2010-03-23

小野田寛郎の悟り


 小野田さんは、ジャングルの戦いを通じて不思議な能力が発揮された経験を持っています。一度は、夕暮れ時に友軍の周囲を敵軍によって完全に包囲されてしまったときでした。本当に命を賭けなければいけないと必死になったその瞬間、頭が数倍の大きさに膨らんだ感じになって悪寒に襲われて身震いし、その直後、頭が元の大きさに戻ったと感じると、あたりがパーッと明るく鮮明に見えるようになったそうです。

 小野田自然塾でも定番のキャンプファイアー。火を使うことで人間は大きな進化を遂げましたが、小野田さんの体験を聞くと、太古に培った野生的な能力が体のどこかで眠っているような気がします 「夕闇が迫っているのに、まるで昼間のような明るさになりました。そして、遠くに見える木の葉の表面に浮かぶ一つ一つの脈まではっきり認識することができました。そうなると、はるか先にいる敵兵の動きも手に取るように分かります。それこそ、相手が射撃をする直前にサッと身をかわして銃弾を避けることさえできると思いました」

 命を賭ける場面が、命を賭けなくても大丈夫だという自信に変わった小野田さんは、難なくこのピンチを切り抜けることができました。

 もう一度は、日本に帰還して検査のために入院していたときに分かったことでした。たとえ寝ていても、病室にやってくる人の気配を感じることができたのです。

「毎晩3回、巡寮の看護婦さんが部屋に入る前から気配を察し眼を覚ましていました。これは、島の生活を送るなかで知らぬ間に身についていた能力でした。初めての場所を偵察中、道の脇とは知らず仮眠をしてしまい、人の気配で眼を覚まし、別の場所に変えて、敵や住民をかわしたことが何度もありました。寝ていても警戒心は働いていたのです」

 力を合わせてテントを設営する子どもたち。自然のなかでいろいろな体験をすることによって、生きるための知恵や判断力が養われていきます こうした経験から、人間には普段使われていない潜在的な能力がたくさんあるはずだと、小野田さんは考えています。

「特殊な能力は、本当に必死になったときでなければ表に出てきませんから、普通の生活を送るうえで必要はありません。しかし、少なくとも危険から身を守る能力や知恵、判断力は、子どものときに体験するさまざまな動作や遊びのなかで身についていくものだと思います。

ブルーシー・アンド・グリーンランド財団

光り輝く世界/『飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ 若き医師が死の直前まで綴った愛の手記』井村和清