「近い将来、男の性器そっくりの兵器ができるだろう。わたし(ヒトラー)の勃起(ぼっき)した男根を、何百倍にも大型化して小さな翼(つばさ)をつけたようなものだ。
それが将来の戦争と世界を支配する。さしあたっては、それが飛んで行って英国を焼(や)き尽(つ)くす。いずれはペルシャ湾にもインド洋でも飛ぶだろう。愉快なことだ。わたしの勃起した男根が地球を燃やすことになるのだからな」
(これはもちろん、ロケットかミサイルの出現を見通した予言と受け取っていい。またそうとしか考えられない。
その証拠に、ヒトラーはそれを予言しただけでなく、側近の前でその簡単なスケッチを描(か)いてみせた。美術学校には落第したが、彼はもともとイラストレーター志望で、絵はお手のものだった。
そしてこのスケッチにもとづいて、ペーネミュンデ=ナチス秘密兵器研究所=の科学者たちが作り上げたのだが、有名なV1号やV2号ロケットだった)
【『1999年以後 ヒトラーだけに見えた恐怖の未来図』五島勉〈ごとう・べん〉(ノン・ブック、1988年)】
アドルフ・ヒトラーの洞察力に注目し、彼が見据えた未来を調べるべきだと五島に助言したのは何と三島由紀夫であった。
今月、ドイツではP&Gが販売する洗剤のラベルに「88」「18」(洗濯可能な回数)と表示したところ、「極右ネオナチの隠語に該当する」と買い物客から指摘を受けて商品の出荷を中止した。アルファベットの8番目がHであり、88は「Heil Hitler」(ハイル・ヒトラー=ヒトラー万歳)で、18は「Adolf Hitler」(アドルフ・ヒトラー)を意味するらしい。ドイツでは公の場でナチスを礼賛すると、刑法の民衆扇動罪に問われる。ただし「88」を禁じているわけではない。
過去の戦争犯罪に対する反省に徹した態度なのだろう、と以前は考えていた。ナチ・ハンターにしても同様だ。彼らは現在もナチ戦犯を追い続けている(地の果てまで追いかけるナチハンターと高齢化が進むナチス戦犯 : 残虐な人権侵害-決して見逃さない)。
そもそもアドルフ・アイヒマンを連行した行為がアルゼンチンの主権を侵害していた(1960年)。しかも当初はサイモン・ヴィーゼンタール・センターを始めとする民間人有志の手で捕獲したと発表されたが、後年モサド(イスラエル諜報特務庁)による作戦であったことが判明している。どこか神経症的な振る舞いにも見える。
私はナチスものを読み続けるうちにヒトラー=悪という単純な構図に疑問を抱いた。そして『ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』(ノーマン・G・フィンケルスタイン)を読んでやっとわかった。ユダヤ人による壮大なプロパガンダが。世界的という言葉よりも、世界史的レベルといった方が相応しいだろう。
もちろん私はヒトラーを英雄視しているわけでもなければ、善人と考えているわけでもない。ただあまりにも手垢まみれとなったヒトラー=悪人という図式に与(くみ)しないだけのことだ。純粋無垢な100%の善悪を設定すること自体が子供じみている。
(V1ロケット)
(V2ロケット、以下同)
アメリカは第一次世界大戦後、ドイツの技術に莫大な投資をしてきた。反共という目的もさることながら、ヒトラーのファンが多かったのも事実だ(『アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか』菅原出)。ドイツの技術は世界の先頭に立つほどであった。世界初の実用的ロケットとして登場したのがV2ロケットである。
第二次世界大戦が終わるとアメリカはドイツのロケット技術者を自国に亡命させ、戦争犯罪を不問に付した。
本書には数多くのヒトラーによる予言が紹介されているが、確かに「何かが見えていた」節が窺える。ドイツ国民の熱狂はこうした神秘性にも支えられていたのだろう。
敗戦国であったドイツと日本が工業大国となったのも実に不思議である。