2016-05-12

強欲な人間が差別を助長する/『マネーロンダリング入門 国際金融詐欺からテロ資金まで』橘玲


 ・強欲な人間が差別を助長する

『タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』ニコラス・ジャクソン
『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻
税金は国家と国民の最大のコミュニケーション/『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹

【マネーロンダリング Money Laundering】
 資金洗浄。タックスヘイブンやオフショアと呼ばれる国や地域に存在する複数の金融機関を利用するなどして、違法な手段で得た収益を隠匿する行為。テロマネーやトラフィッキング(麻薬・武器密売・人身売買など“人道にもとる”犯罪)にかかわる資金が「マネロン」の主な対象となる。法的には脱税資金の隠匿はマネーロンダリングに含まれないが、広義には所得隠しなど裏金にかかわる取引を総称することもある。
【タックスヘイブン Tax Haven】
 租税回避地。金融資産の譲渡益や利子・配当所得に課税されず、相続税・贈与税がなく、国外(域外)で得た所得に対して所得税・法人税が課されないなど、富裕な個人や企業・機関投資家に多大の便宜を提供している国や地域。モナコ、リヒテンシュタインなどヨーロッパの小国、ケイマン諸島などカリブ海の島々、バヌアツなど南太平洋の島々がよく知られている。
【オフショア Offshore】
 国内金融機関(オンショア)から隔離され、税制などの優遇措置を与えられた国際金融市場の総称。狭義にはタックスヘイブンを指す。
【オフショアバンク Offshore Bank】
 オフショアに設立された銀行。国外(域外)の個人・法人を顧客とし、ドル・ユーロ・ポンドなど主要通貨の外貨口座を持ち、現地通貨は扱わない。

【『マネーロンダリング入門 国際金融詐欺からテロ資金まで』橘玲〈たちばな・れい〉(幻冬舎新書、2006年)以下同】

 オフショア企業の設立・管理および資産管理サービスの提供をしてきたモサック・フォンセカ法律事務所の機密情報が漏洩(ろうえい)した。ご存じ、パナマ文書である。WikiLeaksのデータ量が1.7GBであったのに対し、パナマ文書は2.6TBと伝えられる。およそ1500倍という桁外れの情報量だ。

 マネーは意志を持っている。金融マーケットに流れ込むマネーは基本的に剰余資金である。今、なぜダウ平均株価が上昇しているのか? マーケットにマネーが集まっているからだ。債券であれ通貨であれコモディティ(商品)であれ原理は一緒である。マーケットを動かすのはマネーの量である。

 そしてマネーは増殖を求めてリターンの大きいマーケットを目指す。確かな意志を持って。

 多くの人が誤解しているが、プライベートバンクは本来、「個人のための」銀行ではなく「個人所有」の銀行のことである。(中略)伝統的プラベートバンクの特徴は、オーナー一族が自らの財産で設立し、無限責任によって運営されていることだ。経営に失敗すればオーナー自身が破産するというこの仕組みが、資産の保全を臨む顧客の信用の源泉になっている。

 プライベートバンクといえばスイスが有名である。しかしながら9.11テロ以降、アメリカが断固たる態度を示し、プライベートバンクやタックスヘイブンに情報開示を迫った。もはやスイス銀行やプライベートバンクに優位性はない。テロ資金を断つために世界は共同歩調をとったかに見えた。

 マネーはグローバルな金融市場を自由に行き来するが、それを管理するのは「国家」という地理的な枠組みでしかない。プライベートバンクは市場と国家のこの制度的な矛盾を利用し、国内の法制度に穴を穿(うが)ち、司法・行政権の及ばない擬似的なタックスヘイブンをつくり出していく。

 アメリカはあろうことか自国にタックスヘイブンを用意した。デラウェア州である(世界最悪のタックスヘイブンはアメリカにある)。タックスヘイブンといえばケイマン諸島やバミューダ諸島が知られているが、いずれもイギリス領だ。で、世界最大のタックスヘイブンはロンドンのシティ(シティ・オブ・ロンドン金融特区)といわれる。結局、アングロサクソン主導で好き勝手な真似をしているわけだ。

 富裕層や大企業はなぜ租税を回避するのだろう? ハハハ、政府が愚かだからだよ。政治家は利権に基いて予算を組む。富の再分配は阻害される。政府は常に無駄な予算を組み、天下りを容認し、他方では国民に増税を求める。

 優れた国家があれば、高額な税負担は誇りとなるはずである。強い者が弱い者を助けるのは当たり前だ。チンパンジーの世界ですら利益分配は行われている(『共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール)。


 ――いまの離職率が高いのはどう考えていますか。
「それはグローバル化の問題だ。10年前から社員にもいってきた。将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」

 ――付加価値をつけられなかった人が退職する、場合によってはうつになったりすると。
「そういうことだと思う。日本人にとっては厳しいかもしれないけれど。でも海外の人は全部、頑張っているわけだ」

「年収100万円も仕方ない」ユニクロ柳井会長に聞く/朝日新聞DIGITAL 2013年04月23日

 それ(経営者としての仕事)ができないのであれば、当然ですけど、単純労働と同じような賃金になってしまう。

甘やかして、世界で勝てるのか ファーストリテイリング・柳井正会長が若手教育について語る/日経ビジネスONLINE 2013年4月15日

 二つ目のインタビューでは「『ブラック企業』という言葉は、これまでの旧態依然とした労働環境を守りたい人が作った言葉だと思っています」とも語っている。ユニクロの離職率は3年で5割、5年で8割を超える(ユニクロ 「離職率3年で5割、5年で8割超」の人材“排出”企業)。

 経営の才能はあるのだろうが人間としての魅力は全く感じられない。強欲な人間が差別を著しく助長する。使い切れないほどのおカネを持つ連中が更に稼ごうと人件費を抑制する。租税を回避するのは最高の節税対策となる。

 世界各国の金融緩和でジャブジャブになったマネーがマーケットに集まり、貧富の差を極限化している。今年から来年にかけて緩和マネーバブルも崩壊へ向かうことだろう。

 富める者を支えているのはネットカフェ難民やホームレスかもしれない。彼らの存在があればこそ低賃金労働は成り立つ。極度の貧困は国家を毀損(きそん)する。富の再分配ができないのであれば、国家というコミュニティは不要だろう。

マネーロンダリング入門―国際金融詐欺からテロ資金まで (幻冬舎新書)

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