2016-05-30

ヘレン・ミアーズ、ラッセル・ブラッドン、猪瀬直樹、那智タケシ、他


 7冊挫折、4冊読了。

世界リスク社会論 テロ、戦争、自然破壊』ウルリッヒ・ベック:島村賢一訳(ちくま学芸文庫、2010年)/チンプンカンプン。

フェアトレードのおかしな真実 僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た』コナー・ウッドマン:松本裕訳(英治出版、2013年)/環境保全やフェアトレード認証ラベルの欺瞞を暴くノンフィクション。説明が冗長。

地震雑感/津浪と人間 寺田寅彦随筆選集』寺田寅彦:千葉俊二、細川光洋編(中公文庫、2011年)/意外と読みにくい。「天災は忘れた頃にやってくる」というのは寺田寅彦の言葉。

マキアヴェッリ語録』塩野七生〈しおの・ななみ〉(新潮文庫、1992年)/原書の雰囲気を重視する抄訳。最初に読むべきではない。

よいこの君主論』架神恭介〈かがみ・きょうすけ〉、辰巳一世〈たつみ・いっせい〉(ちくま文庫、2009年)/小学生向け君主論という体裁。えげつない小学生がぞろぞろ登場する。キャラクターは吹き出してしまうほど面白い。時間が惜しいのでやめた。

偽りの楽園(上)』トム・ロブ・スミス:田口俊樹訳(新潮文庫、2015年)/二度目の挫折。正真正銘の駄作。田口を使う出版社の姿勢を疑う。

ジョーカー・ゲーム』柳広司〈やなぎ・こうじ〉(角川グループパブリッシング、2008年/角川文庫、2011年)/悪書だ。D機関は誰が見ても陸軍中野学校がモデルになっている。中野では天皇陛下よりも日本国に価値を置いたのは確かだが、天皇陛下を軽視することはなかった。創作だから虚実を取り混ぜることに異論はないが、虚の部分が劣悪で知識がない読者は鵜呑みにせざるを得ない。戦後教育に毒されただけなのか、左翼なのかは判断がつかず。

 70冊目『悟り系で行こう 「私」が終わる時、「世界」が現れる』那智タケシ(明窓出版、2011年)/侮れない一書である。『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』と併読のこと。那智はクリシュナムルティを通して悟りに至った。私の知人にもほぼ同じ経験をした人物がいる。悟りは宗教に依らない。むしろ現代の宗教は悟りを阻害しているといえる。悟った人間の言葉に触れると、悟っていいない宗教者たちがくっきりと浮かび上がる。

 71冊目『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹(世界文化社、1983年/文春文庫、1986年/中公文庫、2010年)/一読の価値あり。猪瀬の本を初めて読んだが意外と文章に冴えがない。大東亜戦争に先立って全国各地からBest and brightest(最良にして最も聡明な)エリート達が招集された。設立された総力戦研究所は模擬内閣を組み、戦争のあらゆる事態をシミュレーションする。その結果が「昭和16年の敗戦」であった。当時、陸相であった東条英機も彼らの研究を知っていた。そして実際の戦局はほぼシミュレーション通りに進行する。本来であれば皇族内閣とするはずであったが、戦争責任が及ぶことを考えて天皇に忠誠心の厚い東条に白羽の矢が立った。本書は東条のマイナス部分に関しては殆ど触れていない。また南京大虐殺を歴史的事実として描いている点が気になった。

 72冊目『ウィンブルドン』ラッセル・ブラッドン:池央耿〈いけ・ひろあき〉訳(新潮社、1979年新潮文庫、1982年/創元推理文庫、2014年)/34年振りに再読。今読んでも全く古くなっていない。テニス小説としても十分に通用することだろう。巻半ばからスリラーと化す。ツァラプキンとキングの友情もさることながら、ソ連の現実がきちんと盛り込まれている。唯一の難点は捜査陣に魅力がないところ。それにしてもミステリ界で北上次郎を重んじる風潮が全く理解できない。

 73冊目『アメリカの鏡・日本 完全版』ヘレン・ミアーズ:伊藤延司〈いとう・のぶし〉訳(角川ソフィア文庫、2015年/角川文芸出版、2005年『アメリカの鏡・日本 新版』/アイネックス、1995年『アメリカの鏡・日本』)/新書で抄訳版も出ているが、「第一章 爆撃機からアメリカの政策」と「第四章 伝統的侵略性」が割愛されているようだ。頗る評判が悪い。完全版が文庫化されたので新書に手を伸ばす必要はない。むしろ角川出版社は新書を廃刊すべきである。「占領が終わらなければ、日本人は、この本を日本語で読むことはできない」とマッカーサーは書簡に記した。GHQが恐れた一書といってよい。ミアーズは東洋史の研究者で、戦後はGHQの諮問機関である労働政策委員会の一員として来日した。原書は1948年(昭和23年)に刊行。戦前のアメリカ政府とあまりに異なる内容のためミアーズの研究者人生は閉ざされたようだ。私は打ちのめされた。アメリカに敗れた真の理由を忽然と悟った。アメリカにはミアーズがいたが、日本にミアーズはいなかった。近代以降の日本はアメリカの鏡であった。遅れて帝国主義の列に連なった日本は帝国主義の甘い汁を吸う前に叩き落とされた。本書を超える書籍が日本人の手によって書かれない限り、戦後レジームを変えることは困難であろう。

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