・コミュニケーションの技法
・カウンセラーのパーソナリティ
・『どんなことがあっても自分をみじめにしないためには 論理療法のすすめ』アルバート・エリス
まず第一に、カウンセリングは「行動の変容」を目標にする。人間が人間を治すとか変えるとかするのは高慢である。われわれにできることは相手に共感し、あるいは理解的態度を示すことであるという人がいるかもしれぬ。しかし、反論したい。何のために共感したり理解的態度を示そうとするのか。それはそのことにより相手を助けることができるからである。助かることができるとは、相手の行動の変容に効果があるということである。「いや、そうではない。効果など計算してはいない。そうせずにおれないからそうするのだ」というならば、それはプロフェッショナルな面接とはいえない。一定時間、一定場所で料金をとって面接するからには何らかの目的がなければならぬ。目的なしに料金をとるわけにはいかない。「治すのではない、非審判的・許容的雰囲気をつくるだけだ。あとは来談者が勝手に自己を変えていくのだ」といったところで、やはり非審判的・許容的な雰囲気をつくる目的を問うならば、それは行動変容の条件として不可欠だからということになろう。それゆえ、カウンセリングは学派の如何を問わず行動の変容を目指すものといえる。では、行動の変容とは何か。反応の仕方に多様性がでてくることである。今まで父にビクビクしていた人が、父に適当に冗談が言えるようになり、上司にビクビクしていた人が、上司に「ハイわかりました」と言うだけでなく、「……ですね」と復唱して確認しておけばよいという具合に、今までとは異なる反応を学習することである。この場合、反応の仕方といっても、たとえば異人種に対する偏見のような心の中の反応と、飲酒・喫煙・麻薬常習・盗みというような外的に観察しうる反応がある。カウンセリングは、この両者の反応の変容を目指すものである。
では、行動の変容を目指すカウンセリングはいかなる手段をとるのか。それは言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションである。つまり、音声言語のやりとりや身体言語のやりとりを通して行動の変容を促進しようとするのである。
【『カウンセリングの技法』國分康孝〈こくぶ・やすたか〉(誠信書房、1979年)以下同】
1月にパソコンを新調したのだが、ホームページ作成ソフトのCDが見つからないため更新が滞っている。で、探すのも更新するのも面倒なんで、ブログに「必読書」のカテゴリーを設けた。読書の道標(みちしるべ)になれば幸いである。せっかくなんで心理学の必読書を以下に示しておこう。
・精神科医がたじろぐ「心の闇」/『平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学』M・スコット・ペック
・『自閉症裁判 レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』佐藤幹夫
・唯幻論の衝撃/『ものぐさ精神分析』
・現代心理学が垂れ流す害毒/『続 ものぐさ精神分析』
・極限状況を観察する視点/『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』V・E・フランクル
・死線を越えたコミュニケーション/『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル
岡田尊司〈おかだ・たかし〉著『マインド・コントロール』を加える予定。
そして本書である。凡百のマネジメント本が100冊束になってもかなわない一書である。「コミュニケーションの技法」として読むことが可能だ。上記テキストからも明らかなように國分は実務家である。たぶんカール・ロジャーズの名を借りて来談者中心療法を悪用するカウンセラーが多かったのだろう。因みに患者をクライアント(来談者)と呼んだのはロジャーズを嚆矢(こうし)とする。
ロジャーズの手法は高度にシステム化されており、カウンセラーの意志力なくして実践は難しい。悪用するつもりがなくても、結果的に患者を野放しにすることも容易に想定できる。ま、閉ざされたスペースで適当に仕事をしている心療内科が多かったのだろう。國分は同業者に対して「仕事をせよ!」と呼びかけたのだ。
具体的なやり取りも紹介されていて、これが大変参考になる。とにかく無駄な理論や理屈がない。どこまでも具体性に基づき、効果を検証する。臨床の鑑(かがみ)だ。
影響を受けた人物として霜田静志〈しもだ・せいし〉を筆頭に挙げている。
私が20代の頃であった。私より年上のクライエントが私の言うとおりに動いてくれて、私も何かえらくなったような気持だという意味のことを言った。「國分君、それはね、君に頭を下げているのではないよ。君の学問に頭を下げているのだよ。それを忘れちゃだめだよ」と霜田静志は私を諭した。
こういうエピソードをさらりと書けるところがまた憎いではないか。
ビジネス、スポーツ、教育で人を育てる機会がある人は必読のこと。テクニックが身につくというよりも、コミュニケーションの幅が広がる。
私は、面接のほかに読書をすすめることがよくある。自分の正当性を主張してやまない母親には霜田静志の『叱らぬ教育の実践』(黎明書房)をすすめる。生徒に好かれない教師にはニイル『問題の教師』(黎明書房)をすすめる。自分の問題点に気づきカウンセリングへの意欲を高めるのがねらいである。簡便法の一つの試みである。効果は今のところ半々である。人生計画もなく留年や登校拒否をしている青年には井上富雄『ライフワークの見つけ方』(主婦と生活社)をすすめる。これは一念発起のきっかけになるようである。
カウンセリングをする場合の著者を支えている本として以下が紹介されている。
・Ph.D國分康孝教授の最終講義
・國分康孝の談話室
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