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2016-02-07

トム・ロブ・スミス


 1冊挫折。

偽りの楽園(上)』トム・ロブ・スミス:田口俊樹訳(新潮文庫、2015年)/田口俊樹の翻訳がいつも以上に悪く、読むに堪えない。10ページからの1ページ半で「ぼく」が15回出てくる。まるで木魚のようだ。

2013-11-29

ボストン・テラン、マルクス・アウレーリウス、池田清彦、オルダス・ハクスリー


 2冊挫折、2冊読了。

死者を侮るなかれ』ボストン・テラン:田口俊樹訳(文春文庫、2003年)/田口訳は結構出回っているが、明らかに文章の乱れが目立つ。「漆黒の道路には誰もいない。そのことが確かめられると、彼女は左右に木々が並び立つ袋小路に注意を戻す。その道を少し行ったところに水道電力局が所有し、その地区で働く従業員を住まわせている官舎が数件建っている、とチャーリーは言っていた」(16ページ)。こんな文章を読んだだけでうんざり。わずか2行に「その」が三つ。「確かめられる」という受動形も不自然だ。行動と状況が入り混じって頗るわかりにくくなっている。もっと若い翻訳家を起用するべきだ。ボストン・テランは好きな作家だけに残念。田口訳はしばらく読まないつもりだ。

自省録』マルクス・アウレーリウス:神谷美恵子〈かみや・みえこ〉訳(岩波文庫、1956年/改版、2007年)/ストア派であるがセネカと比べると見劣りする。ささっと飛ばし読み。神谷美恵子訳でなかったらこれほど読み継がれなかったような気もする。

 59冊目『科学とオカルト』池田清彦(講談社学術文庫、2007年)/勉強になった。池田本は初めて。ただし文体に臭みがあり性格の悪さが窺える。「必読書」に入れるかどうか思案中。合理性というレベルでは武田邦彦著『リサイクル幻想』といい勝負だ。「公共性」というタームが実によく理解できた。

 60冊目『すばらしい新世界』オルダス・ハクスリー:黒原敏行訳(光文社古典新訳文庫、2013年)/遂に読了。村松達雄訳で挫折しているだけに嬉しい。ザミャーチン著『われら』が1927年、本書が1932年、そしてオーウェルの『一九八四年』が1949年の刊行。オーウェルが暴力を描いたのに対してハクスリーは快楽を採用した。最初は読みにくいのだが天才的な造語センスに引っ張られ、野蛮人世界の件(くだり)から物語が膨らみ始める。シェイクスピアからの引用が銃弾のごとく放たれ、厳しいまでの純愛ドラマが展開。これぞ、ザ・ピューリタリズム。「著者による新板への前書き」と植松康夫の「解説」も素晴らしい。はっきり言って何も書く気がしなくなるほどだ。「条件づけセンター」というあたりにクリシュナムルティの影響を見てとれる。2000年前の人類も未来世界の人類も結局は鞭打たれる者を必要とし、十字架に貼り付けられる殉教者を求めたのだ。36~38歳でこれだけの物語を書けるのだからハクスリーは間違いなく文学的天才といえよう。

2016-05-30

ヘレン・ミアーズ、ラッセル・ブラッドン、猪瀬直樹、那智タケシ、他


 7冊挫折、4冊読了。

世界リスク社会論 テロ、戦争、自然破壊』ウルリッヒ・ベック:島村賢一訳(ちくま学芸文庫、2010年)/チンプンカンプン。

フェアトレードのおかしな真実 僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た』コナー・ウッドマン:松本裕訳(英治出版、2013年)/環境保全やフェアトレード認証ラベルの欺瞞を暴くノンフィクション。説明が冗長。

地震雑感/津浪と人間 寺田寅彦随筆選集』寺田寅彦:千葉俊二、細川光洋編(中公文庫、2011年)/意外と読みにくい。「天災は忘れた頃にやってくる」というのは寺田寅彦の言葉。

