2011-07-26

色彩のマンダラ アフリカン・アート


 今読んでいる本(『集合知の力、衆愚の罠 人と組織にとって最もすばらしいことは何か』)の表紙が気になったので調べてみた。荒々しいタッチと強調した直線で、頭上に物を載せて整然と歩くアフリカの女たちが描かれている。

Jjuuko Hoods(ジューコ・ホッズ)

 あちこち飛んでいるうちに次々とアフリカのアーティストを発見。気に入ったものを紹介しよう。

Collin Sekajugo(コーリン・セカジューゴ)


David Kigozi(ディビッド・キゴゼィ)

Anwar Sadat(アノワール・サダット)

Yusuf Ssali(ユスフ・サリ?)

 私はロバート・ハインデルの絵が好きなのだが、ディビッド・キゴゼィのタッチは驚くほどよく似ている。

AfricArt Design
Ivuka Arts

集合知の力、衆愚の罠――人と組織にとって最もすばらしいことは何か

愚行権


 人間には、愚行権があります。それは、他人が考えると愚かな行為に見えても、自分がやりたいと思うことを行う権利です。

【『インテリジェンス人生相談 個人編』佐藤優〈さとう・まさる〉(扶桑社、2009年)】

インテリジェンス人生相談 [個人編]インテリジェンス人生相談 [社会編]

2011-07-25

さようならの語源/『遠い朝の本たち』須賀敦子


 人物評価は難しい。自分の価値観や体験に照らして相手を判断するわけだが、実際は好き嫌いにとらわれているだけのような気もする。感情の後ろを理屈が追いかけている節がある。脳内では大脳辺縁系にスイッチが入った後で前頭葉が作動しているに違いない。根拠や理由というものは後出しジャンケンなのだ。

 アン・モロー・リンドバーグはチャールズ・リンドバーグの夫人である。大西洋単独無着陸飛行(1927年)を成し遂げた、あのリンドバーグだ。

 リンドバーグはヒトラーを「疑いなく偉大な人物」とたたえた。これにこたえて、ナチス・ドイツは1936、38、39年の3回リンドバーグを招いた。リンドバーグは、ドイツ空軍を視察して、その能力を高く評価した。
 多くのアメリカ人は、
「リンドバーグはナチのシンパ」
 と思っていた。

【『秘密のファイル CIAの対日工作』春名幹男(共同通信社、2000年/新潮文庫、2003年)】

 この件(くだり)を読んだ私は、リンドバーグを唾棄すべき人物と認定した。ところが数年後、菅原出〈すがわら・いずる〉によって蒙(もう)を啓(ひら)かれた。

アメリカ経済界はファシズムを支持した/『アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか』菅原出

 リンドバーグはただ自分に忠実な男であったのかもしれない。

 アン・モローは駐メキシコ大使の子女で、その文章からは鋭敏な感受性と聡明さが窺える。リンドバーグ夫妻は1931年に調査飛行で来日している。

 千島列島の海辺の葦の中で救出されたあと、リンドバーグ夫妻は東京で熱烈な歓迎をうけるが、いよいよ船で(どうして飛行機ではなかったのだろう。岸壁についた船とその船と送りに出た人たちをつなぐ無数のテープをえがいた挿絵をみた記憶があるのだが)横浜から出発するというとき、アン・リンドバーグは横浜の埠頭をぎっしり埋める見送りの人たちかが口々に甲高く叫ぶ、さようなら、という言葉の意味を知って、あたらしい感動につつまれる。
「さようなら、とこの国々の人々が別れにさいして口にのぼせる言葉は、もともと「そうならねばならぬのなら」という意味だとそのとき私は教えられた。「そうならねばならぬのなら」。なんという美しいあきらめの表現だろう。西洋の伝統のなかでは、多かれ少なかれ、神が別れの周辺にいて人々をまもっている。英語のグッドバイは、神がなんじとともにあれ、だろうし、フランス語のアディユも、神のもとでの再会を期している。それなのに、この国の人々は、別れにのぞんで、そうならねばならぬのなら、とあきらめの言葉を口にするのだ」(※ 『翼よ、北に』アン・モロー・リンドバーグ著)

【『遠い朝の本たち』須賀敦子(筑摩書房、1998年/ちくま文庫、2001年)】

 露のはかなさを思い、散る桜を愛でるのと同じメンタリティか。鮮やかな四季の冬が死の覚悟を促しているのか。潔さ、清らかさが日本人全体の自我を形成している。移ろいゆく時、墨絵の濃淡を味わうのが我々の流儀だ。谷崎は陰影を礼讃した。

 のっとるべき理(ことわり)を法(のり)という。水(さんずい)が去ると書いて法。そこに循環する未来は映っていない。ただこの一瞬を味わいつつ惜しむ達観が諦観へと通じる。

 ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例(ためし)なし。世の中にある人と、栖(すみか)とまたかくのごとし。(『方丈記』鴨長明)

遠い朝の本たち (ちくま文庫)翼よ、北に翼よ、あれがパリの灯だ

オリエント急行の殺人 (創元推理文庫)陰翳礼讃 (中公文庫)方丈記 (岩波文庫)

リンドバーグ愛児誘拐事件(アガサ・クリスティの小説『オリエント急行の殺人』の序盤で登場する誘拐事件は本事件を参考にしているとされる)

財(グッズ)と良いもの(グッド)


 財(グッズ)は必ずしも良いもの(グッド)とは限らないし、良いものは必ずしも財ではない。夕日は、だれも対価を支払わないので、財ではない。シアン化物入りの痛み止めカプセル一瓶は、対価を払う人がいるので財になる。

【『ギャンブルトレーダー ポーカーで分かる相場と金融の心理学』アーロン・ブラウン:櫻井祐子訳(パンローリング、2008年)】

ギャンブルトレーダー――ポーカーで分かる相場と金融の心理学 (ウィザードブックシリーズ)

2011-07-24

ファイト新聞社


 1冊読了。

 49冊目『宮城県気仙沼発! ファイト新聞』ファイト新聞社(河出書房新社、2011年)/よくぞカラーにしてくれた。河出書房新社に心から敬意を表する。東日本大震災で最も被害の大きかった気仙沼市。その避難所に掲げられた壁新聞が「ファイト新聞」だ。小学生4人が誰に言われたわけでもなく自発的に発行した。初代編集長は吉田理紗さん(小2)。手紙を書くのが大好きな彼女は、「みなさんに元気になってほしい」と壁新聞の発行を思い立つ。3月18日から5月2日分までが収録されているが、この間、休刊日は4月30日だけだ。毎号、4コマ漫画を掲載している。この子らのマジックに込めた力に思いを馳せる。彼女たちが発信するメッセージは復興の槌音(つちおと)となって響き渡る。