2012-08-11

ニーチェ的な意味のルサンチマン/『道徳は復讐である ニーチェのルサンチマンの哲学』永井均


ルサンチマンの本質

 定義的にいうと、ルサンチマンとは、現実の行為によって反撃することが不可能なとき、想像上の復讐によってその埋め合わせをしようとする者が心に抱き続ける反復感情のことだ、といえますが、このルサンチマンという心理現象自体がニーチェの問題だったわけではありません。ルサンチマン自体についても、最後に問題にするつもりではありますけど、ニーチェの問題は、ルサンチマンが創造する力となって価値を産み出すようになったとき、道徳上の奴隷一揆が始まるということであり、そして【実際にそうであった】、ということなのです。つまり我々はみなこの成功した一揆でつくられた体制の中にいて、それを自明として生きている、ということがポイントなのです。この点を見逃すか無視してしまうと、ニーチェから単なる個人的な人生訓のようなものしか引き出せなくなってしまいます。
 さて、ルサンチマンに基づく創造ということに関してまず注目すべき点は、初発に否定があるという点です。つまり、他なるものに対する【否定から出発する】ということが問題なのです。価値創造が否定から始まる、だからそれは本当は創造ではなく、本質的に価値転倒、価値転換でしかありえないのです。
 狐と葡萄の寓話でいうとこうなります。狐は葡萄に手が届かなかったわけですが、このとき、狐が葡萄をどんなに恨んだとしても、ニーチェ的な意味でのルサンチマンとは関係ありません。ここまでは当然のことなのですが、重要なことは「あれは酸っぱい葡萄だったのだ」と自分に言い聞かせて自分をごまかしたとしても、それでもまだニーチェ的な意味でのルサンチマンとはいえない、ということです。狐の中に「甘いものを食べない生き方こそが【よい】生き方だ」といった、自己を正当化するための転倒した価値意識が生まれたとき、狐ははじめて、ニーチェが問題にする意味でルサンチマンに陥ったといえます。(「星の銀貨」のもつ特別な価値も、この観点から理解すべきです。)

【『道徳は復讐である ニーチェのルサンチマンの哲学』永井均〈ながい・ひとし〉(河出書房新社、1997年/河出文庫、2009年)】

 ルサンチマンというキーワードの覚え書きとして保存しておく。

 この言葉自体はキェルケゴール(1813-1855年)が確立した後、ニーチェ(1844-1900年)が鼓吹(こすい)し、マックス・シェーラー(1874-1928)が宣揚したとのこと。とすればナポレオン(1769-1821年)が近代の扉を開けて、ちょっと廊下を進んだあたりに「自我の台頭」があったと見ていいだろう。生が死によって逆照射されるように、自我は抑圧を覚えることで芽生えるのだ。

E・H・カー「民衆は、歴史以前の民衆と同じことで、歴史の一部であるよりは、自然の一部だったのです」

 永井はああでもないこうでもないと言葉をこねくり回しているが、ルサンチマンとは「劣情を正当化する物語の書き換え作業」といって構わないだろう。

 ナポレオン法典(フランス民法典)の影響も見逃せない。つまりそれまでは道徳が手を縛っていたわけだが、法律が足をも縛ったわけだ。人々は問題解決の最終手段である「暴力」を奪われた。

 簡単に結論を述べてしまおう。ルサンチマンを抱くのは「暴力を振るえない」人々である。正義と暴力には親和性がある。否、正義とは形を変えた暴力といってよい。

道徳は復讐である―ニーチェのルサンチマンの哲学 (河出文庫)

Nietzsche 1875

セヴァン・カリス=スズキ(12歳) 環境サミット1992


 こちらもカナダ人の少女だ。セヴァン・カリス=スズキは当時12歳だった。堂々たる演説である。大人たちは皆、頭から冷や水をぶっかけられたような顔つきをしている。



あなたが世界を変える日―12歳の少女が環境サミットで語った伝説のスピーチわたしと地球の約束―セヴァンのわくわくエコライフ (ぼくら地球市民)セヴァン・スズキの私にできること-森のつくりかた守りかた

「腐敗した銀行制度」カナダ12歳の少女による講演
マララさん 銃撃事件の波紋~国連スピーチ

「腐敗した銀行制度」カナダ12歳の少女による講演


 ・「腐敗した銀行制度」カナダ12歳の少女による講演

30分で判る 経済の仕組み
「Money As Debt」(負債としてのお金)
武田邦彦『現代のコペルニクス』 日本の重大問題(2)国の借金
『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康
『マネーの正体 金融資産を守るためにわれわれが知っておくべきこと』吉田繁治
『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート


セヴァン・カリス=スズキ(12歳) 環境サミット1992

【THA BLUE HERB】客演集【Ill-Bosstino】


Clammbon feat.ILL-BOSSTINO - あかり from HERE

土左衛門


 ちなみに「土左衛門」というネーミングの由来は、成瀬川土左衛門がまるで水死体のようだったからだが、この人も気の毒だ。

【『自殺のコスト』雨宮処凛〈あまみや・かりん〉(太田出版、2002年)】

自殺のコスト

2012-08-10

デイヴィッド・バーリンスキ


 1冊読了。

 40冊目『史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド・バーリンスキ:林大〈はやし・まさる〉訳(早川書房、2001年/ハヤカワ文庫、2012年)/華麗な筆致、流麗な文体でアルゴリズムを解き明かした天才本(てんさいぼん)だ。中程はまったく理解できなかったが、忍耐力を総動員する価値は十分にある。それにしても文章が素晴らしい。序盤の訳文に違和感を覚えたが、原文が相当凝った文体であるためと訳者あとがきに記されている。トール・ノーレットランダーシュ著『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』と、レオナルド・サスキンド著『ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い』は必ず事前に読んでおきたい。それも歯が立たないようであれば、以下から取り組むこと。

人類が知っていることすべての短い歴史ゲーデルの哲学 (講談社現代新書)

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)知性の限界――不可測性・不確実性・不可知性 (講談社現代新書)感性の限界――不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書)