絶を訴えてノーベル平和賞を貰いましたが、もちろんこの発言には裏がある。冷静に考えれば、ロシアも中国も北朝鮮もどんどん開発をしていて、現実的に核廃絶なんてできるわけがないというか、単なる寝言です。
 廃絶は寝言でも、不拡散と言って、アメリカがイランや北朝鮮の核開発に異常に神経質になるのは、イラン・北朝鮮が核を持つと、再び日本とドイツが核兵器を開発するという誘惑にかられることを心配しているからです。第二次世界大戦のトラウマがあるから、これはなんとしても阻止しないといけない。

【『日本最後のスパイからの遺言』菅沼光弘、須田慎一郎(扶桑社、2010年)以下同】

 オバマ大統領が今日、広島を訪問した。原爆資料館を見学し、原爆慰霊碑に献花。アメリカの国家元首としては初めてのことである。ま、安倍首相に対するご褒美なのだろう。2014年のオバマ来日以降、安倍政権が行ってきたことといえば、特定秘密保護法の制定・施行と安全保障関連法案の改正(集団的自衛権の行使)である。

 1959年に原爆資料館を訪れたチェ・ゲバラは言った。「きみたち日本人は、アメリカにこれほど残虐な目にあわされて、腹が立たないのか」と(『チェ・ゲバラ伝』三好徹)。米軍による原爆投下は人体実験だった(『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人)。戦後、アメリカから広島・長崎に派遣された医療団は一切治療を行うことなくデータ収集に専念した。それは現在も尚続いているのである。

菅沼●北朝鮮の核ミサイルは、核大国である中国とロシアにとっても何の脅威でもありません。また、韓国の場合は、基本的に同胞だから核は撃ってこない。すると、本当に脅威なのは日本だけです。だから、「日本も核武装すべき」という議論が日本に出てくることがアメリカはショックなのです。
 日本の技術力からすれば、あっという間に核大国になってしまう。もし、そうなったら、必ずやニューヨークとワシントンに報復攻撃をしてくる……。

須田●アメリカはそう思っているのでしょう。

菅沼●ヒロシマとナガサキの報復をされると確信しているのです。なぜなら、アメリカ人は目には目を、歯に歯を、というのが基本的な考え方であり、アメリカが日本に原爆を落としたのは神も許した正義なのです。

須田●日本は毎年毎年、ヒロシマ、ナガサキで大々的な慰霊集会を行なって、大日本帝国の英霊を祀る靖国神社に総理大臣が毎年参列するくらいだから、アメリカ人は「日本人は原爆投下を絶対に許していない」と思っています。

菅沼●「それは考えすぎだろう」と日本人は思うかもしれないが、そうではありません。アメリカ人は「絶対に許さない」と考えるのが自然というか、当たり前だと思っている。日本人のセンスとは、ちょっと違うわけです。

 アメリカの歴史は「リメンバー」(忘れるな)というスローガンが端的に示している。「リメンバー・アラモ砦」でメキシコ戦争、「リメンバー・サムター砦」で南北戦争、「リメンバー・メイン号」でスペイン戦争、「リメンバー・ルキタニア号」で第一次世界大戦参戦、「リメンバー・パールハーバー」で第二次世界大戦参戦、そして「リメンバー・トンキン湾」でベトナム戦争、「リメンバー9.11」で対テロ・アフガン・イラク戦争へと突入してきた。

 人間も国家も相手の中に自分の似姿を見出す。「やられたらやり返す」のがアメリカの流儀だ。日本を恐れるのは当然であった。だが当の日本は平和という病に冒されていた。しかもその平和を担保していたのは駐日米軍の存在であり、アメリカの核の傘であった。ブラック・ユーモアにしては黒すぎる。

菅沼●アメリカ人には、どうしても日本的なメンタリティーが理解できない。だから、日本人が怖くて仕方ないのです。それで、常に経済的にも技術的にも軍事的にも、独り立ちできないようにしてくるわけです。

 アメリカが世界で行ってきたことはジョン・パーキンス著『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』、ナオミ・クライン著『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』やウィリアム・ブルム著『アメリカの国家犯罪全書』が詳細に渡って論じている。アメリカこそは世界最大のテロ国家である(『9.11 アメリカに報復する資格はない!』ノーム・チョムスキー)。

 アメリカの疑心暗鬼は自らの悪逆非道から生まれる。世界の警察官は世界の犯罪者でもあった。

 日本人はお人好しである。もちろん戦後教育が歴史から目を逸(そ)らさせてきた事実を見逃すことはできない。だが歴史に学んだところで今直ぐアメリカと手を切るわけにはいかない。そもそも自衛隊が単独で戦闘できる体制になっていないのだ。日本としては時間をかけてでもアジア諸国との信頼関係を培い、ロシアおよびインドとの関係を強化するしかない。

 中国では民主化の動きが圧力となって、中国共産党は民主化を封じ込める形で日本との戦端を開くことだろう。恐らく2020年前後には動き出すに違いない。これがアメリカの方針であり、共和党政権になっても維持されることだろう。米軍は日本から撤収する可能性が高い。

日本最後のスパイからの遺言
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