2014-04-04

長時間睡眠自慢/『イン・ヒズ・オウン・サイト ネット巌窟王の電脳日記ワールド』小田嶋隆


愛国心への疑問
ギネス認定はインチキ
個性は伸ばすものではなく、勝手に伸びるものだ
勝ち上がってくる力士
・長時間睡眠自慢

 少し前に以下のページを見つけた。面白かった。

中野翠と斎藤美奈子

 女性のコラムニスト(当初「女流」と書いたが差別用語っぽいのでやめた)といえばこの二人しか頭に浮かばない。女性とコラムは相性が悪いのだろうか? たぶん違う。女に世の中のことをあーだこーだと言われたくない男が多いだけのことだろう。中野翠〈なかの・みどり〉はどこか品を捨てきれないところがあるし、斎藤美奈子は才が走りすぎる嫌いがある。二人が長時間睡眠を自慢しているのが面白い。だが、まだまだ甘い。

 素晴らしい天気だ。昨晩の11時から朝の7時まで寝て、午前10時から午後5時まで昼寝をした。
 15時間睡眠。こんなにも素晴らしい空の下で、私はただ眠り続ける。薄もやのかかった憂悶を遠い記憶の底に沈めて。移動曲馬団の無口な象のように。もちろん夢は見ない。空に太陽のある限り。

【『イン・ヒズ・オウン・サイト ネット巌窟王の電脳日記ワールド』小田嶋隆(朝日新聞社、2005年)以下同】

 小田嶋がアルコールに耽溺(たんでき)し、ほぼ廃人に近い状況で書かれた一冊である。廃人というのは私の想像にすぎないが当たらずとも遠からずだと思う。その後、彼は酒と手を切った。

「移動曲馬団の無口な象」ときたもんだ。曲馬団ってえのあサーカスのことね。これが「サーカスの無口な象」だとニュアンスがまったく違う。サーカスの象だと何となく愛嬌を感じる。移動曲馬団だといかにも脇役という匂いがプンプンする。

頑張らない介護」でも紹介したが、「私の祈りは空しく、努力は報われず、私のささやかな願いは線路工夫の口笛のように風の中に消えてしまった」(『我が心はICにあらず』)という文章も忘れ難い。時折漂う詩情が胸を鷲掴みする。

 せっかくなんでもう少し紹介しよう。酔っ払いの名調子だ。

 なあ、ねえちゃん、言っておくぞ。あんたがセクシーなのは魅力的だからじゃない。ただ露出面積が多いってだけで、それは魅力とは別のものだ。元来、魅力というのは手の届かない存在に対して感じるものだ。それが、あんたたちときたら、手が届きそうどころか、手を伸ばすまでもなく既に剥き身で転がっている。

 これを差別と捉えるのは誤りだ。なぜなら女性の露出は犯罪を誘発する要因となり得るが、男の露出が犯罪を誘発することは考えられないからだ。露出狂はまた別の話である。

 JTの諸君は知っておいた方が良い。愛煙家は、君達を憎んでいる。愛煙家は、煙を愛しているのではない。タバコを愛しているのでもなければ、ましてJTを愛しているなんてことは、絶対にない。
 というよりも、愛煙家という名称自体が、悪質なプロパガンダなのであって、喫煙者の正体は依存症患者にすぎない。誰も好んで煙を吸い込んでいるのではない。煙を吸わないと呼吸が苦しいという自縄自縛の状態に追い込まれているがゆえに、余儀なく呼吸を楽にするために肺を傷つけている、と、それだけの話だ。
 たとえば、シャブ中を愛粉家と言うか? ジャンキーを愛針家と呼ぶのか?
 たばこ(ママ)が心の日曜日なら、シャブは夏休みか? アヘンは心の大晦日。
 で、心の日曜日は諸君の給料日で、誰の命日なんだ?

 中毒と格闘する苦しみが滲み出ている。現在、小田嶋はCS放送やラジオのレギュラーを抱えていることもあって、昔に比べると毒が少なくなった。選挙の投票にも行くようになった。まったく信じられない事態である。それでも現代の戯作者(げさくしゃ)たり得るのは小田嶋しかいない。

イン・ヒズ・オウン・サイト ネット巌窟王の電脳日記ワールド

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