・『マネーの正体 金融資産を守るためにわれわれが知っておくべきこと』吉田繁治
・過去40年にわたって蓄積されてきた負債は返済されない
・『〈借金人間〉製造工場 “負債”の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
経済史とは、マネーの特性を戦場とする債務者と債権者の戦いの歴史であり、現在の危機はその最新の小競り合いにすぎないお見事。資本主義の本質は債権と債務にある。金を融通すると書いて金融とは申すなり。借金こそが資本主義の生命線だ。もちろん返したり返せなかったりするわけだがマネーが消えることはない。誰かが損失を被ったとしても投資されたマネーは経済市場の中を移動してとどまることがない。
【『紙の約束 マネー、債務、新世界秩序』フィリップ・コガン:松本剛史〈まつもと・つよし〉訳(日本経済新聞社、2012年)以下同】
人生の大切な時期に、人は借金をする。子供の教育費を支払うため、耐久消費財や持ち家を買うために、負債を抱える。国が借金をするのは、われわれ国民が進んで納める税金の額が国民の望む公的支出の総額になかなか見合わないためだ。
負債(debt)の別名「クレジット」(credit)はラテン語の credere (信じる)に由来する。お金の貸し借りとは、信用(クレジット)と信頼(コンフィデンス)の両方から成る行為だ。貸し手は、借り手がお金を返してくれることを信じなくてはならない。家を買う人が、賃貸よりもローンを借りるほうを選ぶのは、住宅の価格が上がるという信頼があるためだ。銀行は顧客がクレジットカードを使って借金を増やしていくのに任せる。顧客が元本と利子を返済するという信頼があるからだ。
これを与信という。現代社会における信用とは「いくら借金ができるか」(与信枠)を意味するのだ。
過去40年にわたって蓄積されてきた負債は、もはや全額を返すことはとうてい不可能だし、実際に返済されもしないだろう。ギリシャ、アイルランド、ポルトガルの債務危機は、単なる始まりにすぎない。いくつかの国、特にヨーロッパの経済情勢の悪化の原因は、人口の高齢化にある。労働者の数に対する引退者の数の割合がどんどん大きくなっているのだ。その結果、こうした国では、収入増加のペースが負債の利子の増加に追いつかなくなる。そして形式的なデフォルト、つまり借り手が負債の一部だけを返す、もしくは事実上のデフォルト、つまり通貨切り下げやインフレによって購買力を失った通貨で返済するといった事態が起こる。今後10年間の経済と政治は、この問題を中心に展開していくだろう。そして最も大きな痛手を被るのはどの社会階級、どの国になるかといったことが論じられていくだろう。
新自由主義が世界を席巻してからというもの、明らかに雇用の質が低下している。昨今のマーケットはアメリカの雇用統計に過激な反応を示すが、アメリカの失業率は求職者だけが分母となっていて、パートタイマーが増えても失業率は改善されたことになる。先進国の国内格差は拡大する一方で中流階級の没落が顕著だ。
大きすぎて潰せない企業には税金が投入される。負担するのは国民だ。つまり可処分所得が低下する中で税負担は増え続ける。これが負債の本質だ。企業は利益を出しても設備投資を手控え、内部留保や配当に回しているのは世界的な傾向だ。富は持てる者に集中し、持たざる者には負担だけが押し付けられる。
金融緩和が通貨の切り下げである。マネーストックが増えるのだから当然マネーの価値は下がる。で、物の価値が上がるかといえば中々上がらない。インフレは借金を相対的に減らす。ところがどっこいアメリカやEUはデフレに向かいつつある。
膨大なマネーが津波を起こすのも時間の問題だ。資産家の資産価値が激しく下落すれば、少しはまともな世界となることだろう。