2017-10-12

可用性バイアス/『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』レナード・ムロディナウ


『デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳』アントニオ・R・ダマシオ:田中三彦訳
『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム
『意識は傍観者である 脳の知られざる営み』デイヴィッド・イーグルマン
『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ダン・アリエリー
『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー、ブライアン・キング

 ・可用性バイアス

『感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性』高橋昌一郎
・『しらずしらず――あなたの9割を支配する「無意識」を科学する』レナード・ムロディナウ

 しかしたとえ、確率論者は一流数学者に値する、と信じるギリシア人がいたとしても、広範な記録がなされる以前の当時にあっては、なかなか一貫した理論をつくれないで困ったかもしれない。なぜなら話が過去の出来事の頻度の評価――それゆえ確率の評価――ということになると、人間の記憶力はあまりにもお粗末だからだ。
 5番目にnがくる6文字の英単語と、ingで終わる6文字の英単語では、どちらの数が多いだろうか。ほとんどの人間がingで終わる6文字の英単語を選ぶ。なぜだろうか。ingで終わる単語は、5番目にnがくる6文字の英単語より思いつきやすく、数が多いように思えるからだ。
 しかし、その推測が間違っていることを証明するのに『オックスフォード英語辞典』を調べる必要はないし、勘定の仕方を知る必要さえない。というのは、5番目にnがくる6文字の英単語のグループには、ingで終わる6文字の単語が含まれるからだ。心理学者はこの種の間違いを「可用性バイアス」と呼んでいる。われわれは過去を再構築する際、もっとも生き生きした記憶、それゆえもっとも回想しやすい記憶に、保証のない重要性を授けてしまうのだ。
 可用性バイアスの好ましくないところは、過去の出来事や周囲の状況に対するわれわれの認識をゆがめることで、いつのまにか世の中の見方をゆがめてしまうことだ。

【『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』レナード・ムロディナウ:田中三彦訳(ダイヤモンド社、2009年)】

 ランダムネス(偶然性、雑然性、不作為性)を解き明かす好著。株価の値動きは予測不可能であるとするのがランダム・ウォーク理論だ。株価は酔っ払いの千鳥足の如く次の一歩を予測することができない。仮に予測できる人がいたとするならば、世界の富をあっという間に独り占めできる。予言者に対して「だったら株価を当ててみせろ」と反論するのは本質を衝いている。

 元々確率論の世界で注目されていたランダム性だが2001年前後から量子力学や情報理論のトピックとして大きく扱われるようになった。もちろん熱力学におけるエントロピー増大則も関連している。

 日本語だと偶然性が一番ピンとくるように感じるが、エントロピーを考えると雑然性の方が正確だし、運命や宿命に対しては不作為性がしっくり来る。というわけでランダムネスに巧く対応する日本語がないので「ランダム性」と表記するのがよかろう。接尾辞の「‐ness」は性質や状態を表す。

 ヒューリスティクスソマティック・マーカー仮説ジェームズ=ランゲ説などの知識があれば面白さが倍増する。

 ロボット工学でにわかにヒューリスティクス(直感的な意思決定)が注目された。当初、ロボットが目的に沿った行動をするためにはあまりにも多くの情報が必要とされた。ドアを開けて部屋に入るだけでも、「ドアを壊さない」ことをプログラミングしなければならない。こうして「学習するロボット」が誕生した。

 ところがどうだ。認知心理学はヒューリスティクスの誤りを暴いてしまった。身も蓋もないとはこのことだ(笑)。我々の先祖は直感に頼って逃げなければ猛獣に食べられてしまったことだろう。文明が未発達な時代において「考える人」は死ぬ。だが差し迫った生命の危険が日常から薄れた現代社会においては「考えない人」が貧乏くじを引くのだ。

 宗教が往々にして「生きる実感」を人々に与えるのは可用性バイアスを強化するためだ。功徳と罰、祝福と断罪(=「保証のない重要性」)といった幸不幸の線引を自覚することで生活体験に重みを与えているのだ。

 美しい思い出は風化しない。ハハハ、そんなこたあ嘘だよ(笑)。美しい思い出は脳内で更に美しく脚色され、再構成を施され、全く別の物語になってゆく。昨日の記憶でさえ感情によって歪められ、事実から懸け離れているのだ。

 バイアス(歪み)は英知の欠如から生じる。我々の人生が労働と消費についやされる間はバイアスを免れることはないだろう。

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偶然か、必然か/『“それ”は在る ある御方と探求者の対話』ヘルメス・J・シャンブ

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2017-10-07

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2017-10-01

ヴァレリー艦長の威厳/『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン


『ボーン・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー
『レイチェル・ウォレスを捜せ』ロバート・B・パーカー
『鷲は舞い降りた』ジャック・ヒギンズ

