2012-01-29

レオンハルト・オイラーの偉業


 スイスに生まれたオイラーは、ベルリンとサンクトペテルブルグで研究を行い、数学、物理学、工学のあらゆる領域に絶大な影響を及ぼした。オイラーの仕事は、内容の重要性もさることながら、分量もまた途方もなく多い。今日なお未完の『オイラー全集』は、1巻が600ページからなり、これまでに73巻が刊行されている。サンクトペテルブルグに戻ってから76歳で世を去るまでの17年間は、彼にとっては文字通り嵐のような年月だった。しかし、私的な悲劇に幾度となく見舞われながらも、彼の仕事の半分はこの時期に行われている。そのなかには、月の運動に関する775ページに及ぶ論考や、多大な影響力をもつことになる代数の教科書、3巻からなる積分論などがある。かれはこれらの仕事を、週に1篇のペースで数学の論文をサンクトペテルブルグのアカデミー紀要に投稿するかたわらやり遂げたのだ。しかし何より驚かされるのは、彼がこの時期、一行も本を読まず、一行も文章を書かなかったことだろう。1766年、サンクトペテルブルグに戻ってまもなく視力を半ば失ったオイラーは、1771年、白内障の手術に失敗してからはまったく目が見えなかったのだ。何千ページに及ぶ定理は、すべて記憶の中から引き出されて口述されたものなのである。

【『新ネットワーク思考 世界のしくみを読み解く』アルバート=ラズロ・バラバシ:青木薫訳(NHK出版、2002年)】

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く



 エルデシュよりも多くの論文を著したのは史上ただひとり、18世紀スイスの万能の数学者、レオンハルト・オイラーだけである。オイラーは子供を13人作り、80巻に及ぶ数学論文を書いた。この多くが、夕食の用意ができたという最初の呼び声から次の催促の声がかかるまでの30分のあいだに書かれたという。

【『放浪の天才数学者エルデシュ』ポール・ホフマン:平石律子訳(草思社、2000年/草思社文庫、2011年)】

文庫 放浪の天才数学者エルデシュ (草思社文庫)

Wikipedia
天才計算術師オイラー
盲目の数学者オイラー
レオンハルト・オイラー生誕300年記念 数独チャレンジ 2007

Leonhard Euler

オイラーは何の苦労もなく計算をし、やすやすと偉大な論文を書いた/『数学をつくった人びと I』E・T・ベル

2012-01-25

安部公房


 昨日、1冊読了。

 5冊目『内なる辺境』安部公房〈あべ・こうぼう〉(中央公論社、1971年/中公文庫、1975年)/極太の文体である。活字が立ち上がってくるような印象を受けた。熊田一雄〈くまた・かずお〉氏のブログで見つけた文章を探すためだけに読んだ。「本物の異端は、たぶん、道化の衣装でやってくる」(「ミリタリィ・ルック」)。軍服の流行を苦々しい眼差しで捉えた論考だ。1971年といえば学生運動が頂点を過ぎた頃で、沖縄返還の前年となる。「内なる辺境」ではユダヤ人問題を取り上げているが、時代の影響を受けながらもギリギリのところで踏ん張っている。この辺りのセンスが凄い。100ページで500円。ポケットに強靭な知性が収まるなら安いもんだ。