米上院情報特別委員会は9日、2001年の同時多発テロ後にブッシュ前政権下で中央情報局(CIA)がテロ容疑者に対して行った過酷な尋問に関する報告書の要旨を公表した。水責めなどの尋問について「CIAが政策形成者らに説明していたものより残酷」とし、「正確な情報を得る手段として効果的ではなかった」と批判。詳細をホワイトハウスや議会にも伝えずに「独走」した組織を非難した。
◇同時多発テロ後実施
同委は09年から、CIAが同時多発テロ後に国外の「ブラックサイト」と呼ばれる秘密基地にテロ容疑者を拘束し、極秘に実施してきた「強化尋問技術」(EIT)と呼ばれる過酷な尋問について、内部文書などから包括的な検証を実施。報告書は6700ページを超えるもので、要旨約500ページや結論部分約20ページなどが公開された。
報告書によると、秘密基地には119人を拘束。テロ容疑者に対し、水責め▼氷風呂▼最大180時間眠らせない睡眠妨害▼子供や親に危害を加えるとの脅迫――などを行っていた。コンクリートに裸の体を固定されて低体温症で死亡したケースもあった。同委のファインスタイン委員長は上院で演説し、「強圧的な尋問手法が用いられ、一部は拷問に相当するものだった」と指摘した。
一方、EITの対象だった39人のうち7人からは何の情報も出てこなかった▼EITを受けていない拘束者も正確な情報を出してきた――などとし、EITがテロ容疑者から正確な情報を得たり、容疑者の協力を得たりするうえで効果はなかったと結論づけた。
報告書はまた、司法省に不正確な情報を繰り返し提供することで拘束や尋問の法的な側面の検証を妨げたり、ホワイトハウスや議会に対しても正確で十分な情報の提供をせず、EITの効果があると印象付けたりした、とCIAを批判。EITに対する世論の批判に対抗するため、CIAが一部メディアに不正確な情報を流して世論形成をしようとしたことなども指摘した。
オバマ大統領は09年の就任直後、ブッシュ時代の過ちを明確にして、EITを含めた残虐な尋問手法を中止した。オバマ氏は報告書要旨の公表を受けた声明で「米国の世界での地位を著しく傷つけた。こうした手法を用いることは二度とない」と拷問との決別を確約した。
【毎日jp 2014年12月10日】
【強化尋問技術(EIT=Enhanced Interrogation Technique)】
2001年9月11日の米同時多発テロを受け、国際テロ組織アルカイダのテロ容疑者らに対して米中央情報局(CIA)が実施した拘束・尋問プログラム。外傷を与えずに最大限の肉体的、精神的苦痛を与えることで、テロ計画や組織の情報を得ようとした。板に寝かせた容疑者の手足を縛り、布で目隠しをして顔に大量の水を浴びせる「水責め」などで、事実上の拷問だとの批判が強く、オバマ大統領が09年の就任直後に大統領令で禁止した。(毎日新聞 2014年12月10日 夕刊)
【拷問報告書のポイント】
○中央情報局(CIA)は世界各国で119人のテロ容疑者を拘束し、うち39人に過酷な尋問を行った。
○尋問は正確な情報や容疑者の協力を得る上で効果的ではなかった。
○顔などに大量の水を注ぐ「水責め」のほか、立たせ続けるなどして睡眠を奪う、氷水に入れる、狭く暗い部屋に長時間閉じ込める、衣服を与えない、家族に危害を加えると脅迫するなどの方法があった。低体温症で死亡した者もいた。
○CIAは批判をかわすため、ホワイトハウスや議会、メディアに不正確な説明を重ねた。
○CIAの手法は米国の名声や、人権問題で米国が長年築き上げてきた指導力に計り知れない打撃をあたえた。
(毎日新聞 2014年12月10日 夕刊)