 ・ヴァレリー艦長の威厳

必読書リスト その一

 また長い咳き込みがあり、長い間があり、ふたたび口をひらいたとき、声の調子はまったく変わっていた。それはあまりにしずかな声だった。
「私は諸君になにをたのんでいるか、よくわかっている。諸君のだれもが、いかに疲れ、いかにみじめな、苦しい思いをしているか、私にはわかる。私は知っている――だれよりも知っている――諸君がどんな目に会(ママ)ってきたか、いま諸君にとって、なにがいかに必要か、諸君が休養を得るにふさわしいか。休養はあたえられる。18日ポーツマスに入港、さらにアレキサンドリアで艦修復の予定だが、その間、乗組員全員に10日間の休暇が許される」自分にはなんの意味も持たないかのような、無造作な言葉だった。「だが、その前に――残酷な、人道を無視したことにきこえるだろうが――いや、きこえないはずはない――いまいちど諸君に、それも諸君がかつて味わったことのないほどのものに耐えてくれと、たのまねばならない。だが、私にはいかんともしがたい――だれにもしがたいのだ」ひとことごとに、ながい沈黙がつづいた。艦長の声はひくく、そして遠く、言葉をききわけるのがむずかしかった。
「だれにも、諸君にそれをやってくれという権利はない。だれよりも私にはない……この私には。だが、諸君がかならずやってくれることを、私は知っている。私は信じている。諸君が私を見すてないことを、諸君がユリシーズを送りとどけてくれることを。幸運を祈る。幸運と神のご加護を。そして、いい夜(グッド・ナイト)を」

 拡声器の音は消えた。だが、静寂はつづいた。だれもしゃべらず、だれもうごかない。目さえうごかない。拡声器をみつめていた者は、なおも呆然とみつめている。両手に目をおとしている者、疲れた目にひりひりとしみる煙も忘れて、禁じられたたばこの赤い火をじっと見ている者。それはまるで、だれもが自分ひとりになって、自分の心をのぞき、自分ひとりの考えをすすめようとしているみたいだった。ほかの者と目が会(ママ)えば、もう自分ひとりにはなれないと思っているかのようだった。それは異様な、一種幻妙な静寂、人間がおよそまれにしか味わうことのないあの無言の悟入であった。ヴェールがあがって、ふたたびおりる。人はなにかをかいま見たのか思いだすことはできないが、なにかを見たことを、二度とおなじものはあらわれないことを知っている。それはめったに、ほんと(ママ)にめったにあるものではない。それは絶妙なたぐいない日没の一瞬、偉大なシンフォニーの一断片、大闘牛士の剣があやまたず突き刺されたとき、マドリードとバルセロナの巨大なリングをつつむ恐ろしい静寂。スペイン人は、それをたくみによぶ――〈真実の瞬間〉と。

【『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン:村上博基〈むらかみ・ひろき〉訳(ハヤカワ・ノヴェルズ、1967年)/ハヤカワ文庫、1972年/原書は1955年】

「ジャック・ヒギンズを知らない? 死んで欲しいと思う」と内藤陳〈ないとう・ちん〉が見出しに書いたのは1983年であった(『読まずに死ねるか!』)。私がヒギンズを読んだのは丁度同じ頃で、それ以降ミステリや冒険小説にハマった。『鷲は舞い降りた』(ジャック・ヒギンズ:菊池光訳、早川書房、1976年/完全版、1992年)、『初秋』(ロバート・B・パーカー:菊池光訳、早川書房、1982年)、そして本書の3冊は金字塔といってよい。


 再読は一度挫けている。文章が硬質なため一定の覚悟を持たなければ読むのが困難だ。上記テキストは100ページの手前だが、ここに辿り着けば後は一気読みである。

 ヴァレリー艦長の威厳と影の濃い群像がユリシーズ号そのものであった。戦争の悲惨・矛盾を記しながらも決して子供じみた平和論に堕していない。

 フィクションということもあろうが、ここには旧日本海軍のようなビンタやリンチがない。私は日本文化をこよなく愛する者だが、日本に特有のいじめや村八分といった気風を嫌悪する。

 男の曲がった背中を正す物語として本書は永く読まれることとなるだろう。

本人名義口座間の振込手数料を0円にする方法


 ま、大したことではないのだが便利なので紹介しよう。証券会社をハブ口座として使う。ただそれだけのことである(笑)。私は「ヒロセ通商【LION FX】」を使っているのだが、対応可能な銀行がどんどん増えている。

クイック入金 約380行対応!!

 リアルタイム出金であれば14:30までなら即時に反映される。地方銀行もあるので給与を他行宛てに振り込む際も一々ATMに行く必要がない。

 尚、出金口座を変更する手間はあるが、ATMへ行くことを思えばどうってことはない。