2021-03-09

ブラックホールの予想を否定したアインシュタインとアーサー・エディントン/『宇宙はなぜこんなにうまくできているのか』村山斉


『ゼロからわかるブラックホール 時空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム』大須賀健
『宇宙が始まる前には何があったのか?』ローレンス・クラウス
・『宇宙は何でできているのか』村山斉
・『宇宙は本当にひとつなのか 最新宇宙論入門』村山斉

 ・ブラックホールの予想を否定したアインシュタインとアーサー・エディントン

・『宇宙になぜ我々が存在するのか』村山斉
・『宇宙を創る実験』村山斉編著

 20世紀の初頭に、光さえも脱出できない天体があり得ることを予想したのは、ドイツの物理学者カール・シュヴァルツシルトです。それは、アインシュタインが一般相対性理論を発表してからすぐのことでした。アインシュタインが示した方程式を解いたときに出てくるひとつの答えが、ブラックホールだったのです(ちなみに、シュヴァルツシルトは16歳で天体力学について論文を出版し、20代で名門ゲッティンゲン大学の教授になったというすごい人ですこのブラックホールの難しい計算も、実は第一次世界大戦の前線で従軍中に成し遂げたのでした。しかし惜しくもその1年後には前線で病気にかかり、亡くなってしまいました)。
 シュヴァルツシルトは、極端に小さくて極端に質量の重い天体を考えて、一般相対性理論の方程式に当てはめました。すると、光の速度でも脱出できないという解が出ます。しかしアインシュタイン自身は、シュヴァルツシルトが自分の方程式を解いてくれたことは喜んだものの、現実にブラックホールが存在するとは信じていませんでした。
 その後、インド出身の物理学者スプラマニアン・チャンドラセカールが、ブラックホールの実在を予言する発見をします。それまで星の一生はすべて第二章で出てきた白色矮星で終わると考えられていましたが、チャンドラセカールは白色矮星がある値以上は大きくなれないことを発見し、重い星はブラックホールになるはずだと予想したのです。
 これは、彼の師匠にあたる学者とのあいだで大論争になりました。イギリスの天文学者アーサー・エディントンです。
 このエディントンは、アインシュタインの一般相対性理論が正しいことを裏づける観測をしたことで有名な人物です。(中略)
 エディントンが公式の場でチャンドラセカールの発見を笑いものにしたので、チャンドラセカールはイギリスを去らなくてはなりませんでした。
 しかし、間違っていたのはチャンドラセカールではなく、エディントンでした。やがて世界中の学者たちが、チャンドラセカールの理論を受け入れるようになったのです。

【『宇宙はなぜこんなにうまくできているのか』村山斉〈むらやま・ひとし〉(集英社インターナショナル、2012年)】

 集英社インターナショナルの「知のトレッキング叢書」というシリーズの第一弾。実際の内容はハイキングレベルである。むしろ「知の一歩」と名づけるべきだろう。B6判で新書よりも横幅がある変わったサイズである。価格が安いのは薄いため。

 村山斉は5冊ばかり読んだが今のところ外れがない。読みやすい文章で最新の宇宙情報を届けてくれる。諜報(インテリジェンス)の世界では情報に対価を支払うのは当然であり、等価交換の原則が成り立つ。その意味からも私は書籍に優る情報はないと考えている。

 天才科学者ですら老いて判断を誤る。況(いわん)や凡人においてをや。世代交代の時に新旧の確執が生じるのはどの世界も一緒であろう。老境に入りつつある私も自戒せねばならない。

 相対性理論が面白いのは発見者の思惑を超えて宇宙の真理を示した点にある。アインシュタインは静的宇宙を絶対的に信じていたが実際は膨張していた。それも凄まじい速度で。科学的真理はどこまでいっても部分観に過ぎない。それでも尚、広大な宇宙の新たな事実が判明するたびに心を躍らせるのは私一人ではあるまい。

 科学の世界ですら古い巨人が後進の行く手を遮(さえぎ)るのであるから、政治の世界は推して知るべしである。私は57歳だが体力と共に知力・判断力の低下を実感している。政治家や大企業の取締役は55歳以下にするのが望ましい。長幼序ありの伝統に従うなら、老人で参議院を構成すればよい。

2021-03-04

野生動物が家畜化を選んだ/『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス


『人間の本性について』エドワード・O ウィルソン
『徳の起源 他人をおもいやる遺伝子』マット・リドレー
『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
・『文化的進化論 人びとの価値観と行動が世界をつくりかえる』ロナルド・イングルハート

 ・野生動物が家畜化を選んだ

『人類史のなかの定住革命』西田正規
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン
『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ

 新石器革命が始まった当初、地球の人口は1000万だったと見積もられているが、いまや地球上には70億を超える人々が住んでいる。人口の爆発的な増加は、人間以外のほとんどの生物にとって災難でしかない。しかし、幸運にも家畜や作物としての身分を保障されている生物にとってはそうではない。家畜や作物はわたしたちとともに繁栄の道を歩んできたのである。新石器時代以降、生物の絶滅率は、それ以前の6000万年間に対して100~1000倍になっている。タルバン(ウマの祖先)やオーロックス(ウシの祖先)など、家畜化された動物の祖先(野生原種)の多くも新石器時代以降に絶滅した。だが、家畜のなかには絶滅したものはいない。ラクダやイエネコ、ヒツジ、ヤギについては、それぞれの野生原種は消滅の瀬戸際にいるが、家畜化された子孫たちは地球上の大型哺乳類のなかで最も多い部類に入るのである。進化という観点からすれば、家畜化されて損はなかったのだ。  だが、家畜の成功にはそれ相応の代償もある。進化の主導権を握られてしまうのだ。家畜や作物がどのように進化するか、その運命の支配権のかなりの部分を、人間は自然からもぎとってしまっている。そのため、家畜や作物は、進化の過程を理解するための多くの情報をもたらしてくれる存在になっているのである。実際、家畜や作物は非常にドラマチックな進化の実例なのだ。特殊創造説〔生物の種は天地創造の6日間に神が創造したものであり、それぞれの種はそれ以来変化していないという説〕の信奉者でさえも、オオカミからイヌへの変化は進化によるものであったことを、ある程度にせよ認めてはいる。家畜の作出では、特定の形質をもつ品種を作り出すために人為選択が行われる。ダーウィンは「自然選択」(自然による選択)と「人為選択」(人間による選択)はよく似た過程だと考えていた。だからこそ、イヌやハトの人為選択について、かなり注力して議論したのである。

