2014-04-17

恐怖心をコントロールする/『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英


『火の呼吸!』小山一夫、安田拡了構成

 ・恐怖心をコントロールする
 ・呼吸法(ブリージング)
 ・呼吸をコントロールする

武の思想と知恵 平直行✕北川貴英
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『BREATH 呼吸の科学』ジェームズ・ネスター

悟りとは

 日常における不安やストレス、不調、その他のありとあらゆる不快なこと。その根っこを探ってみると、多くは恐怖心に行き当たります。
 恐怖心は天災や自己といった非常事態にだけ伴うものではありません。
 日常生活のいたるところに立ち現れて、私たちの生活に大きな影響を与えているのです。
 例えば「大事な会議に遅刻をしてしまう!」と焦って先を急いでいるとき。学生が道いっぱいに広がっておしゃべりをしながら歩いていてなかなか前に進めなかったりすると、思わずカチンとしてしまったりすることでしょう。そういう「カチン」を感じたら、その奥にある感情を少し意識してみてください。おそらく遅刻によって信頼を損なう恐怖、大きな失敗へとつながる恐怖、メンツを潰す恐怖、仕事を失う恐怖、家族を露頭に迷わせる恐怖といった、実にさまざまな恐怖心を見出すことができるのではないでしょうか。このように恐怖心はさまざまな形で感情をかき乱し、あなたから正常な判断力や行動力を失わせる原因となってしまいます。
 また一見恐怖心とは関係なさそうな行為が、実は恐怖心から逃れようとする懸命な努力の表れであることもあります。夜の盛り場で過剰にはしゃぐ大学生たちは、漠然とした将来への不安を紛らわそうと必死なのかも知れません。仕事熱心と言われるような人も、その根底には他者から認められないことへの恐怖、敗北への恐怖などが原動力となっているかも知れません。メールに依存したりTwitterなどのコミュニケーションサイトにはまったりするのも、やはり他者への恐怖心が一因となっているのではないでしょうか。
 このように恐怖心から逃れるために何かに頼り、いったんその心地良さに慣れてしまうと、それがクセになってそれなしでは生きられないくらい、のめり込んでしまうこともあります。

【『ストレス、パニックを消す! 最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英(マガジンハウス、2011年)】

 システマは旧ソ連軍で採用された格闘術で長い間、機密扱いをされていたがソ連崩壊後にその内容が公開された。打撃、関節技はもとより、あらゆる武器の使用法・防御法を網羅している。私が知り得る限り、世界最強の総合格闘術といってよい。飽くまでも実戦に即しているため競技としての試合は行われない。このため格闘技とは呼称しない。

 北川はシステマ東京支部の代表を務める公式インストラクターである。文章がこなれていて驚かされた。

 戦場を支配するのは恐怖だ。恐怖心に駆られると視野は狭まり、些細なことに過剰反応を示し、自ら墓穴を掘ることになる。システマは恐怖を呼吸法で制御する。呼吸を意識することは視点をずらすことでもある。瞑想で呼吸を重んじるのはこのためだ。呼吸は自律神経で唯一コントロールできる機能でもある。

https://onologue.tumblr.com/post/82980330962/mikhail-ryabko
【システマの創始者ミカエル・リャブコ】

 恐怖は呼吸を止める。あるいは極端に浅くする。身体は硬直し動けなくなる。一種の仮死状態といってよいだろう。そこで鼻から息を吸い込むことができれば身体は直ちにリラックスする。こういうことは普段から練習しておかないと出来るものではない。ちょっとびっくりした時や慌てた時に自分の呼吸に意識を向ける。実際にやってみると驚くほど色々なことに気づかされる。身体と脳は背骨でつながっているが、たぶん呼吸でもつながっているような気がする。神経と酸素の違いだろうか。

 親に抑圧されながら育った子供は大抵声が小さい。きっと恐怖心が呼吸を浅くしてしまったためなのだろう。

 思想・哲学や宗教は真正面から恐怖にアプローチすべきだと私は思うが、クリシュナムルティ以外には知らない(『恐怖なしに生きる』)。宗教に至っては恐怖で信者を支配する有り様である。罪と罰のセットメニュー。お持ち帰りに「先祖の祟り」はいかがでしょうか?

 システマが恐怖に着目しているのは、やはりその思想性の高さによるものだろう。具体的な呼吸法については次回記す。

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