マキアヴェッリ語録』塩野七生〈しおの・ななみ〉(新潮文庫、1992年)/原書の雰囲気を重視する抄訳。最初に読むべきではない。

よいこの君主論』架神恭介〈かがみ・きょうすけ〉、辰巳一世〈たつみ・いっせい〉(ちくま文庫、2009年)/小学生向け君主論という体裁。えげつない小学生がぞろぞろ登場する。キャラクターは吹き出してしまうほど面白い。時間が惜しいのでやめた。

偽りの楽園(上)』トム・ロブ・スミス:田口俊樹訳(新潮文庫、2015年)/二度目の挫折。正真正銘の駄作。田口を使う出版社の姿勢を疑う。

ジョーカー・ゲーム』柳広司〈やなぎ・こうじ〉(角川グループパブリッシング、2008年/角川文庫、2011年)/悪書だ。D機関は誰が見ても陸軍中野学校がモデルになっている。中野では天皇陛下よりも日本国に価値を置いたのは確かだが、天皇陛下を軽視することはなかった。創作だから虚実を取り混ぜることに異論はないが、虚の部分が劣悪で知識がない読者は鵜呑みにせざるを得ない。戦後教育に毒されただけなのか、左翼なのかは判断がつかず。

 70冊目『悟り系で行こう 「私」が終わる時、「世界」が現れる』那智タケシ(明窓出版、2011年)/侮れない一書である。『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』と併読のこと。那智はクリシュナムルティを通して悟りに至った。私の知人にもほぼ同じ経験をした人物がいる。悟りは宗教に依らない。むしろ現代の宗教は悟りを阻害しているといえる。悟った人間の言葉に触れると、悟っていいない宗教者たちがくっきりと浮かび上がる。

 71冊目『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹(世界文化社、1983年/文春文庫、1986年/中公文庫、2010年)/一読の価値あり。猪瀬の本を初めて読んだが意外と文章に冴えがない。大東亜戦争に先立って全国各地からBest and brightest(最良にして最も聡明な)エリート達が招集された。設立された総力戦研究所は模擬内閣を組み、戦争のあらゆる事態をシミュレーションする。その結果が「昭和16年の敗戦」であった。当時、陸相であった東条英機も彼らの研究を知っていた。そして実際の戦局はほぼシミュレーション通りに進行する。本来であれば皇族内閣とするはずであったが、戦争責任が及ぶことを考えて天皇に忠誠心の厚い東条に白羽の矢が立った。本書は東条のマイナス部分に関しては殆ど触れていない。また南京大虐殺を歴史的事実として描いている点が気になった。

 72冊目『ウィンブルドン』ラッセル・ブラッドン:池央耿〈いけ・ひろあき〉訳(新潮社、1979年新潮文庫、1982年/創元推理文庫、2014年)/34年振りに再読。今読んでも全く古くなっていない。テニス小説としても十分に通用することだろう。巻半ばからスリラーと化す。ツァラプキンとキングの友情もさることながら、ソ連の現実がきちんと盛り込まれている。唯一の難点は捜査陣に魅力がないところ。それにしてもミステリ界で北上次郎を重んじる風潮が全く理解できない。

 73冊目『アメリカの鏡・日本 完全版』ヘレン・ミアーズ:伊藤延司〈いとう・のぶし〉訳(角川ソフィア文庫、2015年/角川文芸出版、2005年『アメリカの鏡・日本 新版』/アイネックス、1995年『アメリカの鏡・日本』)/新書で抄訳版も出ているが、「第一章 爆撃機からアメリカの政策」と「第四章 伝統的侵略性」が割愛されているようだ。頗る評判が悪い。完全版が文庫化されたので新書に手を伸ばす必要はない。むしろ角川出版社は新書を廃刊すべきである。「占領が終わらなければ、日本人は、この本を日本語で読むことはできない」とマッカーサーは書簡に記した。GHQが恐れた一書といってよい。ミアーズは東洋史の研究者で、戦後はGHQの諮問機関である労働政策委員会の一員として来日した。原書は1948年(昭和23年)に刊行。戦前のアメリカ政府とあまりに異なる内容のためミアーズの研究者人生は閉ざされたようだ。私は打ちのめされた。アメリカに敗れた真の理由を忽然と悟った。アメリカにはミアーズがいたが、日本にミアーズはいなかった。近代以降の日本はアメリカの鏡であった。遅れて帝国主義の列に連なった日本は帝国主義の甘い汁を吸う前に叩き落とされた。本書を超える書籍が日本人の手によって書かれない限り、戦後レジームを変えることは困難であろう。