【『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス:西尾香苗〈にしお・かなえ〉訳(白揚社、2019年)以下同】

 新石器時代とは大雑把にいえば紀元前6000~紀元前3600年の牧畜・農耕を開始した時代である。紀元前9000年前という説もある。「イギリスの考古学者J.ラボックによって設定された時代名。打製石器に加えて磨製石器が出現し,土器も用いられた。気候が温暖となり,農耕,家畜飼育が行われた。人類は定住・集団生活に移り,ムラ国家を経て氏族国家を形成するようになる」(百科事典マイペディアの解説)。謂わばムラからクニ(≒階級社会)へと文明が階段を上った時代である。

 私は今まで野生の畸形化が家畜と考えてきた。その典型が座敷犬である。畸形同士を交配させることで小型化に成功したわけだ。ところがリチャード・C・フランシスの指摘は全く異なる様相を示している。家畜化とは共生系への移行らしい。

 世界には、牛約14億頭、豚約10億頭、羊約10億頭、鶏190億羽の家畜がいる。それに対し人口は68億人である。人間2人に対し、家畜1頭と鶏5羽の比率である。現在、地表面積の42パーセントが畜産業(家畜飼育の場所や家畜の飼料生産)に使われており、国連食糧農業機関(FAO)は「家畜は世界最大の土地利用者」であると述べている。例えば毎日グラス1杯の牛乳のためには650㎡の土地が必要であり、この面積は乳代替品(豆乳やライスミルク、アーモンドミルク)等と比較して10倍も高い。

Wikipedia

 食用作物41品目の収穫物として,世界全体で総計9.46×1015;(9.46兆)カロリーが生産された。この55%が人間の食用,36%が家畜飼料,9%がその他(工業利用やバイオ燃料)に利用された(表1)。飼料に利用された熱量の89%がロスされ,畜産物に保持されたのは12%,つまり,4%(36×0.12=4.32%)が人間の食料に変換されただけであった。換言すると,食用作物41品目中の熱量の59%(55%+4%)だけが,作物と畜産物として人間の食料として利用され,41%が非食用に利用されたりロスされたりしたことになる。

No.244 穀物を家畜でなく人間が直接食べれば,世界の人口扶養力が向上 | 西尾道徳の環境保全型農業レポート

 米は殆どが食用になっているが、小麦は2割、トウモロコシは6割が飼料用だ(PDF:世界の穀物需給の行方)。バイオ燃料は食い物を燃やすわけだから日本人からすれば罰当たりな話だ。

 本書でこれから見ていくように、多くの場合、家畜化過程をスタートさせるのは人間ではなく動物自身である。理由はさまざまだが、動物が人間のすぐそばで生活するようになるのが第一歩である。この自発的な人馴れ〔原語はself-taming」。2017年、国立遺伝学研究所が「人になつく動物の遺伝子領域を解明」と発表した。そのなかで、「自ら人に近づく」ことを「能動的従順性」としている。人間の近くに自ら近づいてきたオオカミには、この「能動的従順性」があったといえるだろう〕の過程は、主として通常の自然選択を通じて起こる。人間による意識的な選択、つまり人為選択が行われるのは、家畜化過程のもっとあとの段階である。

 衝撃の事実である。なぜこんな簡単なことに気づかなかったのだろう? 動物を無理矢理飼うことはできても慣れさせることは難しい。当初はゴミ漁りが目当てだったのだろう。やがてヒトが餌を与えると大人しく撫でられるようになった。更には自らヒトに体をこすりつけたのだろう。人間にとって犬は最良の友である(『ゴルゴ13』第130巻)。

 人間による選択がイヌの行動に及ぼした効果がドラマチックなのはいうまでもない。なかでも注目に値するのは、イヌが人間の意図を「読み取る」能力を進化させたという点だ。イヌは人間のジェスチャー、たとえば離れたところにある食べものを指さすなどの意味を理解する。野生のオオカミにはこんなことはできない。実際、人間の意図を読み取ることにかけては、人間に最も近い親戚であるチンパンジーやゴリラよりも、イヌのほうがよほど上手だ。ということはある意味、社会的認知に関しては、イヌのほうが大型類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)よりも人間に似通っているというわけだ。

 これまたビックリである。イヌとオオカミの脳の違いを調べて欲しいものである。「頭がよくなった」ということよりも「コミュニケーション能力を高めた」事実が重い。なぜならその方が圧倒的に進化的優位性が増すからだ。ここで一つ問題が浮かび上がる。高いコミュニケーション能力を進化とするならば、コミュニケーション能力が低い自閉症や発達障害をどう考えればいいのか? しかもイヌとのコミュニケーションは言葉を介さない。テンプル・グランディンは自らのアスペルガー症候群を『動物感覚』と表現した。知性は群れの形を変える。その先が今の私には見えてこない。

 ただ、野生動物が家畜化を選んだのが事実であるならば、人間が奴隷化の道を歩むのは必然と言えそうだ。



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