2014-05-20

予言者ヒトラー/『1999年以後 ヒトラーだけに見えた恐怖の未来図』五島勉


「近い将来、男の性器そっくりの兵器ができるだろう。わたし(ヒトラー)の勃起(ぼっき)した男根を、何百倍にも大型化して小さな翼(つばさ)をつけたようなものだ。
 それが将来の戦争と世界を支配する。さしあたっては、それが飛んで行って英国を焼(や)き尽(つ)くす。いずれはペルシャ湾にもインド洋でも飛ぶだろう。愉快なことだ。わたしの勃起した男根が地球を燃やすことになるのだからな」
(これはもちろん、ロケットかミサイルの出現を見通した予言と受け取っていい。またそうとしか考えられない。
 その証拠に、ヒトラーはそれを予言しただけでなく、側近の前でその簡単なスケッチを描(か)いてみせた。美術学校には落第したが、彼はもともとイラストレーター志望で、絵はお手のものだった。
 そしてこのスケッチにもとづいて、ペーネミュンデ=ナチス秘密兵器研究所=の科学者たちが作り上げたのだが、有名なV1号V2号ロケットだった)

【『1999年以後 ヒトラーだけに見えた恐怖の未来図』五島勉〈ごとう・べん〉(ノン・ブック、1988年)】

 アドルフ・ヒトラーの洞察力に注目し、彼が見据えた未来を調べるべきだと五島に助言したのは何と三島由紀夫であった。


 今月、ドイツではP&Gが販売する洗剤のラベルに「88」「18」(洗濯可能な回数)と表示したところ、「極右ネオナチの隠語に該当する」と買い物客から指摘を受けて商品の出荷を中止した。アルファベットの8番目がHであり、88は「Heil Hitler」(ハイル・ヒトラー=ヒトラー万歳)で、18は「Adolf Hitler」(アドルフ・ヒトラー)を意味するらしい。ドイツでは公の場でナチスを礼賛すると、刑法の民衆扇動罪に問われる。ただし「88」を禁じているわけではない。

 過去の戦争犯罪に対する反省に徹した態度なのだろう、と以前は考えていた。ナチ・ハンターにしても同様だ。彼らは現在もナチ戦犯を追い続けている(地の果てまで追いかけるナチハンターと高齢化が進むナチス戦犯 : 残虐な人権侵害-決して見逃さない)。

 そもそもアドルフ・アイヒマンを連行した行為がアルゼンチンの主権を侵害していた(1960年)。しかも当初はサイモン・ヴィーゼンタール・センターを始めとする民間人有志の手で捕獲したと発表されたが、後年モサド(イスラエル諜報特務庁)による作戦であったことが判明している。どこか神経症的な振る舞いにも見える。

 私はナチスものを読み続けるうちにヒトラー=悪という単純な構図に疑問を抱いた。そして『ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』(ノーマン・G・フィンケルスタイン)を読んでやっとわかった。ユダヤ人による壮大なプロパガンダが。世界的という言葉よりも、世界史的レベルといった方が相応しいだろう。

 もちろん私はヒトラーを英雄視しているわけでもなければ、善人と考えているわけでもない。ただあまりにも手垢まみれとなったヒトラー=悪人という図式に与(くみ)しないだけのことだ。純粋無垢な100%の善悪を設定すること自体が子供じみている。


(V1ロケット)


(V2ロケット、以下同)






 アメリカは第一次世界大戦後、ドイツの技術に莫大な投資をしてきた。反共という目的もさることながら、ヒトラーのファンが多かったのも事実だ(『アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか』菅原出)。ドイツの技術は世界の先頭に立つほどであった。世界初の実用的ロケットとして登場したのがV2ロケットである。

 第二次世界大戦が終わるとアメリカはドイツのロケット技術者を自国に亡命させ、戦争犯罪を不問に付した。

 本書には数多くのヒトラーによる予言が紹介されているが、確かに「何かが見えていた」節が窺える。ドイツ国民の熱狂はこうした神秘性にも支えられていたのだろう。

 敗戦国であったドイツと日本が工業大国となったのも実に不思議である。

『ザーネンのクリシュナムルティ』


私たちは何をすべきか? 何から始めるべきか?/『ザーネンのクリシュナムルティ』J・クリシュナムルティ

2014-05-19

必須音/『音と文明 音の環境学ことはじめ』大橋力


 物質の世界に必須栄養、例えばビタミンが在るように、情報の世界にも、生きるために欠くことのできない〈【必須音】〉が存在する。

【『音と文明 音の環境学ことはじめ』大橋力〈おおはし・つとむ〉(岩波書店、2003年)】

 実は都会よりも森の方が賑やかな音で溢れているという。恐るべきデータである。にもかかわらず人は森で落ち着きを見出す。喧騒とは認識しない。これは滝の音を想像すれば理解できるだろう。雨の音も同様だ。うるさいのは飽くまでも屋根が発する音だ。蝉の鳴き声だって、あれが赤ん坊の泣き声なら耐えられないことだろう。

 数週間前のことだが、とある公園を通りかかった時、頭の上からざわざわという音が降ってきた。見上げると30メートルほどもある木々が風に揺れていた。まるで樹木が何かを語っているかのようだった。その音は決して耳障りなものではなかった。

 音は空気の振動である。そしてコミュニケーションも振動(ダンス)なのだ(『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』)。

 森の音が心地よいことは誰でも気づくことだ。それを「必須音」と捉えたところに大橋力の卓見がある。大橋は芸能山城組の主催者。耳と音の関係に興味のある人は必読。増刷されたようだが4400円から5076円に値段が跳ね上がっているので、興味のある人はまず『一神教の闇 アニミズムの復権』(安田喜憲)から入るのがよい。

音と文明―音の環境学ことはじめ ―
大橋 力
岩波書店
売り上げランキング: 306,396

風は神の訪れ/『漢字 生い立ちとその背景』白川静
介護用BGM 自然音

沈黙をやめよう:声をあげよう、声を出そう

小林秀雄、藤井厳喜


 1冊挫折、1冊読了。

超大恐慌の時代 私たちが生きる未来』藤井厳喜〈ふじい・げんき〉(日本文芸社、2011年)/良書。タイミングが合わず。後回し。

 33冊目『学生との対話』小林秀雄:国民文化研究会・新潮社編(新潮社、2014年)/小林の講演および質疑応答をそのまま文字に起こした作品。本書を待ち望んだ人は多いに違いない。かつて私も一部を紹介した(集団行動と個人行動/『瞑想と自然』J・クリシュナムルティ)。新潮CD講演『小林秀雄講演 第2巻 信ずることと考えること』を聴いただけでは気づかなかったことが数多く発見できた。小林秀雄は生前、講演や対談の類いを一切録音させなかったという。それは自分の意思に反して部分的に流用されることを避けるためであった。本講演は隠し録りされたもので、小林の没後に遺族の了解を得て発表した。巻末には小林が手を入れ直した『小林秀雄全作品 26 信ずることと知ること』も収録。物事の本質に迫る骨太の直観力が横溢している。ハードカバーでありながら1404円という値段に抑えたのも良心的な快挙といってよい。