2015-12-19

輪島祐介、アーナルデュル・インドリダソン、他


 11冊挫折、2冊読了。

やせる!血糖値が下がる!「タマネギ」レシピ』(マキノ出版、2013年)/「タマネギ氷」が目新しい。要ミキサー。薬効強調路線。マキノ出版はオカルト健康系で知られる。悪い本ではないが少し離れた位置から読むべきだろう。

山川 詳説日本史図録』詳説日本史図録編集委員会編(山川出版社、2013年)/良書。

山川 詳説世界史図録』詳説世界史図録編集委員会編(山川出版社、2014年)/良書。世界地図の移り変わりが面白い。地球環境の変化も視点がよい。

オルタード・カーボン(上)』リチャード・モーガン:田口俊樹訳(アスペクト、2010年)/文庫本。造語センスについてゆけず。田口の訳文はもたもたした感じがあってあまり好きではない。

詳説世界史研究』木下康彦、木村靖二、吉田寅編(山川出版社、2008年)/微妙。冴えがない。面白味のない参考書といった体裁。

変見自在 スーチー女史は善人か』高山正之(新潮文庫、2011年)/著者名の正字は「はしご高」。声の悪さ、話しぶりの不透明さがとにかく好きになれない人物である。エッセイの主題は歴史の真実よりも朝日新聞を叩くところにある。それでも世界各国に身を置いてきただけあって時折、優れた知見を光らせる。

業務スーパーに行こう!』株式会社エディキューブ編(双葉社、2013年)/ほぼカタログ。知らない商品がいくつもあった。ま、店の規模にもよるのだろう。自社生産の多さには驚いた。

流れ図 世界史図録ヒストリカ』谷澤伸、甚目孝三、柴田博、高橋和久編(山川出版社、2013年)/図録は人によって好き嫌いが分かれる。安い(929円)とはいえ、使わぬ物を買うのは愚かである。図書館で参照してから選ぶとよい。

最新世界史図説タペストリー』桃木至朗監修、帝国書院編集部編、川北稔(帝国書院、2015年)/『ヒストリカ』よりはこちらが好み。

ホームには誰もいない 信念から明晰さへ』ヤン・ケルスショット:村上りえこ訳(ナチュラルスピリット、2015年)/ノンデュアリティ(非二元)という言葉を調べるために読む。具体的なワークの件(くだり)で挫折。スピリチュアリズムというスタイルから離れる必要があるように思う。

日本の軍閥 人物・事件でみる藩閥・派閥抗争史』(別冊歴史読本、2009年)/写真と図のみ評価。記事はバラバラでまとまりを欠く。柴五郎は不遇な時期が長かった、とある。薩長閥についてもよくわからず。

 170冊目『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン:柳沢由実子訳(東京創元社、2013年)/単行本で出すだけの価値あり。CWAゴールドダガー賞とガラスの鍵賞受賞。半世紀前の事件を巡って現在と過去が交錯する。それにしても暗く重々しい。アイスランドの気候もさることながら、破綻の中で辛うじて踏みとどまる家族の姿がのしかかってくる。主人公のエーレンデュルにもさほど魅力はない。っていうか魅力的な人物は見当たらない。で、そこにリアリズムを感じるかといえばそれほどでもないんだな、これが(笑)。それでも読ませる。ぐいぐい読ませる。一日半で読み終えた。

 171冊目『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』輪島祐介(光文社新書、2010年)/いやはや面白かった。戦後の風俗を巡る書籍で本書に並ぶものはない。井上章一著『つくられた桂離宮神話』を軽々と凌駕する。渡辺京二著『逝きし世の面影』、水野和夫著『資本主義の終焉と歴史の危機』に伍するレベルである。批判の鋭さにおいても一級品だ。しかも嫌味がない。「之を知る者は之を好む者に如(し)かず。之を好む者は之を楽しむ者に如かず」(『論語』)の手本といってよい。該博な知識がオタク性をまといながらも、恐るべき下半身の力で学術性を堅持している。輪島は1974年生まれでありながら、左翼勢力が文化を通してプロパガンダを行ってきた事実をも穿(うが)つ。恐れ入りました。「必読書」入り。

2011-05-03

中野剛志、ウィリアム・カムクワンバ、スティーヴン・ウェッブ、大正大学仏教学科、ルネ・フェレ


 過去ログごと引っ越そうとたくらんだのだが、面倒なのでやめた。五十の坂に近づきつつあるので、ムダな仕事に時間を費やすと人生が短くなってしまう。ってなわけで、書評と雑文はこちらに書き、はてなダイアリーはニュースとリンクをメインにする予定。動画は「斧チャン」へ。一つのブログを三本立てにしたってわけ。「クリシュナムルティの智慧」は保留。ま、書評ったってメモ書きに毛の生えたような代物だが参考にしていただければ、これ幸い。

 4冊挫折、1冊読了。

 挫折15『自由貿易の罠 覚醒する保護主義』中野剛志〈なかの・たけし〉(青土社、2009年)/中野はやはり文章がよくない。論文調で読みにくい。もっと軽いものを書いた方がいいと思う。

 挫折16『風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった』ウィリアム・カムクワンバ/田口俊樹訳、池上彰解説(文藝春秋、2010年)/これはいい本だ。ただし50歳近い大人が読むべき作品ではないだろう。アフリカ人の文章は口承の伝統があるので実に読みやすい。気持ちが豊かになる。

 挫折17『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由 フェルミのパラドックス』スティーヴン・ウェッブ/松浦俊輔訳(青土社、2004年)/フェルミのパラドクスを勉強しようと思って読んでみた。半分過ぎたところで中止。トピックごとの章立てとなっているので全体の物語性に欠け、山がない。科学的思考を学ぶには好著といえる。

 挫折18『仏教とはなにか その思想を検証する』大正大学仏教学科編(大法輪閣、1999年)/前半100ページが素晴らしい。あとの200ページは大体知っているから私には必要がなかった。仏教の入門書としてはよくできている。記述も正確だ。仏教が学問として深まらないのは、宗派や教団が阻害しているため。

 32冊目『クリシュナムルティ 懐疑の炎』ルネ・フェレ/大野純一訳(瞑想社、1989年)/発売元はめるくまーる社。フランス人らしく哲学的アプローチを試みているが上手くいっているとは言い難い。そう思うのは、私が哲学的素養を欠いているためかもしれない。クリシュナムルティ本はこれで48冊目。

2011-06-29

神への信と不信


 祖父母は神以外に自分たちを殺せるものなど何もないと思っており、同時に神を信じていない。

【『卵をめぐる祖父の戦争』デイヴィッド・ベニオフ:田口俊樹訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2010年)】

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)

2011-06-26

科学と魔術


 科学の奇跡と出会うまで、ぼくの世界を支配していたのは魔術だった。

【『風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった』ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー:池上彰解説、田口俊樹訳(文藝春秋、2010年)】

TED:William Kamkwamba on building a windmill

風をつかまえた少年

2013-10-26

トム・ロブ・スミス、綿本彰、矢上裕、金哲彦、ル・クレジオ、ファリード・ザカリア、他


 11冊挫折、5冊読了。

民主主義の未来 リベラリズムか独裁か拝金主義か』ファリード・ザカリア:中谷和男〈なかたに・かずお〉訳(阪急コミュニケーションズ、2004年)/竜頭蛇尾。ただし4分の3だけ読んでも十分お釣りがくる。民主主義の発生についてはフランス・ドゥ・ヴァール著『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』が参考になる。

秘密結社』綾部恒雄〈あやべ・つねお〉(講談社学術文庫、2010年)/アウトライン的内容。たぶん労作だ。巻末の「世界秘密結社事典」が有益。

儀礼としての消費 財と消費の経済人類学』メアリー・ダグラス、バロン・イシャウッド:浅田彰〈あさだ・あきら〉、佐和隆光〈さわ・たかみつ〉訳(講談社学術文庫、2012年)/たぶん良書。ひょっとしたら名著かも。しかしながら私の知識ではついてゆけず。

意味の変容・マンダラ紀行』森敦(講談社文芸文庫、2012年)/文章がしつこい。

海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』ル・クレジオ:豊崎光一、佐藤領時訳(集英社文庫、1995年)/訳文が肌に合わず。ある作家の初めて読む作品に挫折してしまうと他の作品を読む気が失せる。その意味でも翻訳が重要だ。

悪魔祓い』ル・クレジオ:高山鉄男訳(岩波文庫、2010年)/こちらは翻訳が素晴らしい。ル・クレジオによるインディアン讃歌だ。類を見ない文体の華麗さである。後半は飛ばし読み。ちょっと濃過ぎる。

ボルツマンの原子 理論物理学の夜明け』デヴィッド・リンドリー:松浦俊輔訳(青土社、2003年)/翻訳名は統一してもらいたいもんだ。『そして世界に不確定性がもたらされた ハイゼンベルクの物理学革命』(デイヴィッド・リンドリー)と比較すると控えめな内容で華に欠ける。3分の1ほどで挫ける。

帰ってきたソクラテス』池田晶子(新潮文庫、2002年)/ソクラテスが現代社会の問題に答える、という設定が巧い。若い人にはオススメ。

唐詩選(上)』前野直彬〈まえの・なおあき〉注解(岩波文庫、2000年)/10年後に再読しようと思う。唐詩選偽作説についても率直に書かれている。ただ偽作であったとしてもこれに優る入門書はあるまい。

ディアスポラ』グレッグ・イーガン:山岸真訳(ハヤカワ文庫、2005年)/巨匠グレッグ・イーガンのSFはとにかく難しい。哲学書並みだ。

たいした問題じゃないが イギリス・コラム傑作選』行方昭夫〈なめかた・あきお〉編訳(岩波文庫、2009年)/全然面白くなかった。

 48、49冊目『エージェント6(上)』『エージェント6(下)』トム・ロブ・スミス:田口俊樹訳(新潮文庫、2011年)/トム・ロブ・スミスに外れはない。今のところは。レオ・デミドフ三部作の完結編。矛盾を抱えた家族が国家に翻弄される様を見事に描いている。ラストまでしっかり謎を残し、ミステリの王道をゆく。

 50冊目『DVDで覚えるシンプルヨーガLesson』綿本彰〈わたもと・あきら〉(新星出版社、2004年)/ヨガを習いにゆくと思えば安いものだ。入門書としてはよい出来だと思う。見ていると簡単そうなんだが、実際にやると中々きつい。私は「サルのポーズ」で一旦あきらめ、煙草を吸いながらDVDを見終えた。ヨガの難点は時間のかかるところ。

 51冊目『DVDで覚える自力整体』矢上裕(新星出版社、2005年)/あまりよくない。ヨガの方が断然いい。

 52冊目『「体幹」ウォーキング』金哲彦〈きん・てつひこ〉(講談社、2010年)/それほど大したことは書いていないのだが、肩甲骨と骨盤の姿勢について卓見が示されている。これだけでも読む価値あり。「胸を張る」のではなく「肩甲骨を寄せる」といううのがミソ。

2010-07-07

ミステリ界に光を放つ超大型新星/『チャイルド44』トム・ロブ・スミス


 ・ミステリ界に光を放つ超大型新星

『子供たちは森に消えた』ロバート・カレン
『グラーグ57』トム・ロブ・スミス
・『エージェント6』トム・ロブ・スミス
・『偽りの楽園』トム・ロブ・スミス

ミステリ&SF

 老練なプロットと引き締まった文体から、トム・ロブ・スミスが20代の若者であることを想像するのは難しい。作品の舞台となったロシアでは発売禁止になっている。つまり、ロシアの現実が描かれているものと考えてよいだろう。

 一人の男の再生物語であり、男の半生はスターリン体制下のソ連とピッタリ重なっていた。

 主人公のレオ・デミドフは国家保安省(※KGBの前身)の優秀な捜査官だった。それは、彼が「人民の敵」であることを意味していた。逮捕した相手からこんなことを言われたこともあった――

「私はこの国を憎んでなどいないよ。憎んでいるのはむしろきみのほうだ。この国の人々を憎んでいるのは。そうでなければどうしてこんなに多くの人たちを逮捕したりなどできる?」

【『チャイルド44』トム・ロブ・スミス:田口俊樹訳(新潮文庫、2008年)以下同】

 異常な世界で評価されるためにはロボットと化す他なかった。それにしても旧ソ連の実態は酷い。同僚はありとあらゆる手段を駆使して足を引っ張り、賞罰が明らかでなければ怠け放題だ。階級闘争が階級内闘争を生み、無限の連鎖となって社会の至るところにストレスを与えていた。

 ある事件をきっかけにして、レオ・デミドフは体制に疑問を抱くようになる。健全な懐疑は真理の扉を開く。ソ連は寸足らずの衣服を国民に与え、「手足を縮めるよう」命令を下していた。寒い国だから手足を縮めるのはお手の物だ。

 国は詩人を必要とはしていない。哲学者も宗教家も必要としていない。国が必要としているのは、寸法と量が計れる生産性。ストップウォッチで計測できる成功だ。

 有罪となって死ぬことはもう避けられない。この社会のシステムはどんな逸脱も誤謬(ごびゅう)も認めていないからだ。見せかけの効率。それはここでは真実よりはるかに重要なものなのだ。

 唯物論は人間をモノとして扱う。マルクスは国家を暴力的に転覆することを高らかに宣言した。思想はどの思想も正義のマントを羽織っている。思想が暴力を肯定すると、人間の情動にブレーキが掛らなくなる。ソ連では至るところで拷問が行われた。ある時は容疑者に対して、そしてまたある時は罪なき市民に対して。共産主義は国民を恐怖で支配する体制だった。

 レオは同僚の讒言(ざんげん)によって田舎の警察署へ左遷させられる。警察署の上司は彼を煙たがった。長年連れ添った妻との関係も上手くいっていなかった。そんなある日のこと、幼児の虐殺死体が発見される。レオは一人で調査を開始した。同じ手口の犯行が別の場所でも行われていた。間違いなく連続猟奇犯の仕業だった。

 自由のない国で、しかも犯罪の事実を隠蔽(いんぺい)する社会主義国で、どのようにして正義を実現するか――これが本書のモチーフになっている。

 誰かのために立ち上がることは、取りも直さずその誰かの運命の裏地に自分の運命を縫いつけることだ。

 立ち上がれば、もう座り直すことはできなかった。あとは前に進むか、殺されるかという選択肢しか残されていない。レオは立ち上がった。殺された44人の子供達の家族のために。

 冒頭のエピソードがラストで花火のように爆発する。並大抵の衝撃ではない。登場人物は皆が皆、ソ連という政治システムの犠牲者だったのだ。トム・ロブ・スミスはシステム化された暴力を描き出すことで、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』的なミステリを創出している。

 ロバート・ラドラム亡き後のミステリ界を照らす、超大型新星の登場だ。

  

2010-07-15

自由のない国と信頼のない家族/『グラーグ57』トム・ロブ・スミス


『チャイルド44』トム・ロブ・スミス
・『子供たちは森に消えた』ロバート・カレン

・自由のない国と信頼のない家族

『グラーグ ソ連集中収容所の歴史』アン・アプロボーム
・『エージェント6』トム・ロブ・スミス
・『偽りの楽園』トム・ロブ・スミス

 チト苦しい。ストーリーが破天荒すぎて、あちこちに無理がある。「初めに事件ありき」といった印象を受けた。

チャイルド44』の続編である。それだけで期待は膨らむ。異様なまでに。過度な期待はおのずから厳しい眼差しとなる。傑作の後の駄作を許さないのは当然だ。

 それでも「読ませる」のだから、トム・ロブ・スミスの筆力は凄い。

 自殺も自殺未遂も鬱病(うつびょう)も――人生を終わらせたいと口に出すことさえ――国家に対する誹謗(ひぼう)中傷と見なされる。より高度に発達した社会には自殺もまた存在しえないものなのだ。殺人同様。

【『グラーグ57』トム・ロブ・スミス:田口俊樹訳(新潮文庫、2009年)以下同】

 ソ連は何も変わっていなかった。理想と現実とは懸け離れ、その距離を嘘で埋めていた。社会主義国はバラ色でなくてはならない。たとえ現実が灰色であったとしても、人々は「バラ色です」と答えることを強いられた。

 前作同様、家族がモチーフになっている。レオ・デミドフは二人姉妹の子を養子に迎えたが、姉のゾーヤはレオを憎んでいた。

 ゾーヤはいまだにレオを保護者と認めていなかった。両親を死に追いやったレオを今でも赦(ゆる)していなかった。レオのほうも自分を父と呼ぶことはなかった。

 レオがゾーヤの両親を殺したわけではなかったが、幼子の目にはそのように映った。自由のない国と信頼のない家族。二重の苦しみをレオはどう克服するのかが読みどころだ。

 突然ソ連に変化が生じた。フルシチョフがスターリンを批判したのだ。

 彼らが今耳にしているのは国家を批判することばだった。スターリンを批判することばだった。ラーザリはいまだかつてこのような形でこのようなことばが語られるのを聞いたことがなかった。恋人同士のあいだでさえ囁かれることのないことばだった。寝棚の囚人同士が囁き合うことさえ。そんなことばが彼らの指導者の口から語られたのだ。それも党大会で報告されたのだ。それらは書き取られ、印刷され、装丁され、こうしてこの国のさいはての地にまでたどり着いた。

 この収容所が「グラーグ57」だった。ここから荒唐無稽な筋運びとなる。既に家出をしたゾーヤは悪党の一味に加わり、ハンガリー動乱の扇動を行うといったもの。

 レオは前作と比べると明らかに老いが目立っている。本書ではレオという主人公の人物造形が凡人と超人の間で揺れており、それが物語を中途半端なものにしている。ゾーヤの落ちぶれようも救いがなく、全体のトーンが暗く明暗のアクセントを欠いている。

 このシリーズは三部作で完結する予定らしいが、次の作品はじっくりと時間をかけて再び傑作をものにして欲しい。

2011-06-06

デイヴィッド・ベニオフ


 1冊挫折。

 挫折25『卵をめぐる祖父の戦争』デイヴィッド・ベニオフ/田口俊樹訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2010年)/120ページで挫ける。文章は大層巧みなのだがプロットが肌に合わず。主人公が卑屈すぎて、コーリャとの対比が残酷さを帯びている。たぶん作品の問題というよりは、私が年をとりすぎていることに原因があるのだろう。注目すべき作家であることは間違いない。